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川と釣りと……
今月の川 栃木県・鬼怒川、那珂川、思川

今回は栃木県下を流れる川が舞台。鬼怒川は栃木県のほぼ中央を南北に貫く利根川水系の大河川。その西側を並行して流れる思川も、渡良瀬川を介して利根川に注ぐ。上流域は支流の黒川や関東随一の透明度を誇る大芦川とともに前日光を潤す渓流として釣り人の人気も高い。そして当連載『川と釣りと好きなものと』でも紹介した清流・那珂川。いずれも今回の主役であるサクラマス・ヤマメが棲む川だ。

遡上するサクラマスの姿を探して川沿いを歩く

「アウトドアヴィレッジ発光路の森フィッシングエリア」でサクラマスを釣った後、そのすぐ横を流れる思川と、その支流の大芦川を少し歩いた。10月初旬、季節は秋……といえば、川ではサクラマスの繁殖シーズン。関東随一の透明度を誇る大芦川を支流に持つ思川は、渡良瀬川と合わさって鬼怒川に注ぐ。色づき始めたばかりの紅葉を楽しみながら、しばし水面越しの砂礫底にサクラマスの姿を探した。周囲よりうっすらと白く見えるところが数カ所。メスの掘り跡のようにも思えたが、親魚はもちろん明確な産卵床を見つけることもできなかった。

大芦川にあった1mほどの小さな滝。サクラマスならば軽く乗り越えて行くだろう。上ってくる魚を狙っているのだろうか、アオサギが一羽佇んでいた。
大芦川の下流域。ここまでくると、イワナやヤマメの生息する渓流然してくる。9月下旬、この辺りはすでに禁漁期となっていた。
プールの岩陰に浮いて流れてくる虫を食べていたイワナ。すでに釣り人を怖れる季節は終わり、産卵期を迎える前の穏やかなひと時。

栃木県にはサクラマスを釣ることができる自然河川が少なくても4本ある。鬼怒川水系の鬼怒川本流と思川、渡良瀬川。そして2021年に当連載の「川と釣りと好きなものと」で紹介した、関東地方を代表する清流の那珂川とその支流だ。

冷水を好むサクラマスは、北はロシアにも生息し、日本での分布域の中心は北海道となる。日本海側は福井県の九頭竜川など山陰地方まで分布するが、太平洋側では関東地方までとなり、栃木県の川はそのほぼ南限だ。サクラマスは分布の南限に向かうにつれて海に降る割合が減る。前編にも書いたが、海に降らない(あるいは降る前の)サクラマスは、かの有名なヤマメである。北海道ではオスの半数、メスのほぼすべてが海に降るが、宮城県の石巻あたりになると、ほとんどのオスは海に降ることをやめ、ヤマメとして一生を河川で過ごす。太平洋側の南限近くである栃木県あたりだと、オス・メスともほとんどがヤマメとして一生を終えるため、そもそもサクラマス自体がとても貴重な存在となってくる。

栃木県はとても川が多い。山あいを刻む清流域ではアユやサクラマス、渓流域ではヤマメやイワナが釣り人を楽しませてくれる。
栃木水試のすぐ横を那珂川が流れる。9月下旬とはいえ、川面に照り返す日差しは夏を感じさせるものだった。
橋に飾られた魚のレリーフ。アブラビレがあるからアユかヤマメか、もしくはサクラマスだろうか?

釣り人がサクラマスを増やす力になる

全雌三倍体のサクラマスを開発した栃木県水産試験場(以下、栃木水試)はまた、栃木県下の自然河川に遡上するサクラマスの調査も行っている。栃木県の遊漁対象魚種と言えば中流域のアユと上流域のヤマメ・イワナが主だったところだが、近年はアユ人気にやや陰りが見えてきているようだ。一方で、アユと同じ中流域で春先から楽しめる本流のサクラマス釣りに人気が集まっているという。

水産試験場とは、水産業に貢献する研究を行う機関である。現在は那珂川など一部を除けば専業の職漁師はほぼいないから、内水面の水産業と言えば養殖業と遊漁がメインとなる。養殖で作られた魚の出荷先も釣り場であることが多く、実際のところ栃木水試の研究内容の9割以上は釣りの振興に関連する課題だという。こうなると我々釣り人のための機関と言っても言い過ぎではないのではないか。

また、栃木水試ではサクラマスの産卵床調査など各河川における資源量の把握に加え、耳石を分析することで回遊履歴の推定も行っている。耳石とは魚の体内にある聴覚に関わる器官であり、そこに刻まれた年輪状の模様を分析することで、海洋生活の時期などの推定ができるという。この研究により、那珂川のサクラマスの多くは海洋生活が5カ月ほどと極端に短い短期降海型であることがわかった。また、鬼怒川のサクラマスは「戻りヤマメ」とも呼ばれているが、実際のところ海までは降っていないこともわかっている。海に降る準備段階の銀毛にはなるが、海までは降らずに、水生昆虫など餌資源の豊富な鬼怒川の本流に留まり、そこで40㎝ぐらいにまで成長するといった生活史が明らかにされている。そもそも緯度の違いによって海に降る割合が変わるように、サクラマスの生活史は環境の違いより多様性に富んでいるが、栃木県内のサクラマスもまた、多様な生活史を持っていることが明らかとなったのだ。

