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未来を拓く源流新時代の幕開け ~全国源流の郷協議会~
全国各地の河川の最上流に位置する自治体が結集し、平成17年11月に「全国源流の郷協議会」が発足しました。 日本の源流域は、国土保全や環境保全の最前線に位置しており、河川の流域だけでなく、我が国にとっても非常に重要な地域となっています。会員一同その責任を自覚し、源流域の環境などを保全に務めておりますが、源流の恵を共有する流域の皆さんと一緒に活動していくことが必要です。 当協議会では、源流地域の重要性を多くの方々に理解していただき、源流域が存続していけるよう源流基本法の制定などを提案し、その実現に取り組んでおります。
カラマツがつなぐ源流の3世代 (千曲川源流)
和犬のふるさと・源流の村
 川上犬をご存知だろうか。  マイナス25度の冬の寒さにも耐える野生味溢れる和犬だ。長野県の天然記念物にも指定さている。  そのふるさとが、2,000m級の山に囲まれた長野県南佐久郡の川上村だ。その寒冷な気候のため、稲作が難しかったことから、江戸時代には年貢としてカモシカの毛皮を納めていた地域だ。秩父山地に生息していたヤマイヌ(ニホンオオカミ)を猟師が飼い慣らしたのが川上犬だという言い伝えからもわかるように、猟の大切な相棒だったという。  かつて、和犬を連れた猟師が歩き回った山深い川上村。  そんな川上村を代表する山の一つが、甲武信ヶ岳だ。名前の通り、山梨・埼玉・長野県にまたがるこの山は、笛吹川・荒川・千曲川という3本の川の源流を持つ。  この3河川の中、源流の郷・川上村から始まる千曲川は新潟県に入れば信濃川と名を変え、日本海に注ぐ。その全長は367kmと日本最長を誇る。この日本一の河川・千曲川の源流域の豊かな自然について、川上村企画課・課長補佐の井出智博さんは「千曲川の源流域は、シラカバの原生林をはじめとした天然林が広がっています。千曲川の始まりを示す『千曲川・信濃川水源地標』が立っている場所を通るトレッキングルートも整備されています」と説明してくれた。
甲斐(山梨県)・武蔵(埼玉県)・信濃(長野県)にまたがる甲武信ヶ岳は、頂上付近まで樹林に覆われている。
千曲川源流域の様子。日本最長の川の源流である。
千曲川の始まりを示す『千曲川・信濃川水源地標』。
祖父母が植え、親が育てた木の使い途
 村の面積の85%を森林が占めるこの村では、猟とともに林業も盛んに昔から行われてきた。 「川上村で目に入る景色のほとんどがカラマツです。村内は標高が約1,100mから2,500mと高冷地のため、日本各地で植林されているスギやヒノキが育ちにくいのです。昔から天然のカラマツが多いのが特徴で、明治初期にカラマツの育苗に成功したため、カラマツの木材だけでなく苗の出荷も村を挙げて行うようになりました。カラマツは成長が早く、戦前戦後に土木工事などで需要が高かったようです。川上村のカラマツの苗は、県内や北海道、東北だけでなく、海外にも出荷されていたようです」  村の重要な産業であったカラマツ。皆伐後もその跡地に再び植林を行ってきたため、現在もカラマツが多く残っている。源流を除き、人が入っていけるような山には、ほぼカラマツが植えられてきたそうだ。  まさに山や森林、木とともに生きてきた川上村の人たち。 自然との付き合い方は、形を変えて次の世代に継承されている。 「村では60年以上前から毎年5月に植樹祭を行っており、村内の二つの小学校の緑の少年団も参加しています。最近はカラマツだけでなく、広葉樹なども植樹しています。また、村内の小学校では木育授業を実施しており、今年の5月には二つの小学校の3年生がカラマツの種蒔きを行いました。村内唯一の川上中学校には学校林があり、下草刈りなど、森林保全を体験する授業が行われています」  この村で育つ子どもは、このように学校生活を通して林業に触れることになる。 川上中学校では新校舎が2008年に誕生した。この校舎には37haの村有林から伐り出されたカラマツがふんだんに使われており、その中には天然のカラマツも含まれている。カラマツは構造や外装、床などの内装、教室の机やランチルームのテーブルに至るまでふんだんに使われている。  この新校舎の建設に関わった人々の間では、建設に際し「祖父母が植え、親が育てたカラマツで、孫が学ぶ新校舎」という言葉が交わされたという。木の温もり溢れる校舎は、山と生きてきた源流の村そのものだと言えるだろう。
植樹などを通して、村内の子どもたちに山や森を守る大切さを伝えている。
千曲川は当たり前の存在
 カラマツが豊富な川上村の山々。  そこで育まれる湧水や、それらが集まった川の流れもまた、村の人々にとっては身近な存在だ。 「村の小学校では、金峰(きんぽう)山の麓に広がる金峰渓谷でキャンプを行っています。他にも、甲武信ヶ岳に登る機会もあり、『千曲川・信濃川水源地標』を通って山頂を目指す経験もします」  「千曲川・信濃川水源地標」から山頂までは約40分でいける距離だ。子どもの頃から源流の自然に触れられるのは源流の郷ならでは、村の人にとって川は身近な遊び場だったのだ。「家のすぐそばを千曲川が流れていたので、子どもの頃から川で遊んでいました。流れが激しいところを避ければ、遊べるところがたくさんありましたから・・・。深くて滞留しているところを探して潜ったり、浅い場所で水中メガネとヤス(小型の銛)でカジカを獲ったり。昔は小学校入学の頃から、兄弟や近所の高学年に川での遊び方を教わったものでした(笑)」  村の人々にとって、千曲川は「生まれた時から流れている、そこにある、当たり前の存在」なのだ。毎年春になると、村内全域で清掃活動を行っており、農地や道路だけでなく、当然ながら川沿いもきれいにしているという。  村の真ん中を日本一の千曲川が流れる川上村。名前の通りの源流の村には、何代にも渡ってともに生きてきた山と木、そして川への思いが、村のあちこちに溢れていた。
(文=吉田渓、写真提供=長野県川上村)