川と釣りと……
今回の川 新潟県・勝木川

90%が森林となる新潟県村上市山北地区を流れる清流。花崗岩質の石や砂が多く、渓相は明るい。流程は約20kmと短いが、森を流れる美しい上流域はイワナやヤマメを狙える渓流釣り場として名高く、環境省の名水百選にも選ばれた「吉祥清水」をはじめ豊富な湧水が流れ込む中流域には、県内外からアユ釣りファンが訪れる。サケのコド漁で有名な大川と同じ、大川漁業協同組合が管轄。

勝木川でアユとコケのイベントを開催!

8月下旬、新潟県村上市山北地区の地域団体「さんぽく活性化協議会」が主催する、川に親しむイベントが開催された。タイトルは「勝木川で学ぶ清流のヒミツ、アユとコケ」。花崗岩質の河床を流れる清流・勝木川の美味しいアユを食べながら、アユが食べているコケを採取して顕微鏡で観察しよう、という試みだ。私は縁あって、この会の企画とコーディネーターを務めた。講師は東京大学大学院博士課程に所属する藻類研究者の桑田向陽先生。さらに「さんぽく活性化協議会」の佐藤栄作会長が自らアユの巻き網漁を見せてくれるという。

当日の講師を務めてくれた桑田向陽先生。東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学を専攻する藻類研究者。主な研究テーマは海のプランクトンだが、今回は川のプランクトンである付着藻類について、子どもたちにもわかりやすく教えてくれた
川に向かう前に桑田先生がスライドでアユとコケの関係を紹介。そして、この日のミッションが言い渡された
当日は、わずか0.1mmにも満たないようなコケ(付着藻類)を観察できる顕微鏡(左)と数ミリから数センチの大きさの水生昆虫を観察した実体顕微鏡(右)を用意

参加者は新潟県内外からのファミリーを中心とする19名。夏休みの自由研究にも間に合うタイミングだったのだろう。たくさんの子どもたちが参加してくれた。
「勝木川のアユは、ワタがとっても美味しくて、はじめはほろ苦いんですが、噛んでいるとだんだん甘くなるんです。子どもたちはなかなか魚のワタまで食べる機会がないかと思いますが、今日はぜひ、美味しい勝木川のアユをワタごと食べてみてください」

佐藤会長から勝木川のアユが紹介されると、一行はいよいよ川へ。

野外活動は膝下ほどの浅い瀬で行った。リバーシューズとライフジャケットを着けて勝木川に浸かり、清流の魅力を味わった

野外活動の会場は最下流にある堰堤の50mほど上流にある開けた浅瀬。参加者には事前に桑田先生からこの日のミッションが言い渡されていた。ひとつは緑色をした糸状のコケ、ひとつは石に付いたヌルヌルの茶色いコケ、そしてもうひとつは石についた赤いコケ。以上、3色のコケに加え、アユが実際にコケを食べた「食み痕」も探してみよう、というものだ。参加者には小さな手網と白いバットが渡され、石の裏に付いている水生昆虫や魚の観察も行った。

箱メガネで水中を覗く。なにか見えたかな?
カジカが採れた!
桑田先生に教えてもらいながら、石についたコケを歯ブラシで落としていく。それをスポイトで吸って容器に入れる
ヌルヌルした石には、なにが付いているのだろう?

石に付いたコケ、いわゆる付着藻類の取り方はこうだ。バットの上に石を置き、水をかけながら歯ブラシで表面のコケをこすり落とす。石から剥がれたコケが混じった水をスポイトでプラスチック容器に入れればOK。まるで色水を集めているようで楽しく、小さな子どもたちも、熱心に石にブラシをかけていた。

小さなトビケラのやマダラカゲロウ、ヒラタカゲロウ、チラカゲロウ、ヘビトンボの幼虫など石の裏に潜んでいた水生昆虫をはじめ、カジカやカワニナ、大きなモクズガニなど、たくさんの川の生きものたちとの触れ合いを楽しんだ。

付着藻類が入った色とりどりの川水
真っ赤に染まった石。これも付着藻類
大小のモクズガニが採れた。サケやアユのように、モクズガニも川と海を行き来する生きもの

アユの巻き網漁を実演!

野外活動の最後に、佐藤会長によるアユの巻き網漁の実演が行われた。巻き網は投網にも似るが投げて広げるのではなく、短冊状の網でアユの群れの周りを文字通り巻いて捕らえる網漁だ。今回のように一人で行う際は、アユの群れが集まる場所に横いっぱいに広げておき、アユの群れが固まったところで巻いて閉じ込めるのだが、素早く的確に網を巻かないと、アユは開いた網の口から逃げ出してしまう。

ウエットスーツに身を包んだ佐藤栄作会長。深いところでは網を入れた後に潜ってアユをつかむこともあるため、水中眼鏡を付けている
巻き網を川に渡すように投げる
巻いた網にかかったアユを手づかみでとっていく
次々とアユを捕まえては腰に下げた引き舟に入れていく

