none
ページトップへ
ソルティガ開発ストーリー x 村越正海 & 開発スタッフ
初代ソルティガの開発コンセプトは
丈夫で長持ち、壊れないリール

村越正海(以下、村越):初代ソルティガの開発は、「丈夫で長持ち、壊れない、その代わり多少重くなっても構わない。理想として、10年間モデルチェンジは行わない」。そんなソルト専用のリールを作ろう!というコンセプトでスタートしたんだよね。

堤わたる(以下、堤):開発スタートは2000年です。汎用スピニングリールしか存在しない時代で、まず壊れそうな要素を、すべて排除することを考えました。

村越:逆転防止のストッパーレバー、そしてオートベールリターンをそぎ落としたよね。コンセプトを具現化するため、設計者として考えたことは具体的にどんな内容だったのかな?

堤:初期性能を上げることが一番でした。ソルティガ開発の2年くらい前にデジギアの開発がスタート、初期性能の向上に大きく貢献しました。次に、高めた初期性能を維持するため、防水性能が必要でした。防水性能なくして耐久性は確保できませんからね。完全防水の技術開発は、ゼロからのスタートで、かなり大変でしたね。

初代ソルティガの設計を担当し、ソルティガというブランド名の生みの親でもある、堤わたる。

村越:パッキンで完全防水をする時代だよね。初期性能を高め、ボディを防水する。それから?

堤:あとはやはりドラグですね。大型魚を掛けるとドラグワッシャーがすぐに焼けちゃう、という状況でしたから、材料の選択からすべてを見直しました。

村越:初代ソルティガはかなり画期的なリールとして世に登場したと思う。最初の合言葉は10年だったけど、最終的には9年でモデルチェンジした。僕は抵抗したけどね。改良を加える、ということでモデルチェンジとなったけれど、どういうきっかけで進んだの?

堤:初代ソルティガは防水のためのパッキンを外して使うと非常に巻き心地が軽く、快適に使えることは分かっていました。防水はしたいけれど回転の重さをどうにかしたい、とずっと考えていました。それを解決するマグシールドという答えに、10年経たずに辿り着いた。これがモデルチェンジの最大の理由です。

初代SALTIGAのプロトモデル
汎用でなく、ソルト仕様のリールとして始まったソルティガの開発。ソルトゲームに対応できるよう、デジギアを中心に高めた初期性能を、長期維持するように、パッキンによる完全防水を施した渾身の一台だった。

村越:10年経ってないのにモデルチェンジは約束が違う、という気持ちが9割を占めるなかで、現場で実際に使ってみた。聞けばパッキンを外した、という。それだけでこんなに軽いの? それだったらモデルチェンジすべきだ、と思ったよ。とにかくマグシールドは衝撃的だったな。

堤:10ソルティガではメインシャフト周りをマグシールド化しました。その後、マグシールドボールベアリング(以下BB)の開発に成功、次のモデルチェンジにつながりました。

村越:14ソルティガEXP、15ソルティガにはマグシールドBBが搭載されたんだよね。ハンドル軸受けはもちろん、とくにラインローラー部にマグシールドBBを使ったプロトモデルの巻き心地の軽さは、さらに衝撃だったね。

堤:マグシールドBBは、すべてのリールのために開発された技術を、ソルティガに応用したものです。とりわけ、ラインローラー部は、常に負荷が掛かるし、回転性能も要求される。海水が入るリスクも大きい。ここにマグシールド化されたBBを搭載できれば、飛躍的に回転性能が上がるのは必然でした。

村越:モノ作りは大きく2つのやり方があって、ひとつは現場からの要求を形にする方法。もうひとつは技術者がいいものを見つけた、いいアイデアを思いついたから、これを何かに応用しよう、となる方法。ソルティガの開発に当てはめると、スタートは前者。10ソルティガからは後者、と言えるね。それが20ソルティガにつながっている。

堀江博典(以下、堀江):先輩方が作られてきたソルティガですが、耐久性という点をもっと追求してみたいと感じていました。

村越:使う側の多様性という問題も出てきたしね。

堀江:そうした多様性を織り込んだうえで、20ソルティガの設計テーマとしては、具体的にボディ、ギア、ローターの耐久性向上を課題としました。まず、ボディそのもの、ハウジングの剛性を見直しました。大きな変化はモノコックボディの採用です。これでたわみなどをまず減らし、さらにボディの塗装や表面処理を根本から見直し、より耐蝕性に優れた、高耐久なものに変更しました。

村越:ギアに関しては?

