



日本一の広さを持つ淡水湖。約400万年もの歴史を持つ古代湖で、世界中で琵琶湖にしかいない固有種が60種を超える。今回の主役であるホンモロコもそのひとつ。琵琶湖大橋より北側を北湖、南側を南湖と呼び、今回は南湖の内湾、そして北湖にある内湖(琵琶湖と川などでつながる湖沼)の伊庭内湖と西の湖、その周辺河川を訪ねた。
サケのように産卵回帰するコイ科の小魚
私が琵琶湖のホンモロコに興味を持ったきっかけは、「琵琶湖固有種であるホンモロコが産卵回帰することを発見」という滋賀県による2024年のプレスリリースだった。そこにはこのように記されていた。
近畿大学農学部水産学科の亀甲武志准教授(編注・現教授)、水産試験場職員をはじめとする研究グループが、標識放流により、ホンモロコが生まれ育った場所から琵琶湖を広く回遊したのちに、産卵のために再び生まれ育った場所に高い確率で帰ってくることを明らかにしました。コイ科魚類は世界に広く分布する魚類ですが、コイ科魚類で産卵のため回帰することは世界で初めての発見です。(2024年2月13日滋賀県プレスリリースを一部抜粋)
産卵回帰?サケやマスのように?
近畿大学のプレスリリースにはさらに詳しく、ホンモロコが産卵場である内湖から琵琶湖の沿岸、沖合の深場へと成長に伴い回遊し、翌年には成熟して生まれた内湖に産卵回帰すると記されていた。
大海原を回遊しながら成長し、産卵のため故郷の川に帰還する。サケでは聞き慣れたロマンあふれるストーリーだが、10cmほどの小さなコイ科魚類が、日本一の広さを持つ琵琶湖を回遊した末に生まれ故郷に戻ってくるとは……。このセンセーショナルな研究成果は、サケマスが大好きという私の嗜好を差し引いても強く印象に残るものだった。インターネットで検索すると、琵琶湖のホンモロコについて実にたくさんの研究報告が出てくるわ出てくるわ。「琵琶湖の美味しい魚」ぐらいの知識しか持たなかった私は、この魚が琵琶湖にとって、滋賀県にとって、どれだけ大事な魚であるのかを知るとともに、この魚への興味を膨らませていった。

ネット検索で得られた研究報告から知ることのできたホンモロコの概要は次の通り。
・浅くて水温上昇の早い内湖が重要な産卵場となっている
・ヨシ帯やヤナギの根が重要な産卵基質となっている
・漁獲量は1995年までほぼ150トン以上と安定していたが、それ以降急速に減少し、2008年には10トンまで落ち込み、2014年の第4次環境省レッドリストでは絶滅危惧IA類に位置付けられた
その他のインターネット情報からは、近年では少しずつ数を増やし、産卵期には比較的容易に釣ることもできるようになっていると知った。ホンモロコの産卵行動を観察したい。できれば釣りもしてみたい。そんな思いを抱いていた折、過去に図鑑作成の仕事をご一緒したことのある写真家の内山りゅうさんとメールのやり取りをしていると、ちょうど琵琶湖でホンモロコの産卵行動を撮影するという。なんというタイミングだろう。数限りない淡水魚の産卵行動を撮影してきた写真家がホンモロコをどのように見ているのかを知りたい。そう思い、内山さんが来られる日を琵琶湖行きの初日と決めた。

琵琶湖に到着して間もなく、ホンモロコの産卵を目の当たりにする
京都駅からレンタカーで約1時間。目的地は南湖の内湾だ。立ち並ぶ大きなヤナギの木の下に、内山りゅうさんが三脚を立てていた。お会いするのは初めてのことだったが、挨拶もそこそこに撮影風景を覗かせてもらう。内山さんは、日本を代表するネイチャーフォトグラファーであり、水辺の生きものを中心に、数多くの図鑑や書籍を出している。また「NHKスペシャル」や「ワイルドライフ」(ともにNHK)など自然番組を舞台に、ネイチャードキュメンタリー映像の撮影にも取り組まれている。和歌山県の自宅から琵琶湖まで3時間。「今年はホンモロコやニゴロブナなど撮影したいシーンのタイミングに合わせてたびたび通うことになるでしょう」と笑顔で話す。実は10時過ぎ(私が到着する30分ほど前)に、産卵行動のピークが訪れ、良いシーンが撮れて一段落ついたところだと言う。

