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未来を拓く源流新時代の幕開け ~全国源流の郷協議会~
全国各地の河川の最上流に位置する自治体が結集し、平成17年11月に「全国源流の郷協議会」が発足しました。 日本の源流域は、国土保全や環境保全の最前線に位置しており、河川の流域だけでなく、我が国にとっても非常に重要な地域となっています。会員一同その責任を自覚し、源流域の環境などを保全に務めておりますが、源流の恵を共有する流域の皆さんと一緒に活動していくことが必要です。 当協議会では、源流地域の重要性を多くの方々に理解していただき、源流域が存続していけるよう源流基本法の制定などを提案し、その実現に取り組んでおります。
源流の村からタイニーハウスムーブメントの予感
源流を変えるデザインコンテスト
 自分のライフスタイルや価値観に合わせた、快適で新しい住まい方。  それがタイニーハウスだ。人口700人余りの小菅村はそんなタイニーハウスを村営住宅に取り入れ、注目を集めている。小菅村のタイニーハウスの特徴は、村の面積の95%を占める森林の杉材を床や壁、天井に使おうとしていること。これは、製材所のない小菅村では大変なことなのだ。 小菅村の木材は寒いところで育つので、年輪が細かく非常にクオリティーが高い。木をふんだんに使ったタイニーハウスは、木材の持つ断熱性や杉ならではの調湿性によって、冷え込む山間の冬でも寒くないという強みもある。  このタイニーハウスを手掛けた建築士の和田隆男さんを中心に、小菅村で行われているのが「タイニーハウス小菅デザインコンテスト」だ。  コンテストを開催する理由を、和田さんはこう話す。「私も実際に住んでいて、本当に良いものだという実感があります。だからこそ、タイニーハウスをもっと知ってほしいと思ってコンテストを始めました。最初は10作品も集まれば良いなと思って始めたのですが、実際に募集をかけてみると予想以上に作品が集まり、そのクオリティーの高さに驚きました」  これまでのコンテストでは最優秀賞に輝いた作品は実際に村内に建てられ、村営住宅として使われている。  265作品が集まった第3回目の「タイニーハウス小菅デザインコンテスト2019」では、滝川麻友さんの「森を浴びる家」が最優秀賞に輝いた。この作品は、六角形の基礎部分に半円状のアーチを組み合わせ、壁の代わりに膜材を使うというもの。5〜10年で膜材を取り替えて新しい家にしたり、お風呂が宙に浮いたような形をしていたり、独創的な作品だ。  「この家の形は、先端がしなるタイミンチク(温帯性植物/ササ類)の生え方をヒントにしました。膜材に覆われた家の中の光は時間の経過とともに変化し、家そのものが生き物のように姿を変えていきます。まるでそこに生えている生き物のように森に溶け込む家では、暮らす人も自然の一部として存在します。もともと小菅村の自然の中に家を作りたいと思ったのがきっかけだったので、『森の中だからこそ楽しい家』を自分のテーマにしました。テントのような私の作品はタイニーハウスだからこそできたもの。新しい発想が広がるタイニーハウスを考えるのはとても楽しかったです」と、滝川さんは作品に込めた想いをこう語る。  ちなみに受賞時に高校三年生だった滝川さんはコンテストをきっかけに大学の建築学科に進学したそうだ。「小学生の頃から建築家になりたいと思っていたのですが、コンテストを通して空間づくりの面白さを改めて感じました。将来は、森の中でも都会でも自然を感じる建築や空間を世界中に作れたらいいですね。森の中に巣を作り、自然の一部として人が存在する。そんな関係の暮らしや、多様な価値観の豊かさを実現していけたらと思っています」。  源流から始まった日本のタイニーハウスの潮流。それは確実に次の世代によって新たな世界の始まりにつながっていくことだろう。
最優秀賞を受賞した滝川麻友さんの「森を浴びる家」。テントのような構造で森に溶け込む。
室内の明かりの変化で家全体が生き物のように変化。人と自然の関係そのものを変える家だ。
