 |
誤解を恐れずにいえば、村上晴彦は実にわがままな男である。気に入らないことは絶対にやらない。好きなように生きている。だが、自分の世界を切り拓く時は超人のごとく集中する。1997年にハートランドZが誕生して以来、村上晴彦はその「ノリ」で幾多の傑作を生み出してきた。
「こだわりの釣り、こだわりの竿」という一貫したコンセプトのもとに、さまざまな提案を繰り返してきたハートランドは、釣果至上主義に対するアンチテーゼとして完全にひとつのジャルンを築いたのかも知れない。魚なりに遊べる竿があることを気付かせてくれたのである。だからこれだけ長い歴史を刻むことが出来たのだろう。
村上晴彦の原点は琵琶湖である。ハマからの遠投、そして漁港でのセコ釣り。その両極端から全ての発想がスタートしてきたが、最近では海釣りなどの別ジャンルからインスパイアされたテイストがふんだんに漂ってくる。
例えばベイトキャスティングタックルでのシーバス釣りなど、当初は異端的な存在だったものも、いまではすっかり定着している。アジングやカワハギ釣りなどの感覚も、氏にかかるとバスロッドにおける可能性を模索するファクターのひとつだ。
同時に、村上晴彦は意外と新技術に目ざとい。自分の発想を具体化できるテクノロジーを見つけると、躊躇なく採用する。それで過去の作品をブラッシュアップできるとなれば、意欲的に採り入れる。DAIWAの技術力が可能にさせた、カーボン素材で成型されたガイド「AGS」をバスロッドで初めて採用したのもハートランドだった。
2013年に発表された「冴掛レベルディレクション」は「AGS」の革新的な感度とキャスタビリティーとメガトップによるしなやかさで、全国のアングラーの度肝を抜いた。その村上がスーパーメタルトップという超弾性チタン合金による次世代穂先に着目して「使わない手はないやろ」と動き出したのは当然すぎるほど当然である。そもそも村上は無類の穂先フェチだからだ。たとえベイトキャスティングロッドでも、繊細な穂先に仕事をさせることを是としている。そんな村上が2016年、2つの個性的作品を生み出した。 |
|
元祖「ツネキチスペシャル」、「別誂ツネキチスペシャル」と続いたセコ釣りロッドの集大成である、’03にリリースされた「冴掛ミッジディレクション」が新しい穂先を得て生まれ変わった。いわば「超繊細なセコ釣り」ともいうべき世界を開拓したのである。
「日本一、いや世界一面白い竿が出来たで。こんな竿、DAIWAでしか出来んやろ。変な竿やで。最初に手にした時は『?』という感じやろ。でも、使ってもらったら分かってもらえる。細糸の良さを生かしたセコ釣り竿は、大きい魚に行きがちな釣り人の目からウロコを落としてくれると思う。小さい魚でも、十分楽しめるんやで。」
しかしこれらのアイテム、単に穂先の進化だけから生み出されたものではない。それをフォローするガイドセッティングなどにも新技術が採用されている。まさに留まることを知らない村上ワールドの真骨頂がここにある。 |
 |
|
|