卵を産みつけるところを教えてもらう。ヤナギの根に産卵することは知っていたが、地上から四方に張り出した太い木の根を想像していたので、実際とはかなりの違いがあった。まず水際に立つヤナギの木がとても大きい。入り組んだ根はあるが、それだけではない。自分たちが立っている足元がすでに根の一部なのだ。根によってできた岸際のなだらかな傾斜がそのまま水中に滑り込み、水際に浅瀬を作り出していた。水際に打ち寄せた水の行先を見ていると、水がスーッとヤナギの根に吸い込まれて消えてしまう。細い根がナイロンたわしのように編み込まれ、まるでスポンジのようだ。そこに小さな銀色の小魚が数匹で乗り上げては飛沫を上げている。ホンモロコだ。よく見るとヤナギの根が広がった水深数センチの浅瀬に数匹が密集し、これらが波の打ち寄せるタイミングに合わせるかのように、根の上に乗り上げてくる。数匹がまとまって身を震わせ、水飛沫を上げる姿を見ることができた。
「大型のメスの後を数匹のオスが追いかけて産卵するんです。もうほとんど陸の上ですよね。干上がるような場所。ホンモロコの産卵は水中よりも、陸に乗り上げて行う姿が印象的でダイナミックでしょう。私はその瞬間を狙っていますが、なかなかタイミングが難しい。3,000カット切って、いい写真は……20カットぐらいかな。砂利底の浅瀬や水面に浮いたゴミ溜まりに産んだりもするんだけど、ヤナギの根っこに産卵するのがホンモロコ本来の姿なのではないかと思ってます。でもそういう場所は、もうほとんど残されていないんですよね。南湖にしても内湖にしても、ほとんど護岸されちゃったでしょ。撮影する上で一番大事なのは、やっぱり環境なんですよ」

眼前に広がるやや霞んだ琵琶湖を背景に、たぷたぷ、ざぶざぶと音を立てる波打ち際の反復を眺める。頭上には大きなヤナギの木が並び、揺れる木漏れ日に包まれながら、ヤナギの根の上にしゃがみ込む。時折、打ち寄せる波とは異なる引き波がツーッと水面を走る。チャパパパパッと飛沫が上がり、数匹のホンモロコがヤナギの根に打ち上がっては銀鱗を光らせて、また水中に戻っていく。あっちでチャパパパ……こっちでチャパパパ……。狙いを定めてレンズを向けるが、あちこちの音が気になってタイミングが決まらない。少し悔しい、でも楽しい。私たちのすぐ横では、地元のおじさんたちがナイロン製の小さな網を水際に構えては見事にホンモロコをすくっている。網は四万十川で見たことのあるエビダモにも似ていた。
「網地がモノフィラメントじゃないとだめなんです。見切りますから。昔、誰かがあの網なら捕れることを見つけて、みんなで真似して自作したんでしょうね。ほら、あの方は名人でね。上手いものですよ」見ると名人は、4~5mほどの延べ竿の先に直径20cmほどの針金枠をつけたナイロン製の網を構えている。離れたところからそっと水際に網を差し入れ、数秒待ってから上げる。するとそこにはもう、2、3匹のホンモロコがキラキラと光っているというあんばいだ。クロースアップマジックを見ているかのような、実に不思議な光景だ。力を抜いた佇まいは修練された武術にも見える。決して追わず、水際に浸けて、待ち、スッと上げれば魚が網の中でピチピチと跳ねている。
「追うたらあかんねん。落ち着いて、じっと竿浸けとったらええ。魚は勝手に入ってきよる。入ったらコンコンっていうからすぐわかる。もう、ホンモロコ捕りは30年くらいやってるけどな。いろいろや。一時期は居なくなったけど、今また増えとるな」

