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未来を拓く源流新時代の幕開け ~全国源流の郷協議会~
全国各地の河川の最上流に位置する自治体が結集し、平成17年11月に「全国源流の郷協議会」が発足しました。 日本の源流域は、国土保全や環境保全の最前線に位置しており、河川の流域だけでなく、我が国にとっても非常に重要な地域となっています。 会員一同その責任を自覚し、源流域の環境などを保全に務めておりますが、源流の恵を共有する流域の皆さんと一緒に活動していくことが必要です。 当協議会では、源流地域の重要性を多くの方々に理解していただき、源流域が存続していけるよう源流基本法の制定などを提案し、その実現に取り組んでおります。
源流の町を変える「森の国まきステーション」(四万十川支流目黒川・広見川)
意外な場所にある温泉が「いい湯加減」のワケ
 四国で最長の川であり、「最後の清流」と称される四万十川。  今回訪ねた愛媛県松野町には、四万十川の支流である広見川と目黒川が町内を流れている。源流の町でありながら山と山の間隔が広いため、この町から見上げる空は広い。  広見川と並行して走るJR予土線の松丸駅。その駅舎2階にある「森の国ぽっぽ温泉」の露天風呂から眺めた夜空も、やはり広い。昼間にキャニオニングで源流に委ねた身を、今度は温泉に浸しながら満天の星を眺めていると、白いモヤのようなものが夜空に上っていくのが見えた。  その正体は、直ぐに判った。薪ボイラーの煙だ。ぽっぽ温泉は天然温泉だが、源泉が25度以下の冷鉱泉なので、ボイラーで丁度いい温度に沸かしているのだ。このボイラーに使われているのは町内の間伐材だという。この間伐材を木質バイオマスとして活用しながら地元経済を回す「森の国まきステーション」という循環システムがあると聞き翌日、早速その現場へ向かった。  訪ねたのは、南予森林組合の製材所跡地にある「森の国まきステーション」。  「森の国まきステーション」とは木材の循環システムに取り組む団体であり、その拠点施設の名前でもある。  その代表である谷清さんが、循環システムができた経緯について説明してくれた。  「昔から、このあたりは林業が盛んでした。が、大型林業ではなく農閑期に自分の山に入って手入れをしたり、原木でシイタケ栽培をやりよったんです。伐り出した木は、昔は木馬(きんま)引きで出していました。昭和50年代までは、『山から(木を)一本担いでくれば一杯飲める』と言われてましたが、木材価格が低迷して山主は木を伐らんようになって、伐っても山から出さんようになったんです」  しかし、松野町は総面積の84%を山林が占めており、1,717haの国有林に対し、民有林は約3.8倍の6,513haもある。源流を抱える地域であることはもちろん、防災という観点からも地元の人に山に入ってもらい、手入れをしてもらう必要がある。  そこで注目されたのが、ぽっぽ温泉だった。  「ぽっぽ温泉では、灯油ボイラーが使われておったんですが、豊富な山林の材木を使えないか…、という話になりましてね。平成27年(2015年)11月から『森の国まきステーション』が始まり、翌年の3月から薪ボイラーの稼働をスタートしました」
「森の国まきステーション」の会長・谷清さん。林業研究会の会長も務めており、ミツマタの栽培研究を試みたり、苗木の育て方も調べている。
森林組合の製材所だった場所に作られた「森の国まきステーション」には、運び込まれた木材がずらりと並んでいた。
町の人と山の関係を変えた「森の国まきステーション」
 間伐材を木質バイオマスとして利用する際、ペレットやチップに加工して発電に利用するケースも多い。しかし、加工するための施設やその施設を稼働させるエネルギー源が必要になる。松野町では温泉ボイラーという供給先が決まっていたこと、林業の後継者育成にはさまざまな課題があることなどから、薪に絞って利用することにしたそうだ。 「町内の山林の間伐材をここに持ち込んでもらい、買い取るのですが、買い取り価格の半分を現金、残りの半分を町内の店舗で使える商品券として支払います」  買取価格は広葉樹の生木(水分量25%以上)は1トン当たり8,000円、広葉樹の乾燥した木(水分量25%未満)なら9,000円。広葉樹はクヌギやナラ、カシなど木炭になる木だ。