堀江:ギアは、より強化して軽さも確保したいという狙いがありました。そのための一歩として、まずサイズを大きくするという考え方を採用しました。しかし、ギアサイズが上がるとどうしても重くなる。そこで材質を見直しました。結果、当社が開発にも携わっているG1ジュラルミンという超高強度アルミを採用しました。従来モデルほどの硬度はありませんが、その分、サイズを大きくし、厚みを増すことで、結果的に重量を変えることなく強度アップを達成できました。
ローターに関しては初代がアルミ、10と14、15はザイオン製でしたが、20ではアルミを採用しています。たわみという側面に関してはアルミに軍配が上がります。より剛性を求めた結果の変更です。ただ、ザイオン製とアルミ製ではアルミ製が倍近く重くなってしまう。そこで、可能な限り回転慣性を下げるための設計を施しました。また、アルミはたわみが少ないため、肉抜きなども含めて、よりタイトに設計できました。結果、回転慣性を小さくすることができ、回転レスポンスは15ソルティガと同様、そのうえで剛性をアップすることができました。

村越:ワンステップ、ツーステップ上がったものに仕上がった、という印象かな。

15モデルの完成度はとても高いが
耐久性では足りない部分があった

堀江:はい。我々の比較対象としても、15ソルティガはかなり高いレベルにあります。そこからさらに耐久性を上げることができたという点には満足しています。

村越:たしかに15ソルティガはかなり完成度が高いリールだからね。だからこそ20ソルティガは、使ってすぐにこれはいい、って誰もが感じられるかは、分からない。初期性能の良さだけを求めたリールではないからね。5年、10年と使って、あらためてこれ凄いよね、と思わせられる耐久性。これが一番大事だろうね。

上野勇人(以下、上野):スプール周りの設計担当としては、多くの市場の要望を反映したつもりです。近年は一般アングラーがこれまで以上に手軽に大物にチャレンジできる機会が増えてきています。そんななかで太いラインをもっとたくさん巻き込め、かつ快適に使いたいという要望が多かった。たとえば、これまでの5500番サイズでは、PE6号を巻く場合270mしか巻けない。300mを巻き切りたいという声です。

村越:高価なラインを30m捨てなければいけないの?って話だからね。

上野:でも、多く巻くことだけを考えると、今度はスプールリングまでの余裕がなくなってしまい、キャスト時にトラブルが起きやすい。そこで今回は、14000番でPE6号を300m、しかも余裕を持って巻き込むことができる、ということを主眼に置き、スプール形状の設計を行いました。
また、LC(ロングキャスト)ABSを採用したことでキャスト時にラインが放出される螺旋形状がより整えられ、ライントラブルを抑制、結果として飛距離アップも達成できました。

ソルティガの名に恥じぬものができたと語る上野勇人。20ソルティガの開発、とりわけスプール周りを担当。

村越:テスト段階でもキャスト時に関するトラブルは記憶にないね。

上野:ドラグに関しては、滑らかさと耐久性に着目して設計を行いました。

村越:耐久性とはどういう意味の耐久性? 長期使用に対して? それとも一発のランに対して?

上野:一発のラン、ロングランに対しての焼きつきへの耐久性です。20ソルティガのドラグは、15ソルティガの耐久性の10倍以上を実現できました。ここまで耐久性を上げられた要因としては、まずドラグワッシャーの数を増やし、ワッシャーの接触面積を従来モデルと比較して208%、つまり2倍以上を確保できたこと。さらに、従来よりもワッシャーを小径にしたことで、同じ速度でラインを引っ張った場合、従来モデルよりも滑り速度を小さくすることができました。ワッシャーが小さくなってしまうと、基本的にはドラグを締め込んだ時のドラグマックス値は小さくなりますが、ワッシャーの枚数を増やすことによって従来以上の耐力を得ることができる設計になっています。

村越:径が小さいと心細い感じはするけれどね。

上野:それはまったく大丈夫です。また、ワッシャー径が小さくなったことの副産物として、ドラグの滑らかさが向上し、スティック感(※ラインが不安定に出ていく現象)が減少しました。

村越:どんな速度であっても同じようにドラグは滑らかに追従しやすくなっているということ?

上野:そうですね、従来モデルと比較した場合、どんな状況でもスティック感は出にくいと言えます。

村越:20ソルティガでは、これまで以上にスティック感が出にくく、硬いロッドを使ってもドラグの滑らかさを得られるとなれば、これまで以上に釣りの幅が広がっていきそうだね。

上野:はい。加えて、ドラグワッシャーは小径になりましたが、ドラグノブの面積は大きく、従来比で約1・5倍となっています。大きくした理由は放熱性を高めるためです。金属製にして表面積を大きくすれば、それだけ放熱性が高まる、という狙いからです。

村越:それは実釣でいえば、放熱効果を高めることによって、より安定したドラグ性能を得ることができる、ということ?