「魚が棲む環境も一緒に写したい」
内山さんは魚に限らず水生昆虫や両生類など数々の水辺の生きものの水中写真や映像を撮影する水中カメラマンの第一人者だ。だが本人に聞けば、何がなんでも水中撮影にこだわっているわけではないという。
「僕の場合、その魚をいかに魅力的に写すかを大切にしています。読者の皆さんが『この魚かっこいいな、きれいだな』と感じてほしいなと思ってシャッターを切るから、それがホンモロコのように水中でない場合もあります。生きものありき、なんですね。でもこの頃は少し撮りたい写真が変わってきたようにも感じています。その魚が棲んでいる環境も一緒に写したくなってきたんです。たとえばオイカワを撮る場合、昔はオイカワがきれいな水の中で泳いでいればOKだと思っていたんだけど、最近はオイカワの背景にカワムツやドジョウが一緒に写っているような写真を撮りたいんです。ムギツクの群れの下の砂地にカマツカがいたら、これも絶対に画角に収めたい。『この魚がいるのはこんな環境なんだ、他にこんな生きものもいるんだ』とわかるように、一緒にいる生きものも写し込むことが大事なんじゃないかと思ってきたんです。生きもの以外にも、流れのある環境なら、流れによる泡を一緒に写し込むとかね。こう思うようになったのは、環境がダメな時代になったから。失われていく環境を残していきたいと思う気持ちが以前よりも強くなったためだと思います」冒頭に書いたように琵琶湖のホンモロコはコイ科魚類なのにサケやマスのような産卵回帰性を持っている。どこにでも産卵する魚ではないからこそ、それぞれの環境が大切なのだと、改めて内山さんは思ったという。
「この環境で生まれたホンモロコはこの環境に戻ってくるわけですよね。最近では鮒寿司にされるニゴロブナも同じ田んぼに産卵回帰することがわかってきました。どこでもいいわけではなく、彼らにとってはその場所がいいから戻ってくるってことが科学的に証明されたのは、とても大切なことですよね」
お昼過ぎに内山さんと別れた後、もうしばらくホンモロコの産卵行動を観察した。やはり産卵のピークは午前中だったらしい。静かになった水際を覗き込んでみると、トビ子ほどの大きさの薄い琥珀色の粒々が、ヤナギの根にたくさん着いていた。そこはわずかに数センチほど水をかぶるぐらいの浅場で、覆いかぶさった水は根のマットに吸い込まれ消えていく。10cmも減水すれば、卵は完全に干上がってしまうだろう。それでも親魚はほとんど身を陸地に乗り出しながら、浅い湖岸のヤナギの根に卵を産む。卵を食べる魚たち(コイやフナ、ヨシノボリ類など)が侵入できないほどの浅場に。だが、自然はなかなかに厳しい。産卵する親魚はハシボソガラスに襲われ、産みつけられた卵はカルガモやオオバンなど水鳥に飽食されていた。





今ある自然は永遠ではない
期せずして早々ホンモロコの産卵行動を観察する機会に恵まれた私は、すでにかなり満たされていた。私の趣味は近所の川の自然観察で、毎年コイに始まりマルタやニゴイ、オイカワなど身近なコイ科魚類の産卵行動観察を楽しんでいる。ただそれは足繁く観に行ける環境だから可能なのであり、パッと行って産卵行動観察の機会に恵まれることはまずあり得ない。もちろん今回は内山さんに産卵場所とタイミングを教えてもらったことが目的を成就できた最大の理由だが、それだって幸運なしには実現しない。内山さんも和歌山の自宅から片道3時間かけて無駄足を踏む経験をたくさんしていると話されていた。この出会いを当たり前だと思ってはならない。
またそれ以前に、今楽しめる自然を永遠だと思ってはならない。内山さんが実感されているように、水辺の生きものが生きる環境は日本全国で年々劣化している。これまでなんとなしに自然を痛めつけてきてしまったツケが、今になって温暖化の影響を受け、顕在化しはじめた。川の生きものにとって致命的である高温と渇水。そうかと思えば甚大化した集中豪雨により過度の攪乱を受ける。ネイチャーポジティブの時代といえど、人命には代えられないから、一層の河川改修が加えられていく。持続的な供給が疑わしくなった化石燃料に代わる風力やメガソーラー、小水力発電など、期待の再生可能エネルギー事業も、当該地域の自然にとってはネガティブな面が大きい。私たち釣り人は、今相手にしてくれる魚、今楽しめる自然を永遠のものと思ってはいけないのだ。
このような自然の危機がリアルに迫る現代において、琵琶湖のホンモロコはある意味で未来への道筋を示す存在とも言える。今、資源は増えているのだ、順調に。今回産卵行動を観察した南湖のホンモロコは、ほんの10年前はほとんど皆無と言えるほどだった。