今回は、佐藤会長が仕掛ける網に向かって子どもたちが一斉にじゃぶじゃぶと川を歩いてアユを追い込む方法をとった。すべては呼吸がものを言う。佐藤会長の合図に合わせて一気に追い込み、瞬時に網を巻くと、袋状になった網の裾に白い魚体がいくつも身をひるがえした。
「みんなが上手く追い込んでくれたから、たくさん捕れましたね」と佐藤会長。子どもたちは捕れたアユを手に大はしゃぎ。鼻を近づけてスイカのような香りを嗅いだり、歯ブラシのようにコケを石から削ぎ落とす口の構造をじっくり観察したりと、勝木川のアユと存分に触れ合うことができた。

網に向かってアユを追い込む子どもたち
巻いた網の中でアユを驚かして網の袋に追い込む
勝木川の大きなアユを手ににっこり

勝木川のアユを食べ、アユの食べているコケを学ぶ

野外活動を終え、室内会場に戻ると、炭火でじっくりと琥珀色に焼かれた勝木川のアユの塩焼きが、いわふね米のおにぎりと一緒に用意されていた。「頭から全部食べられるからね」と佐藤会長。その言葉どおり頭から頬張る。美味い。上品なワタのほろ苦さがとても好ましい。お代わり分も含めて山のように盛られたアユは、あっという間になくなってしまった。

山盛り焼かれた勝木川のアユ。頭から丸ごと食べるとワタの程よいほろ苦さが口に広がった

お腹も満たされたところで午後の部へ。みんなが川で採取したコケの水から、講師の桑田向陽先生が顕微鏡で藻類を探していく。顕微鏡は大きなスクリーンと接続されており、参加者みんながリアルタイムに拡大した姿を見ることができる。緑色の水には、細長く枝分かれした緑藻が含まれていた。川でよく見られるカワシオグサの仲間だ。次に茶色い水を調べてみると、唇型のクチビルケイソウや電車を連結させたようなチャヅツケイソウなどの珪藻、細かい毛が1カ所からもしゃっと生えた藍藻が見えた。

顕微鏡で拡大した藻類を大きなスクリーンで見ながら学ぶ
緑藻のカワシオグサの一種(Cladophora属)
藍藻の一種(Homoeothrix janthina)
珪藻のチャヅツケイソウの一種(Melosira varians)
珪藻のフナガタケイソウの一種(Navicula属)

赤く染まった石を歯ブラシで擦って取った赤い水からは、紅藻と呼ばれる藻類が現れた。「これはおにぎりに巻いてあった海苔と同じ仲間です」という桑田先生の説明に会場が沸く。さらに驚いたのは、クチビルケイソウが結構な速さで動き出したこと。珪藻を含む藻類は植物だとばかり思っていたが、実は分類学的には植物とは少し違ったグループであるらしい。藍藻は「シアノバクテリア」とも呼ばれ、大腸菌などに近い仲間なのだという。

そしていよいよ、イベントのメインテーマだった「アユが食べているコケ」に迫る。まずは桑田先生が見つけたアユの食み痕の付いた石から取った藻類を顕微鏡で観察すると、どこまでも延々と続く、チャヅツケイソウが現れた。ピントを変えると藍藻も浮かび上がる。どうやらアユは珪藻と藍藻を食べているようだ。お昼に食べたアユのワタには、きっとこれらの藻類が詰まっていたことだろう。アユの美味しさを決める一つの要因が珪藻や藍藻であることが、実感をもって理解できた。

アユの食み痕の付いた石から採取した付着藻類。中央に見えるのは珪藻のチャヅツケイソウ。藍藻も見ることができた
アユの食み痕。ササの葉を2枚重ねたような痕が付いている。ブラシ状の歯で付着藻類を削り取った痕だ
アユの胃内容物。チャヅツケイソウの殻や小さなクチビルケイソウが見られた

ところが、桑田先生の探究心はこれで終わらない。佐藤会長が巻き網漁で捕ったアユを解剖し、実際に胃の中身を顕微鏡で調べてみるという。果たして、何を食べているのか……。
「チャヅツケイソウにクチビルケイソウ、藍藻も見えます。石を擦って取ったものより細かく千切れてはいますが、食み痕のある石に付着したものと、ほとんど同じものをアユの胃の中から見つけることができました」

イベントの終わりには、参加者が実際に顕微鏡を覗いて観察を続けた。藻類に比べると巨大な怪獣のようにも見える水生昆虫に怖がったり、解剖されたアユに興味津々の子どもがいたり、それぞれに川への興味の枝葉を伸ばす1日となった。

顕微鏡を覗く子どもたち。楽しい自然観察会となった

川と触れ合う機会作りたい

今回勝木川を訪れ、改めて川に触れ合う楽しさを知った。上がりにくい魚道にアユを導こうと整備する行いも、そのアユを巻き網漁で捕らえる行いも、川ともっと繋がりたいと思う同質の気持ちからなるものだ。勝木川のアユを食べ、そのアユが食べたコケの正体を顕微鏡で覗いた子どもたちは、どのような思いを抱いただろう。川に触れることが川を好きになるきっかけとなり、川を好きになることが川を大切に思う心を育む。小さな川の生きものを学び、子どもたちと一緒に勝木川に足を浸して、そんなことを思った。