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未来を拓く源流新時代の幕開け ~全国源流の郷協議会~
全国各地の河川の最上流に位置する自治体が結集し、平成17年11月に「全国源流の郷協議会」が発足しました。 日本の源流域は、国土保全や環境保全の最前線に位置しており、河川の流域だけでなく、我が国にとっても非常に重要な地域となっています。会員一同その責任を自覚し、源流域の環境などを保全に務めておりますが、源流の恵を共有する流域の皆さんと一緒に活動していくことが必要です。 当協議会では、源流地域の重要性を多くの方々に理解していただき、源流域が存続していけるよう源流基本法の制定などを提案し、その実現に取り組んでおります。
1,000m超の標高差を活かす源流の村の観光資源 (熊野川水系北山川源流)
村外から人を呼び込む極上の清流
 世界有数の多雨地域、大台ヶ原。  その濃密な緑の中を分入るように源流の水が流れる。その深い森が突然途切れ、水の流れは岩肌を滑り降り、滝となる。落差105mを滑り降りる間に水は絹糸の束のようにも、霧のようにも形を変え、深い藍色の滝壺へと吸い込まれていく──。大台ヶ原を水源とする東の川源流のかくれ滝だ。東の川の源流域には滝めぐりができるほど、美しい滝がいくつもあり、観光名所になっている。  ここは奈良県上北山村。三重県との県境に位置し、面積の97%を森林が占める源流の村だ。村の面積の42%が吉野熊野国立公園になっており、また村内の大台ヶ原や大峰山脈が、「大台ヶ原・大峯山・大杉谷ユネスコエコパーク」となっている、まさに自然の宝庫と言える。  そんな上北山村は、源流の郷でもある。熊野川水系の北山川、北山川の支流である東の川・小橡川(コトチガワ)などの源流を擁しているのだ。
落差100mを超える「かくれ滝」は観光の人気スポットだ。
北山川のきれいな川で育ったアユ。上北山村には毎年、多くの釣り人が訪れる。
 上北山村の源流の美しさに惚れ込み、村外出身の県内の別の地域から移り住んだ上北山村企画政策課・主事補の西川宏幸さんは、その魅力をこう語る。 「この村には、小さい頃から父に連れられて釣りにきていました。そのため、このきれいな川が自分にとっても当たり前の存在になっていたように思います。村内の北山川源流域にはダムがありません。加えて、上北山村には水田がないため、田んぼからの水が川に流れ出ることもなく川の水がとてもきれいなのです。川の匂いも、明らかに違いますね。川のそばで過ごしていると、本当に気持ちいいですからね。特に素晴らしいのがアユです。いい水で育ったアユはスイカの香りがすると言いますが、北山川のアユがまさにそれです」   同じく、他の地域から上北山村移り住んだ企画政策課・主事補の三橋直人さんも、川の美しさに魅せられたという。 「僕は旅とカメラが好きで、日本各地を巡っていますが、上北山村の源流ほどきれいな川は見たことがありません。見た目の美しさはもちろんのこと、川から感じる匂いに青臭さがなくて、いいんですよ」  三橋さんは、大台ヶ原にもカメラを持って登り、そこで撮った写真を村の人々に見せるという。 「もともと住んでいた方にとって、大台ヶ原は当たり前の存在で、単なる風景のような感覚のようです。所用がなければ登ることもないという人も多いので、僕が大台ヶ原で撮ってきた写真を見せると、『今はこうなっているんだね』とか『昔に比べて森が少なくなっているね』といろいろな発見があるようです」
林業とともに生きる村の新たな挑戦
