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未来を拓く源流新時代の幕開け ~全国源流の郷協議会~
全国各地の河川の最上流に位置する自治体が結集し、平成17年11月に「全国源流の郷協議会」が発足しました。 日本の源流域は、国土保全や環境保全の最前線に位置しており、河川の流域だけでなく、我が国にとっても非常に重要な地域となっています。会員一同その責任を自覚し、源流域の環境などを保全に務めておりますが、源流の恵を共有する流域の皆さんと一緒に活動していくことが必要です。 当協議会では、源流地域の重要性を多くの方々に理解していただき、源流域が存続していけるよう源流基本法の制定などを提案し、その実現に取り組んでおります。
阪神・淡路大震災から始まった森林と学生の支え合う関係
被災大学生に林業者から差し伸べられた手
 源流を守るために欠かせないのが、健康で豊かな森林だ。その森林を守る林業従事者は、1985年(昭和60年)には約12万6,000人いた。しかし、2015年(平成27年)には約4万5,000人と3分の1に減っている。その平均年齢は52.4歳と高い(※1)。  こうした中、20年以上に渡って大学生などが森林ボランティアを体験できるプログラムがある。NPO法人JUON NETWORKが提供している「森林の楽校」(もりのがっこう)だ。  そのフィールドとなる森林は、北は秋田県から南は長崎県まで、国有林から民有林、財産区有林(地域の共有林)など、全国各地にある。中には、ボランティアが戦力となっている地域もあるという。2020年以降は新型コロナ感染拡大防止のため中止や延期となったイベントも多いが、試行錯誤を続けている。  JUON NETWORK事務局長の鹿住貴之さんによると、「森林の楽校」の誕生のきっかけは1995年の阪神・淡路大震災だったという。6,434人が亡くなったこの地震では、10万4,906棟の建物が全壊し、半壊と一部破壊を含めると、63万9,686棟もの住宅が被害を受けている(※2)。ピーク時の避難人数は神戸市だけで23万6,899人にも達した(※3)。  神戸をはじめ関西の大学に通う学生が住んでいたアパートや下宿も被害を受け、約5,000人(※4)の大学生が住まいを失った。  鹿住さんが言う。「被災地では仮設住宅がつくられましたが、行政が提供する仮設住宅は基本的に定住者が対象。大学生は含まれなかったのです」  さらに、4月に入学を控えた新入生の住まいも確保しなければならない。そこで、全国大学生活協同組合連合会(以下、全国大学生協連)では、プレハブの仮設学生寮を建設することにした。「こうした中、支援の手を差し伸べてくださったのが、徳島県三好郡(現:三好市)の林業関係者のみなさんでした。間伐材を利用したミニハウスを学生寮として58戸、提供してくださることになったのです」  山城町森林組合、吉野川(三好)流域林業活性化センターなどが阪神罹災大学生寮組立ハウス支援実行委員会を組織し、兵庫県までミニハウスを届けたという。「この時、全国大学生協連は兵庫県内5ヶ所に仮設学生寮を設置しています。間伐材の仮設住宅は、そのうちの1ヶ所である芦屋市のテニスコートに建てられました。『寄付したい』とおっしゃっていただいたのですが、全国大学生協連に集まった寄付で実費のみお支払いすることができました」
阪神・淡路大震災の際、芦屋市のテニスコートに設置された間伐材を使った仮設学生寮。
支援を受けた学生が知った林業の状況とは・・・
 当時は復興のためにプレハブの材料が高騰していたため、実費のみで設置できた木造の仮設学生寮は費用削減にもつながったという。  このミニハウスは組み立て式で、大人二人なら一日で組み立てられるもの。芦屋市にミニハウスが運ばれると、大学生を始めとしたボランティアが組み立てを行ったという。日本では阪神・淡路大震災を契機にボランティア活動が活発になったと言われているが、その芽はここにもあったのだ。「その夏、全国大学生協連と徳島県三好郡の方々の交流が始まったのです。