「釣り人の方々が那珂川や鬼怒川でサクラマスや戻りヤマメの釣りを楽しまれていることはわかっていましたが、これらの魚がどのような生態を持っているのかは、まだわからないことだらけです」。こう話すのは、栃木水試でサクラマス調査の担当をしている水産研究部指導環境室の小原明香さん。2016年より続けている那珂川水系上流域の産卵床調査では、2019年の台風19号で甚大な影響を受けたこともあり、年々確認できる産卵床数が減ってしまっているという。管轄の漁協ではサクラマスや戻りヤマメの資源を増やすためにヤマメの稚魚放流が行われているが、効果のほどはよくわかっていない。前述の耳石分析により、那珂川のサクラマスは短期降海型であることが確認されている。ならば、この地域特有のサクラマスを増やそうと、彼らが海に降るタイミングに時期を合わせた放流計画を立てているという。うまくいけば約5カ月後に母川回帰するサクラマスの数も増えるはずだが、それが成功であるかどうかを知るのもまた、雲をつかむような話だという。

サクラマスの耳石を見るためのプレパラート。とても小さい器官であることがわかる。
耳石に刻まれた年輪状の模様を見ることで海洋生活期などの情報を読み取れる。
2011年から2016年にサクラマスから抽出されたDNAサンプル。これを解析することで遺伝的な関係性を知る手がかりとなる。

そんな情報不足を補うため、栃木水試は全国でもほとんど例をみない試みを行っている。それは情報収集に釣り人の協力を仰ぐという試みだ。

「釣り人参加型の情報収集は今年で5年目になります。釣れた川と区間、大きさ、釣法のほか、標識の有無や口の中の色などを聞いています。いただいた情報をまとめて2~3週間おきにウェブサイトなどにアップして、釣り人の方々へのフィードバックも行っています」と小原さん。この試みを始めてから、栃木県の川でサクラマスや戻りヤマメが釣れるという認知度が高まった。さらに釣りに訪れる人も増えたという。昔から人知れず釣っていた人にとっては釣り人が増えることのマイナス面もあるだろうが、おおむね好評をいただいているとのことだ。

「継続的に情報収集を続けることによって、釣れ方に年変動が見られることがわかりました。サイズ分布もわかりますし、お写真をメールで送ってくださる方もいますから、そこからも様々なことがわかります。ここまでまとまったサンプルを水産試験場のスタッフだけで得ることはできませんから、とても助かっています」

今、全国的に川や湖など内水面の釣り場が抱えている問題のひとつは漁協の経営難だ。川に魚がいて、それを求めて釣り人が集まり、釣り人の遊漁料を元に種苗を仕入れ、それを放流することで増殖を図る。この循環が回っているうちはよかった。だが、どこかに綻びが生じると悪循環に陥ってしまう。河川環境の悪化、種苗価格の高騰、冷水病などの疾病、カワウや外来の魚食魚による捕食被害、さらに温暖化の影響もあるかもしれない。これらが重なり釣れる魚が減れば、釣り人も遊漁料も減ってしまう。また、なかばボランティア同然に運営に関わってきた組合員の高齢化も深刻だ。さらに生物多様性保全の観点からは、他河川の系統をもつ魚の放流も問題視されている。あらゆる面で、内水面の漁場管理は岐路に立たされていると言えるだろう。

自然環境に少し手を加えて繁殖の手助けをする人工産卵床の造成や、その川の環境に適応した野生魚や天然魚を増やすための管理法など、近年になってわかってきたことも多い。だが、実際にどれほどの釣り人がどれぐらい魚を釣っているかなど、実際に釣れる魚が増えたか減ったかを知る手がかりもなければ、釣りによる資源への影響を知る手立てもほとんどない。効果的だと思ってとられた対策を評価する根拠すらない状況が続いているのだ。

栃木水試が全国に先駆けて行っている試みは、今後の釣り場管理にとって重要な意味を持っている。釣り場情報の公表と共有には良い面と悪い面が同居するが、少なくても釣り人のために研究を進める水産試験場に釣り人が協力するのは妥当なことだし、協力した釣り人に芽生える自意識は釣り場の未来にとって悪いものではないはずだ。

