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未来を拓く源流新時代の幕開け ~全国源流の郷協議会~
全国各地の河川の最上流に位置する自治体が結集し、平成17年11月に「全国源流の郷協議会」が発足しました。 日本の源流域は、国土保全や環境保全の最前線に位置しており、河川の流域だけでなく、我が国にとっても非常に重要な地域となっています。会員一同その責任を自覚し、源流域の環境などを保全に務めておりますが、源流の恵を共有する流域の皆さんと一緒に活動していくことが必要です。 当協議会では、源流地域の重要性を多くの方々に理解していただき、源流域が存続していけるよう源流基本法の制定などを提案し、その実現に取り組んでおります。
大阪工業大生が挑む源流域の課題(吉野川紀の川源流)
大学生の心を動かした源流の村の話
 2020年春、大阪工業大学で「源流学」の授業が始まった。吉野川紀の川源流に位置する奈良県川上村と連携して行う授業だという。「源流学」では何を学び、何を目指すのか。そして、「源流学」とはいかにして誕生したのか。源流の美しさとともに、源流地域が抱える課題を見聞きしてきた源流探検部としては、ぜひ知りたいところ。そこで、この授業を担当する大阪工業大学講師・横山広充先生に話を聞いた。  大阪工業大学の「源流学」。それは、源流地域のさまざまな課題を見つけ出し、テクノロジーを活用して解決策を考えるものだと横山先生は話す。  「ロボティクス&デザイン工学部の課題解決型授業の一つに、『ものづくりデザイン思考実践演習』という科目があります。その前期の授業として、『源流学』を開講しました」  課題解決型授業とは、学生が自分で課題を見つけ、その解決策を探るというもの。  文部科学省も推進しており、今、教育現場では積極的に取り入れられている(※1)。  「源流学」を受講できるのは、「ロボティクス&デザイン工学部の3学科(ロボット工学科・システムデザイン工学科・空間デザイン学科)の希望者です。初年度の2020年は、空間デザイン学科10名、システムデザイン工学科1名の計11名が受講しました」  授業を全面バックアップするのは、吉野川紀の川源流にある奈良県川上村だ。水源地の原生林を村で買い上げ、水源地を中心とした村づくりを行っていることで知られる。この連載でも第13回、第14回、第33回で取り上げている。  「源流学」の授業は14回あり、「前半の5回は川上村の方々にオンラインで講義をしていただきました。栗山忠昭村長をはじめ、地域おこし協力隊や林業者の方々など、いろいろな方に川上村についてお話しいただき、その感想をみんなで共有しました」  通常なら前期は4〜7月に行われるが、2020年度はコロナ禍で授業開始が5月になったうえ、オンライン授業を余儀なくされた。それでも、前期の中盤には対面授業が許可された。そこで、学生は3チームに分かれて課題やその解決策を話し合ったという。
大阪工業大学で行われている「源流学」の授業は、新しいテクノロジーについて学ぶロボティクス&デザイン工学部の学生が受講できる。
 「本来ならば川上村でフィールドワークを行い、学生にはそこで感じたことから課題を見つけてもらう予定でした。しかし、コロナ禍でフィールドワークができなくなってしまって・・・。学ぶうちに村を身近に感じるようになっていた学生たちは、とても残念がっていました」  それでも、源流の村の人々に直接話を聞くことは大学生の心を動かしたようだ。  「栗山忠昭村長が詳しく教えてくださった村の歴史の話は特に印象的だったようです。川上村ではかつて、かなりの戸数がダム湖の底に沈みました。私たちが子どもの頃はそうしたニュースを見聞きする機会もありましたが、今は新たにダムが建設されることも少ないので、学生たちにはショックだったようです」
源流がエンジニアの成長を後押し