三好郡の人々が仮設学生寮を訪れる一方、仮設学生寮に入居した学生や組み立てのボランティアが徳島に赴き、林業体験を行いました」  多くの学生が被災地でボランティアとして活躍していたこともあり、農山村と学生をつなぐ場を作ろうことになった。そして全国大学生協連の呼びかけにより、JUON NETWORKの活動が始まった。  JUON NETWORKがまず手掛けたのが、国産間伐材を活用した「樹恩割り箸」の普及推進だ。「その時期は、戦後の拡大造林で植林された人工林が生長し、間伐の必要性が注目され始めた頃でした。三好郡の方々と交流する中で林業のおかれた状況を知り、間伐材で割り箸を作り、大学生協が運営する学食で使ってもらおうということになったのです」  安価な外国産材に押され、苦しい状況におかれた国内の林業。人材も不足している中、林業者と大学生協がタッグを組むことになった。「間伐材は未成熟材だから弱い。すぐに折れる」という意見もあったそうだ。確かに、折れやすさはあるものの、使用に耐えうる割り箸が作れることがわかった。割り箸の生産は当初、徳島県三好郡の山城町森林組合で行われ、一部を地元の社会福祉法人の運営する障害者施設が担当することになった。現在はセルプ箸蔵など全国5ヶ所の障害福祉サービス事業所で生産を行なっている。  ちなみに箸蔵とはこの地域に昔からある地名だそうだ。  「重要なのは間伐材を使うことだけではなく、循環型資源を使うこと。ですから、現在は間伐材だけにこだわらず、国産材割り箸として製造しています」  現在、この国産材割り箸は、全国に200ある大学生協のうち、70ほどの大学生協の食堂などで使われているという。
大学生協の食堂などで使われている国産材割り箸
5ヵ所の障害福祉サービス事業所で国産材割り箸を生産している
都市からの参加者が森林を支える戦力に
 国産材の割り箸製造が始まった翌年の1999年。JUON NETWORKは特定非営利活動法人となり、森づくり体験プログラム「森林の楽校」を徳島県と神奈川県の2ヶ所で開催した。それ以降、「森林の楽校」は場所も回数も増えていき、現在では全国17ヶ所で行われている。地域ごとに、役所や自治体、NPOなどとタイアップして開催し、下草刈りや除伐、子どもでもできる皮むき間伐など、その森に合わせた手入れを行う。  「もともと、大学生への林業の啓発的な意味合いが強かったため、初めての人でも参加しやすい内容のプログラムが多いのが特徴です。しかし、岐阜県揖斐川町など、年に何度も開催している地域では、何度も参加するリピーターの方もいるんですよ。そうしたリピーターの方が森林を守る戦力となっており、フィールドも国有林から財産区有林、私有林と広がっています。『森林の楽校』の開催情報は、ネットのボランティア情報サイトにも掲載されているため、大学生だけでなく、参加者の年齢層も10〜70歳と広がっています。近年は高校や大学の入試を見据えてボランティア活動をしたいという中高生も増えていますね」  これはつまり、森林ボランティアは、入試でも評価されるような価値ある活動だと中高生が捉えているということでもある。  山の人々と都市の学生や人々をつないできた「森林の楽校」の活動。「田畑でもやってほしい」という声が上がったことから、2006年には「田畑の楽校」(はたけのがっこう)も行われている。
「森林の楽校」に続いて誕生した「田畑の楽校」では、ぶどうやりんご、みかん、さらには稲などの手入れを体験できる。
 「『森林の楽校』や『田畑の楽校』に参加した方にアンケートを取ったところ、『楽校に参加したことから、以前よりボランティアに関心を持つようになった』という方が50%、『農林業に関心を持つようになった』という方が46%いらっしゃいました。また、自由回答では『そこに生きている人々の地道な生活と歴史、繋がりを感じた』、『美しいまま残された自然、地に足をつけた人々の営みが印象に残った』というコメントも寄せられています。今後の活動では、数から質を重視し、参加者の内面の変化を図りながら、それをもとにプログラムをブラッシュアップしていきたいと思っています」  困っている人を助けたい。今度は自分が誰かの役に立ちたい。そんな想いから始まった、森林を知り守るバトンリレーはこれからも続いていくことだろう。 写真=JUON NETWORK ご提供  文=吉田 渓