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未来を拓く源流新時代の幕開け ~全国源流の郷協議会~
全国各地の河川の最上流に位置する自治体が結集し、平成17年11月に「全国源流の郷協議会」が発足しました。 日本の源流域は、国土保全や環境保全の最前線に位置しており、河川の流域だけでなく、我が国にとっても非常に重要な地域となっています。会員一同その責任を自覚し、源流域の環境などを保全に務めておりますが、源流の恵を共有する流域の皆さんと一緒に活動していくことが必要です。 当協議会では、源流地域の重要性を多くの方々に理解していただき、源流域が存続していけるよう源流基本法の制定などを提案し、その実現に取り組んでおります。
探検家・関野吉晴さんが見た世界の源流(アマゾン川後編)
アマゾンで「どこの川から来た?」と聞かれた
 アフリカで生まれた人類が南米まで到達した足跡を逆ルートで辿る「グレートジャーニー」で知られる探検家・関野吉晴さん。2004年に始まった「新グレートジャーニー」では人類が日本列島にやってきたルートを辿った。そんな関野さんは探検家であり医師でもある、さらに武蔵野美術大学名誉教授(文化人類学)という顔を持つ。  「1971年に初めてアマゾン川へ行った時、僕は文明と接触のない人たちを探しました。しかし、アマゾン流域に住む人の90%は外部と交流があり、文明と接触していない人はほとんどいません。そんな中、僕はペルーとボリビア、ブラジルの国境地帯で、ある一家と出会いました。初対面の時、彼らに名前や年齢、昼間は何をやっているのか、薬はどうしているのかなどいろんなことを聞いてみました。すると、向こうも僕に興味を持ち、『お前はどこからきた?』と聞いてきたのです。ただ、その一家にとって僕は初めて出会った『違う民族』。彼らは政治的にはペルー人ですが、ペルーという国があることも知らないし、自分がペルー人であるという意識もない。海が存在することも知らない彼らは、僕に『どこの川から来たんだ?』と尋ねたのです」  同じアマゾン川流域でも、外部と交流をもち、文明に触れている人々もいる。  アマゾンに限らず、どんな国でも学校があれば人々は世界共通の世界地図を知っていると関野さんは言う。「しかし、僕が出会った家族は、海があることも、世界には寒い地域があることも知らないし、世界は森と川でできている」と思っています。  関野さんが出会った彼らは、自分たちの川には枯れた沢にも小さな川にもすべて名前をつけており、どこで土器の土が採れて、魚が獲れて、鳥がいるか全部分かっている。その暮らしは、自分の川の上流と下流に動いているため、隣の川にはたまにしか行かないといったように限られていたようだ。  「隣の隣の川には行ったことがない。そんな彼らに『どこの川から来た?』と聞かれて、その当時、国立市(東京都)に住んでいた僕は『タマガワ(多摩川)から来ました』と答えました。『タマガワ? 知らねえな』と言われましたけど(笑)。彼らが興味を持っているのは、その川に魚や鳥はいるのか、そこは遠いのかということなんですよね」
アマゾンで出会ったマチゲンガ族の一家
自然の一部として生きるアマゾンの人々
 川とともにある暮らしは、社会のあり方も表していると関野さんは言う。  「アマゾンで僕が出会った一家は、自分の持ち物は自然から材料を採ってきてつくります。となると、大きい家をつくるのは効率が悪いし寒いので、狭い家になる。また、彼らは狩猟採集で生きています。魚だけでなくシカやイノシシを獲っているけれど、それを燻製にしても1ヶ月は持たない。1週間がやっとなんです。そして焼畑農業でバナナやユカイモを栽培しても、それほど貯め込むことができない。貯め込めないから、富の偏在が起こらない。だから、彼らの社会は平等なんです。一方、穀物を栽培する農耕民族は、穀物を貯蔵できますよね。すると、余剰を抱え込める人とそうでない人が出てきて格差ができる。すると、分業や階級ができてやがて都市国家ができるのです」  つまり、格差ができるかどうかの境目は、食糧を貯め込めるかどうかというワケだ。  「また、彼らアマゾンの一家、自分の持ち物は自然から材料を採ってきてつくります。となると、大きい家をつくるのは効率が悪いし寒いので、狭い家になる。その家が壊れても、自然のものをつかっているから放っておけば土に還っていく。バナナを採って食べても、糞尿として土に返している。このように、彼らは自然の循環一部として生きています。一方、プランテーションで栽培した農作物は販売しますよね。その時、農作物だけでなく、その農作物を育てるために使われた水や土の栄養分も外に持ち出すことになります」  とはいえ、現在の日本人が、アマゾンの彼らと同じように暮らすことは難しい。それでも、自然を守るにはどうしたらいいのか。自然の一部として生きるアマゾンの人々の暮らしを知る関野さんは、あるプロジェクトを立ち上げた。それが「地球永住計画」だ。  「地球は、位置も大きさも絶妙で、まさに奇跡の星なんです。今より太陽に近かったら金星のような灼熱地獄になってしまうし、火星のサイズの重力では空気を引き留められません。また、地球は重力の3分の1を鉄が占めているから磁場がありますよね。その磁場が、宇宙線や放射線、太陽のフレアが出す微粒子から我々を守ってくれているのです」
アマゾンのマチゲンガ族の家の中
探検家が進める地球永住計画
 私たち人間が生きるために、地球ほど適した星はほかにはない。火星に移住するとしても莫大なエネルギーがかかって現実的ではない。「とはいえ、1,000年後どころか100年後も予想はつきません。だからこそ、子や孫といった顔が見える世代にこの自然をどう残していくか、そのためにどうすればいいか。それを考えるのが、地球永住計画です。」  その活動の一つが「玉川上水観察会」。  これは、東京都の郊外に江戸時代に造られた玉川上水の動植物がタヌキを中心にどうつながっているものか、保全生態学の高槻成紀先生の指導のもと、市民や学生が一緒に調べるという試み。「調べていて実感するのは、虫と花が助け合っていたりと、生き物はお互いにバランスをとりながら生態系を構築しているということ。そこから唯一離れているのが人間です。我々は自然がないと生きていけません、けれど自然の方は人間を必要としていない。人間って、そういう存在なんです」  この地球永住計画では、科学者や写真家、ジャーナリストなどさまざまな分野から講師を招いて講座も行っている。  「日本には森林や川が多く、重要な資源です。世界の大河のほとんどは2カ国以上にまたがる国際河川です。上流の国が川を汚すようなことをしたら、下流の国は大きな被害を受けてしまいます。しかし、日本には国際河川が一つもありません。これは世界的にみても珍しいことですし、ラッキーなことだ」と思いますと関野さん。  ただし新型コロナウイルス問題からグローバルな経済活動が鈍化した今、「鎖国のような状態が続けば・・・、食料の問題が出てくるでしょう。現在の日本の食料自給率は4割以下。そこで、食料とエネルギーを自給できる生活をしようと考えています」と微笑む。  人間と自然の関係がどうあるべきかをテーマにした映画制作も始めた関野さん。  人類の足跡を辿った探検家の目線は今、人類の未来に向けられている。次の新たな試みが楽しみな関野さんから目が離せない。
地球永住計画の観察会の一コマ
取材・文=吉田渓