 この源流の村、「大台ヶ原・大峯山・大杉谷ユネスコエコパーク」の村であり、吉野熊野国立公園の村でもある。そして、世界遺産の大峯奥駈道もある上北山村。歴史あるこの村では、人々は自然とともに暮らしてきた。  企画政策課 主幹の神林真充さんは「ここは昔から林業が基幹産業で、林業に関わる人も多くいました。林業が盛んだった頃、木材を運ぶ手段として使われたのが村を流れる川です。伐り出した木を筏にして川に流し、下流に運んでいました。過去の資料を見ると、川を堰き止めて水量を増やしてから堰を崩し、一気に水を流すことで材木を流した場所もあったようです」と、豊かな森林と人の営みについて説明した。  急斜面の山が連なる源流の村では、川が地元産業のインフラの機能も担っていたというわけだ。現在は材木を川に流して運ぶことはなくなったが、林業が基幹産業であることは変わらない。建設課・主幹の久米毅さんは林業について、「村の面積の97%が森林ですが、多くが南向きの斜面であること、急峻であることから、植樹できる面積が限られており人工林は森林面積の約36%です。しかし、昭和3年(1928年)にこの村で撮影した動画を見ると、バスなどの自動車が走っていて、かなり豊かだったことがわかります。人工林の面積は小さいものの、そこに植えられたスギやヒノキの価格が、今では考えられないほど高かったのでしょう」と語った。  日本では国産材の木材価格の低迷が続いてきたが、近年、村では新しい動きも起こっており、「森林環境譲与税が当村にも配分されたため、製材所を再稼働して第二次産業が再興されました」  このように村内で第二次産業として製材ができるようになったことを機に、地域材の活用もしやすくなり、そんな一端として「今年度は教育委員会と協力して、保育園に地域材をふんだんに使うことになりました。木造平屋建ての保育園の仕上げ材や備え付け家具に使用する木材の製材を行っています。他にも、役場庁内に地域材を使ったベンチを設置するなど、地域材の活用を進めています」  なぜ保育園なのか。上北山村の人口は現在491人※だが、観光施設の再生や地域おこし協力隊などをきっかけに、若者の移住が増え、子どもの数が増えているためだ。それは、高齢化の山村を照らす光と言えるだろう。
上北山村の製材所(左)。地域材を活用し木製品を作り、村内各所に設置している(右)。
川を覆う雲海が人気
 時代とともに変化している上北山村では、最近になって自然の魅力を観光に活かそうという動きがある。大台ヶ原にある上北山村物産店で、村の特産である蒟蒻や栃の実を使った栃餅を販売しているほか、この地域ならではの地形が観光に活かされている。 「上北山村では大台ヶ原を登る自転車レースが行われています。これは標高差が1,200mもある全長28kmの道のりを自転車で登っていくストイックなもの。かなりしんどいコースですが、だからこそ好きだと言ってくださるライダーも多いようです。また、これほどの標高差があるため村内にはたくさんの滝があり、観光名所になっています」とは、前出の神林さん。   そんな大台ヶ原で、いま注目を集めているものがもう一つある。 それが雲海だ。 前出の旅とカメラが好きな三橋さんに、村の雲海スポットについて聞いてみた。 「雲海は川のある場所で発生します。大台ヶ原ドライブウェイの中腹あたりでも、見ることができます。山頂から100mごとに番号が振られているのですが、その99番が見やすいと評判ですね。北山川を雲海が覆う風景が見られます。雲海を目撃しやすいのは季節の変わり目、日中と夜の温度差が大きい朝。特に9月頃ですね。ただ、山道ですのでカーブも多く、道路には中央線がない所や見通しが悪い所もありますので、クルマの走行はもちろん、その見学や車を停止する際はご注意ください」
大台ヶ原を登る自転車レース「ヒルクライム大台ヶ原since2001」。標高差のある大自然の中を走る人気のレースだ。
大台ヶ原のドライブウェイから見ることができる雲海。北山川を雲海が覆う幻想的な風景だ。
 自然という大きな資産を有する上北山村。源流の郷としての今後の青写真について「一つは森と水、自然を守ること。これを村としてやっていきたい、と考えています。もう一つは、多くの人に知ってもらうこと。村でも観光に関して、さまざまな取り組みをおこなっていますが、源流をメインにしたPRもやっていけたらと思っています。また、今後は本格的に冬の大台ヶ原を楽しめるような施策も考えていきたいですね」とは、村外出身の企画政策課・実務研修員である武安佑生さん。  村外からの若者移住者が増え、その濃密な緑に、新しい風が吹く。源流の村の未来はこれからも変化を遂げながら続いていくことだろう。 (文=吉田渓、写真提供=奈良県上北山村) ※ 令和2年8月1日住民基本台帳による