 自分たちの知らなかった出来事や、人々の暮らし。オンラインという形であっても、リアルな声を聞くことで、学生たちはさまざまな課題や解決策を見つけていったという。  残る後半の対面授業では、「大学と川上村役場をオンラインでつなぐようにしました。学生たちが出した課題解決策に水源地課の加藤満さんからフィードバックをもらい、さらにブラッシュアップするというスタイルです。授業の終盤にはワークショップや最終発表会を開き、チームごとに発表を行いました」  3チームが行った提案は、  ① 遠隔地医療のシステム構築  ② 川上村のネイチャーツアーと近隣の学校をつなぐネットワークの構築  ③ 空き家を移住者促進やゲストハウスの活用にネイチャーツアーを絡めてSNSで発信 というもの。  「川上村が抱える問題の一つが、都市との物理的な距離です。例えば、大きな病院に行くにも時間がかかりますし、買い物に行くにも車が必要です。そうした問題も、IoT技術などのテクノロジーの活用で解決する可能性があります。学生の提案を村ですぐに実行するのは難しいでしょう。しかし、川上村の方々には、発表を通して遠隔地医療のシステム構築に関する情報をはじめ、若い世代が求めているものや、その価値観などを把握していただけたようです」
学生たちは3班に分かれて源流の村の課題とその解決策を話し合い、ワークショップと発表会で村に提案を行った。
 豊かな自然を残しながら、いかに新しいテクノロジーで人々のQOL(Quality of Life)を上げることができるものか・・・。そのためには技術をどう使い、社会をどう見るべきか、という観点が必要だ、と横山先生は話す。  「日本にはいろいろな技術があるものの、その技術を組み合わせて新しい製品やサービスを生み出すということがなかなかできていません。だからこそ、これからの技術者には、違う分野の人々と協力し、課題解決をしていく力が求められています。源流の村と関わって多くをインプットし、そこから課題をどう発見するか・・・。どの技術をどう使い、解決策をどう提案するか・・・。こうしたチームとしての課題解決力を学生たちに養ってほしいですね」
理系学生が自然に触れる大きな意味
 実は、大阪工業大学と川上村が組むのは、これが初めてではない。同大と村は2010年7月に連携協定を結び、さまざまなプロジェクトを行ってきた。環境にやさしい車・ソーラーコンバートEV、IoTやセンサーネットワークを使った桜のライブキャスト、蓄光ガラスタイルの自然照明システムなど、環境に配慮したテクノロジーの活用が学生の手で実現している。廃校になった小学校をリノベーションするプロジェクトには、当時大学院生だった横山先生も参加したという。
大阪工業大学の正規授業「源流学」を担当している横山広充先生。釣り好きでもあり、VRを利用して川上村の豊かな自然を発信する研究を行っている。
水源地の村づくりを行う川上村には豊かな自然が残っている。 この村は吉野川紀の川の源流に位置しており、大阪工業大学とさまざまな取り組みを行っている。
 また、横山先生はVRを使って川上村の自然を発信する研究などを行っている一方、個人的にも趣味の釣りで何度も訪れるなど、川上村との関わりも深い。川上村の魅力をどう感じているのだろうか。  「川上村の魅力は、やはり源流の美しさです。大阪の都市部から比較的簡単に行ける場所にこれだけきれいな源流が残っているのは貴重だと思いますね。ロボティクス&デザイン工学部の学生は、テクノロジーや新しいものへの興味が旺盛です。だからこそ、テクノロジーの入っていない源流という自然を訪れ、これからのものづくりに繋がるインスピレーションを受けてもらいたいですね」  この「源流学」は、2021年度も行われている。  「状況を見ながらの判断になりますが、今年はなんとかフィールドワークを行いたいですね。村の協力を得ながら、学生たちが行きたいところに行き、会いたい人に会えるようなものにしたいと考えています」  大学と源流の村が積み重ねてきた信頼関係から生まれた「源流学」。若きエンジニアとテクノロジーの力が村にどんな変化をもたらすのか。その変化はきっと、多くの源流の村にとって参考になるはずだ。  この大阪工業大学×川上村の「源流学」の今後に期待したい。 写真提供=大阪工業大学、川上村(風景)  文=吉田渓