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未来を拓く源流新時代の幕開け ~全国源流の郷協議会~
全国各地の河川の最上流に位置する自治体が結集し、平成17年11月に「全国源流の郷協議会」が発足しました。 日本の源流域は、国土保全や環境保全の最前線に位置しており、河川の流域だけでなく、我が国にとっても非常に重要な地域となっています。会員一同その責任を自覚し、源流域の環境などを保全に務めておりますが、源流の恵を共有する流域の皆さんと一緒に活動していくことが必要です。 当協議会では、源流地域の重要性を多くの方々に理解していただき、源流域が存続していけるよう源流基本法の制定などを提案し、その実現に取り組んでおります。
川上ブランドを育む源流域の水 (千曲川源流)
田んぼが難しいほどの高冷地が強みに
 カラマツの原生林が残る長野県南佐久郡川上村。  夏になると、緑青色に染まる山々を背に、萌黄色の絨毯を敷き詰めたような景色が現れる、レタス畑だ。  夏から秋にかけて、この川上村から出荷される夏秋レタスの収穫量は85,000トンにものぼり、日本一を誇る(参考資料1)。川上村のレタスが「川上ブランド」とまで称されるようになった理由を、川上村企画課の課長補佐・井出智博さんはこう話す。 「川上村は、最も標高が低い場所でも約1,100mと高冷地にあります。標高が高すぎるため、場所によっては稲作が難しく、村にある8集落のうち田んぼがあったのは6集落でした。その標高の高さを活かし、レタスの栽培が1950(昭和25)年頃から本格的に始まったのです。川上村の強みは、高冷地であることと、昼と夜の寒暖差が大きいこと。こうした自然環境がレタスや白菜といった高原野菜の栽培に適していたのです」  前回にも触れたように、江戸時代には米ではなく、カモシカの皮を年貢として納めていたほど高冷地にある川上村。林業も盛んだったため、明治時代の初めにはカラマツの育苗技術が発達し、その苗が国内外に出荷された。戦後、広がったレタス畑は、こうしたカラマツの苗を育てた畑を利用したものや山を開いたものがある。「村内のレタス農家は500軒にのぼり、今や7〜8月に全国に出荷されるレタスの約7割が川上産のレタスと言われています」  しかし、田んぼには用水路などが整備されていたものの、後から作ったレタス畑には灌水施設の整備も必要だ。それを支えているのが、山々が育む豊富な湧水だ。  埼玉県、山梨県との県境となっている甲武信ヶ岳は、日本最長を誇る千曲川の源流となっている。川上村には千曲川だけでなく、その支流となる小河川や数々の湧水があり、まさに源流の村と言える。
八ヶ岳を前に広がるレタス畑。川上村のレタスは日本各地に出荷されている。
水や農作物を守る源流の取り組み
 そんな源流の村では、そのきれいな水を守るための取り組みが行われてきた。 「生活排水等の処理については、早い段階から取り組んでおり、2002(平成14)年には下水や浄化槽等の施設設備の普及率が100%になりました。上流下流に関わらず、生活排水をそのまま流してしまうと水質汚染を引き起こすことになります。川沿いの民家の生活排水がそのまま流れてしまったら、汚れは地下浸透してしまいますし、川自体をダイレクトに汚す可能性もあるでしょう。特にここは千曲川の源流域なので、下流域に影響を与えてしまうため、昔から川を汚さないようにという意識が強くありました。加えて、高原野菜などの農作物には、千曲川やその支流の水が使われています。作物にも影響してしまうので、持続可能な生活排水対策が必要なのです」  長野県では自然を守りながら快適な生活を送れるよう「水循環・資源循環のみち2015」として市町村と連携しながら生活排水施設の整備を進めている。すでに100%を達成している川上村では、生活排水施設の維持管理費の削減と合理化などを目指している。
奇岩巨石群がある「廻り目平」は川上村の大切な自然であり、観光資源だ。
源流の村にトップクライマーが集まる理由
 村と住民が一緒になって自然を守り、ともに生きてきた源流の村。  その自然を求めてこの村を訪れる人も多い。 「川上村の観光資源は自然です。中でも、小川山麓の『廻り目平』と呼ばれるエリアには奇岩が多く、クライミングやボルダリングを楽しむ方が多いですね。国内のトップクライマーも訪れています」  廻り目平は「日本のヨセミテ」とも呼ばれており、クライマーなら知らない人はいないというほど有名な場所だ。さらに、小川山とその隣の金峰(きんぽう)山の麓に広がっているのが金峰渓谷だ。「透明な川の水に、山々の緑が映え、『エメラルドの水』と言う人もいますね。そうした渓谷美と、廻り目平の岩山が織りなす景色がとてもきれいなんです。村の中でも有数の景勝地ですね」  金峰渓谷には天然のカラマツで造られた金峰山荘、廻り目平にはキャンプ場があり、釣りや川遊び、クライミングを楽しむ人々のベースキャンプになっているという。
紅葉の時期は特に美しい金峰渓谷。渓谷内にはキャンプ場もある。
渓谷美が映える秋の源流
 金峰渓谷がある金峰山や千曲川源流にあたる甲武信ヶ岳は、秩父多摩甲斐国立公園、そして甲武信ユネスコエコパークに指定されている。  ユネスコエコパークでは、その地域の自然を三つにゾーニングしている。 該当地域を①厳格に保護する「核心地域」、②それを取り囲む「緩衝地域」、③人々が自然と調和しながら暮らす「移行地域」に分け、自然を守りながら人々の暮らしや経済の両立を図るのだ。  甲武信ヶ岳の「千曲川・信濃川水源地標」のある場所や小川山は②の「緩衝地域」になっており、源流域の豊かな自然を楽しむことができるというわけだ。 「川上村では例年、10月頃から紅葉が始まります。林業が盛んだった川上村は人が入れるところにはカラマツが多く植えられてきたのですが、金峰渓谷のあたりは天然林が残っています。そのため、カラマツの紅葉だけでなく、いろいろな樹木の紅葉が楽しめるでしょう。色とりどりの紅葉と渓谷美が織りなす景色はこの時期の金峰渓谷ならではですね」  村の人々にとってあって当たり前の存在だという千曲川。その美しい流れは、川上村の人々によって大切に守ってきたもの。金峰渓谷という村随一の観光スポットには、村の人々が大切に守ってきたものがすべて詰め込まれていたのだった。 (文=吉田渓、写真提供=長野県川上村)