一方、針葉樹や雑木などの生木は6,000円、針葉樹の乾燥した木は7,000円。生木より乾燥した木の方が高いのは燃料として使いやすいためだ。  間伐材の受け入れ量は順調に増加しており、2018年度(平成30年度)は421.3t。本格的に運用を開始した2016年度(平成28年度)の368.6tから52.7tも増加している。薪の出荷先も、ぽっぽ温泉のほかに農林公社や道の駅、ふるさと納税の返礼品など広がりを見せている。  谷さんに話を聞いていると、荷台に間伐材を乗せた軽トラックがやってきた。軽トラックは慣れた様子でトラックスケールの上へ進む。重量を計測したら、まきステーションのスタッフが直ぐに荷台の間伐材を下ろし始めた。  トラックを運転しているのは、町内に住む藤井勝利さんだ。自分の山の木を伐って持ち込んだという。  「先祖から引き継いだ山の手入れは父に任せっきりで、父が亡くなった後もほとんど手つかずにいたんです。でも、最近はイノシシなどの被害がひどくて・・・。そんな時、このシステムができたので、山の手入れを始めました。今では週に4日は山に入り、週に2回は間伐材を持ってきています。周囲にはご高齢の方も多いので、頼まれてよその山や庭の木を伐ることも増えましたね」  地元の人にもっと山に入ってもらい、手入れをしてもらいたい。そんな思いから始められた『森の国まきステーション』。そのシステムは町のなかで浸透し、人々のライフスタイルも少しずつ、しかし確実に変えているように見えた。
所有する山の間伐材を運んできた藤井勝利さん。軽トラックに木材を積んだまま重量を量る。
買い取られた木材は、「森の国ぽっぽ温泉」の薪ボイラーで使いやすいサイズに合わせてカットされる。
源流の町が「森の国」と呼ばれる理由
 「『この森に遊び、この森に学びて、あめつちの心に近づかむ』。初代松野町長が残した言葉は、今もこの松野町のあり方を示しています」  そう教えてくれたのは、松野町の坂本浩町長だ。  「天然林と渓谷美が残る滑床渓谷が足摺宇和海国立公園に指定されるなど、松野町には豊かな自然が残っています。町では50年前から森の中で青少年を育成しようと、町全体で自然や景観を守ってきました」  滑床渓谷の自然を壊さないように遊歩道を作ったのは、戦後間もない昭和30年代のこと。当時としては画期的な取り組みだったと言えるだろう。  「しかし、愛媛県内に大きな被害をもたらした2018年7月の西日本豪雨では、松野町も浸水被害を受けました。山の保水力を維持するには環境整備が必要ですし、それには時間がかかります。『森の国』としてまちづくりをしているからこそ、まきステーションなどの取り組みは欠かせません。非常に大きな理想ですが、将来的に町内で使う熱エネルギーを木質バイオマスで賄えたらいいですね」  森の国と称される源流の町の松野町では、2002年(平成14年)から「松野町四万十川流域の河川をきれいにする条例」を施行している。  「昔から、この町の人にとって川は生活の一部。今は随分と天然ウナギの数は減ってしまいましたが、私より上の世代の方が子供の頃は、『勉強せんかったら、夕飯はウナギだけやぞ!』と言われたそうです。今では信じられない話ですが、それほど昔はウナギがよく獲れたそうです」
松野町の坂本浩町長。「源流域である国有林の作業道をMTBで走れる松野四万十バイクレースなども開催しています」。
松野町内には足摺宇和海国立公園に指定された滑床渓谷など、源流の豊かな自然が残っている。
 川は生活の糧を与えてくれると同時に、上流と下流をつなぎ、経済圏を作り上げる。  「目黒川と広見川は、隣接する四万十市で四万十川に合流します。そのため、流域の市町村は昔から仲が良く、一緒に川を守っていこうという思いが強いのです。都市には都市の役割があるように、私たち源流域では水の供給や山林の保護を担っています。今後はさらに、都市と山間の源流域が共生していければ嬉しいですね」  山で生まれた水は川となって長い旅路の果てに海へと注ぐ。生きている限り、水や川と無関係でいられる人はいない。それらを守るために山に入り、手入れをしている人がいる。都会にいると忘れてしまいそうなことを、源流の町に来ると思い出す。  きれいな水が日々生まれ、流れ、そして私たちの暮らしを支えていることの奇跡に改めて感謝した。