栃木県のウェブサイトから見ることのできる「サクラマス・本流ヤマメ・戻りヤマメ情報」。那珂川、鬼怒川、渡良瀬川、思川でサクラマスなどを狙う釣り人に釣った魚の情報提供を呼びかけている。釣りのための研究に釣り人が協力できる場が用意されているのは、釣り人にとっても喜ばしいことだ。
釣り人の釣獲調査を担当する栃木水試の小原明香さん。保全研究を行っているミヤコタナゴの水槽の前で。
国の天然記念物であるミヤコタナゴ。保全のための継代飼育と研究が続けられている。
ミヤコタナゴが産卵をする「産卵母貝」であるカワシンジュガイも希少な二枚貝。
水産試験場は近隣の小学校の課外学習の場にもなっている。身近な自然環境を知る貴重な体験になっていることだろう。

那珂川に上ってきたサクラマス

10月中旬、どうしても栃木県の川に上ってくるサクラマスの存在を感じたく、今一度東北自動車道を北上した。目指すは短期降海型サクラマスのいる那珂川だ。2021年の当コラム「川と釣りと好きなものと」に出演していただいたリバーラインの綱川孝俊さんに同行してもらい、良質な砂礫底をもつ山あいの支流を歩いた。綱川さんはかつて栃木水試に勤めており、前述の耳石分析の研究にも中心的存在として関わった。その綱川さんもここ2年ほどは遡上するサクラマスを見ていないという。

川に着くとすぐ、ヤマメの産卵行動を見ることができた。サクラマスとヤマメは種としては同じ魚だから、当然同じ時期に産卵をする。25㎝ほどのオスがしきりにメスに体をすりよせながら、下流側にいる小型のオスを追い払う。産卵行動中のペアはどれだけ見ても見飽きない。彼らにとってサクラマスはどのような存在なのだろう? それまで川にいなかった40㎝を超える大魚が突然目の前に姿を現す。巨大化した同胞を、本能は瞬時に受け入れるのだろうか。

那珂川上流域。当日はちょうど低気圧の去ったタイミング。サクラマスは雨で動く魚だから、観察には絶好の日和だった。
支流にかかった橋の上からヤマメの産卵行動を観察することができた。少し見づらいが上の方に写っている2匹がペアの雌雄。写真の下側に写っているオリーブ色の背中をしたヤマメはペアの後方で放卵・放精のタイミングをまつ小型のオス。その瞬間、自らも飛び込んでメスの産み落とした卵に精子を放つ。
中央の白っぽくなっている所がおそらく産卵床。黒っぽい珪藻類に覆われた石をひっくり返すので、このように白くみえる。ヤマメかサクラマスかは大きさで予測するしかないが、これは長径で1mほど。
別の産卵床と思わしき場所を水中から撮影。このような砂礫底がサクラマスやヤマメ、イワナの産卵には必要不可欠。
この産卵床には中央にヤマメが1匹乗っていた。掘り起こし行動は見られず、この産卵床を掘ったメスであるかどうかは不明。
ヤマメの産卵床に近づいて撮影をする綱川さん。那珂川の魅力をハンドクラフトや食、釣りなど複合的に発信する活動は当コラムのバックナンバー「川と釣りと好きなものと」でも紹介。

綱川さんが数年前にサクラマスの産卵床をいくつか見たという支流を歩くと、うっすらと白くなったそれらしき痕を1つ2つ見つけることができた。そしてヤマメが産卵するには少し流れが強すぎる瀬に、オリーブ色の大きな影がひとつ揺れている。サイズは40㎝に届くかどうか。しばらく観察を続けると、その影は突如体を横に倒して波打たせた。体側が鈍く光る。産卵床を掘る雌だ。間違いない。問題は、このメスが大型のヤマメなのか、もしくはサクラマスか……。

確認できるチャンスは一瞬、体を横に倒して砂礫底を掘る前後だけだ。数回の掘り起こしの後、ちょうど水面の波立ちが収まったタイミングに体を倒す瞬間が重なった。オリーブ色の背中と、体側には鮮やかなピンク色が揺れた。

「見ました? 間違いないですね」と綱川さん。見た。間違いない。サクラマス特有の婚姻色だ。

水面の波が収まった一瞬、オリーブグリーンの背中と淡いピンク色の横縞模様を確認することができた。間違いなく海から遡上してきたメスのサクラマスだった。

当日、見ることのできたサクラマスはこの1匹だけだった。だが、さらに上流で枝分かれしているやや急峻の支流に、明確な産卵床を2つ見つけることができた。掘り起こされている大きさから、ヤマメではなくサクラマスのメスが掘ったものだろう。その支流は産卵に適した砂礫場が少ないことから栃木水試の調査でも見逃されていた場所だと綱川さんが言う。色づいた広葉樹がトンネルのように覆いかぶさるヤマメというよりもイワナが釣れそうな美渓だった。

管理釣り場で釣れる銀ピカのブランドサクラマス。自然河川に今も命をつなぐ南限のサクラマス。海のない栃木県が誇る内水面の釣り。釣り人のひとりとして楽しみながら、協力しながら、これからも見守っていきたいと思った。

こんな山深い渓にもサクラマスが掘ったと思われる産卵床を見ることができた。サクラマスは海と山をつなぐ存在なのだ。

写真・文:若林 輝

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