タイニーハウス向け家具が必要な理由
 小菅村から発信されるタイニーハウスという新しい概念と住まい方が注目される中、タイニーハウス向けの家具も登場した。これらを開発し創っているのは和田さんが座長を務める「こすげつくる座」だ。  「タイニーハウスは狭い分、家具をいくつも置けません。一つの家具が二つ以上の役割をしたら省スペースになるし、面白いのではないか。そんな発想から始めました」と、家具を創るようになった理由を和田さんはこう話す。  和田さんとともに「こすげつくる座」で家具を作っている酒井厚志さんは、タイニーハウスに住みながら、タイニーハウス向けの家具を作っている。  「僕は妻と子ども二人とともに三部屋あるタイプに住んでいます。まだ子どもが小さいので、タイニーハウスは目が届くのがいいですね。木のぬくもりを感じますし、オーダーメイドで作られているから、本当に楽しいんですよ。僕自身が住んでみて思ったのは、規格に沿ってつくられている住宅と違い、タイニーハウスはオーダーメイドの家。ですから、普通の家具を買ってきても合わないことがあるんです。そこで、タイニーハウス向けの家具をつくっています」  場所を取らないシンプルなカウンターチェア、椅子にも机にもなるデスクチェア、デスクチェアにもロッキングチェアにもなる2wayチェア。  酒井さんらがつくるタイニーハウス向けの家具は、釘などを使わずに自分で組み立てられるのも特徴だ。
「こすげつくる座」のオンラインショップで買える2wayチェア。デスクチェアとして使うときのもの。
上下を逆にするとロッキングチェアとして使うことができる。
 家具は木をくりぬいたようなシンボリックなデザインも印象的だが、木工の職人や作家になるためには技術や経験が必要だが、酒井さんら座員は小菅村に来るまで木工の経験はなかったという。  実は、彼らが手がけるのは伝統的な木工とは異なるアプローチでつくるデジタルファブリケーションなのだ。  これはデジタルで作図をし、機械でその形通りに切り出すというもの。そのため、複雑な形や滑らかなアールも自在に表現できるのが強みだ。酒井さん自身、元々プラスチックを使ったアート作品を手掛ける美術造形作家だ。「プラスチックとの最大の違いは繊維があること。その方向に従わないとうまく加工できませんし、それを逆手にとると強度をはっきしてくれます。また、塗装しようとするとしみ込んで、それが味になったり。プラスチックと比べるとコントロールできないところが多いのですが、それも木の良さですね。始めたばかりなので、まだまだなんです・・・けどね」と、木という素材の魅力をこう語る。
他拠点や兼業を支えるタイニーハウス
 森林に囲まれた源流の村にふさわしいオーダーメイド作品の依頼も増えている。 お店の看板、そして村に新しくできた村営の古民家ホテルの小物なども「こすげつくる座」の作品だ、  「小物などは村の間伐材を使うこともありますし、村のお宅の倉庫に眠っていた古い木材を使うことも。今後は、小菅村の無垢材なども使えたらいいですね」
「こすげつくる座」が手掛けたオーダーメイドの木の看板。村に眠る古材を使うこともあるという。
 酒井さんらを見守り、タイニーハウスの普及に努める和田さん。  「これからは1カ所に定住するのではなく、2カ所以上に拠点を持って暮らす人、副業を持ったり、自分で小さなお店を始めたりする人も増えるでしょう。特に地方はマーケットが小さいので、一つの事業で規模を拡大するより、複数の事業展開したり、兼業したりする方が現実的です。ネットの普及で実現しやすくなったそうした新しいライフスタイルや仕事のスタイルに、自由度が高くコストも抑えやすいタイニーハウスはぴったりです。地方都市が疲弊していると言われて久しいですが、モノを作り出す技術を持っている人は強いはず」と言葉にした。  日本の源流の村で育ったタイニーハウスという文化は、新たな価値を生み出すヒントを与えてくれる試みと強く感じた一日であった。 取材・文=吉田渓 撮影=田丸瑞穂(巻頭の写真)
参考資料