剛性を飛躍的に高めたモノコックボディ
ギア、ローター、すべてをより強化した
20SALTIGAプロトモデル
ソルトシーンの期待を一身に背負いながら、実釣テストが繰り返された20ソルティガのプロトモデル。写真右は14000 番、左は20000 番。スプール形状の違いなどがあり試行錯誤の跡がみられる。

堀江:そうです。大型になったドラグノブは、操作性も向上します。しっかり握ることができるよう、形状にも配慮しています。

村越:ドラグノブが大きいということは、実感としても大きなメリット。ドラグ性能がよくなればなるほど、ドラグを締め込んだ状態での釣りができるようになる。でも、負荷の高い状態になればなるほど、ドラグ操作はやりづらくなるからね。

これまで以上の耐久性と快適性を実現できたと、堀江博典。20ソルティガの心臓部開発を主に担当した。

堀江:従来モデルより実用域としての最大値も上がっています。今回は20㎏くらいでも滑らかで安定した滑り出しになるよう設計できました。かなり締め込んだ状態からでも滑らかにラインが滑り出してくれます。

村越:それは番手に関係なく?

堀江:はい、構造的にはそう言えます。たとえば、14000番では実用性のある範囲として25㎏付近まで滑らかです。

村越:以前のモデルより、すごくドラグ数値が上がっているね。

堀江:もっとドラグの最大値がほしいという要望に応えました。

村越:いいことづくめのようだけど、いろいろ壁もあったと思う。設計者としての苦労話はある?

上野:スプール周りを担当したので、ドラグワッシャーは苦労しました。ラインキャパシティの問題もあって大きくはできない。その制約のなかで、小径のワッシャーでも大丈夫、ということを、社内でもデータを揃えてしっかり説得、証明していくことが大変でした。

村越:小径では・・・・・・、といういままでの常識を壊しながら開発を進めたということだよね。

堀江:私の場合はギアですね。ギアが強くなったことで、メインシャフトが曲がるのは想定外でした。いままでは思い切り力をかけると、ギアのベースが変形するということが多かったんですが、今回は逆になってしまった。最初から見直しをしてギアシステムの最適バランスを追求しました。

ソルティガブランドの魂が
脈々と受け継がれ、より進化している
ソルトゲームの黎明期からさまざまなシーンに携わってきた村越だが、ソルティガブランドへの思い入れはとりわけ深い。

村越:最後に、設計者としてユーザーにアピールしたいことは?

上野:昔から壊れないものが好きで、釣りが好きになって、この会社に入ったからにはソルティガの開発に携わってみたい、という思いがありました。今回、機会をいただいて、アングラーの期待に応えられる、ソルティガの名に恥じないものを作ることができた、という自負があります。いまは多くの人に使っていただきたい、という心境ですね。

堤:実はソルティガという名前は僕が作った言葉、造語です。ソルティガというブランドが初代からここまでつながって、非常にいいものに育ったな、と感慨深く思っています。現在、私自身はソルティガを作る立場ではありませんが、ソルティガの魂というものが脈々と受け継がれ、より進化して、多くのアングラーの方に喜んでもらえているという状況は嬉しく思います。

堀江:さらなる耐久性と快適性を実現でき、より多くのアングラーに満足していただけるものができたと思っています。皆さんの記録を塗り替えるような魚を獲っていただきたいと思います。

村越氏所有の歴代SALTIGA
使い倒され、歴戦の傷が数々の思い出とともに刻まれた、村越所有のソルティガ。初代から20ソルティガまでブランドスタートから約20年。モデルチェンジを経ても当初のコンセプトは受け継がれている。

村越:僕自身は今回、最初にソルティガブランドを立ち上げたときのコンセプトが、20ソルティガに引き継がれている、ということに安心感を感じた。目指すところは変わっていない。頂は一緒だなと。それを崩さない限り、モデルチェンジを繰り返していくごとにいいものになっていくはず。20ソルティガがその山の何合目なのかは分からないけれどね。

日々繰り返される実釣テスト。開発者とテスターの二人三脚が、前作を超え続けるモノ作りの原動力だ。
PROFILE
村越正海(むらこしせいかい)。ショア&オフショア、ソルトゲームのパイオニアとして、ソルティガブランドのスタートから深く関わってきた。
COLUMN
Reel Technology
Angler's Impression