ホンモロコの産卵回帰を解明した亀甲武志博士に聞く
琵琶湖を訪れる2週間前、ホンモロコの再生事業に深く携わられ、冒頭で紹介した産卵回帰性を解明した近畿大学農学部水産学科の亀甲武志博士にオンラインで話をお聞きすることができた。2020年3月まで滋賀県の職員だった亀甲さんは水産試験場に所属時、先輩職員とともに当時激減期にあったホンモロコをどのように増やせるかという課題に取り組んでいた。そもそもホンモロコは「琵琶湖で一番美味しい魚」とも言われる重要水産物であり、1995年ぐらいまでは琵琶湖全域で年間100~350トンほどの漁獲量があった。ところがそこから激減をたどり、9年後の2004年には5トンにまで落ち込んでしまったという。実に1/70。もともと好漁場であった南湖からも、ほとんど姿を消してしまうことになる。なぜなのか?
「鮒寿司の原料となるニゴロブナも一緒に減りましたのでね。内湖など産卵場所の減少や、ブラックバスやブルーギルなど外来魚の食害による影響があるのだろうとも言われてます。もうひとつ、タイミング的に大きな理由と考えられたのは、1992年からの国による琵琶湖の水位操作の影響です。周囲の住環境への氾濫を未然に防ぐため、雨の多い時期に備えて6月16日からの基準水位をマイナス20cmとし、これに向けて琵琶湖の水位を少しずつ下げていく操作を行うようにしたんです。ホンモロコは水際ギリギリの浅場に卵を産む魚ですから、産卵期に水位を下げるとたくさんの卵が干上がって死んでしまうという話が魚類学会誌に報告されました。また、雨が降って水位が上がると、元々水がなかったところでも産卵しますから、直後に急激に水位を下げると産み付けられた卵は全滅してしまいます。ホンモロコは1年で成熟、産卵して死亡する個体が多いので、ある時期に大きく数を減らすと、新しい資源が加入されず、その先の激減の引き金になってしまうんです」琵琶湖には数百本の川が流れ込むが、水が流れ出ていく川は南湖の先にある瀬田川だけだ。たびたび氾濫する琵琶湖の水位を速やかに下げようと、すでに江戸時代には瀬田川の水はけをよくする浚渫や川幅拡張が度々行われてきたという。そして1992年、瀬田川洗堰操作規則に基づき、梅雨時期の計画的な水位低下が実施された。湖岸に住む周辺住民にとっては待ち望んだ改革だ。だが、人と自然の共存はなかなか難しいもので、琵琶湖を代表する魚であるホンモロコが、これによって姿を消していったのだ。
「僕が滋賀県の水産試験場で働き始めた2012年は、南湖ではもう20年近くもホンモロコの産卵が確認できていない状況でした。先輩からは『昔は南湖でもホンモロコが卵を産んどったんやで』なんて話を聞いたりしましてね」滋賀県は重要な水産資源であるホンモロコを復活させようと、2013年より南湖への稚魚放流を開始した。同時に亀甲さんも所属していた水産試験場では、さらに詳しいホンモロコの生態解明に取り組んでいった。


多角的な資源管理がホンモロコ資源を回復に向かわせる
ここで今一度、ホンモロコの概要を紹介しよう。ホンモロコはコイ科タモロコ属に分類される全長10cmほどの小型魚であり、もともとは琵琶湖だけに棲む「琵琶湖固有種」だ。近縁のタモロコは北海道と沖縄を除く日本全国に分布するが、自然分布は関東地方以西の本州と四国に限られる。タモロコが川の中下流域や田んぼの用水などに棲み、ユスリカやイトミミズなどの底生動物を主に食べているのに対し、ホンモロコは琵琶湖の中層で主に動物プランクトンを食べて育つ(これが味の差になるとも言われている)。この習性に適した形状なのか、ずんぐりとした印象のあるタモロコに比べるとホンモロコは口先が細く尖り、体型はシュッとスマートだ。ヤナギの葉に似ていることから「ヤナギモロコ」と呼ばれることもある。
主に3~7月に琵琶湖や内湖の湖岸に接岸して産卵。夏から秋にかけて少しずつ沖合に出ていき、冬場は沖合の水深60~80mあたりで漁獲される。漁は一年中、漁法を変えて行われるが、釣り人が出会えるのは接岸する春から初夏に限られる。
水産試験場はホンモロコが主にヤナギの根に産卵していることや、大雨後の急な水位低下操作によってホンモロコが産んだ卵の大部分が干上がってしまったことなどを明らかにしていった。このデータを元に、滋賀県と国土交通省が情報交換を行い、ホンモロコなどコイ科魚類の産卵に配慮した水位操作を検討するようになった。
産卵環境の科学的な解明と提案により、ホンモロコの産卵ピークである5、6月の水位を維持する配慮が実施されるようになり、大きな危機要因は取り除かれた。だがホンモロコの復活にはまだ必要なことがあった。カギとなったのは琵琶湖の西側、近江八幡市にある伊庭内湖と西の湖という2つの内湖だった。


伊庭内湖に次いで、すぐ隣にある琵琶湖最大の内湖・西の湖でも、同様の方法でホンモロコは復活の兆しを見せた。
「せっかく帰ってきたホンモロコには卵を産ませてあげなあかんということで、2015年に漁師さんにホンモロコの自主禁漁をお願いしたことも良かったんやと思います。当初は伊庭内湖だけで始めたのですが、2016年からは琵琶湖全域で5月と6月の2カ月間を自主禁漁してもらう資源管理を導入しました。ただ、漁師さんには我慢してもらっていたのですが、その一方で伊庭内湖や流入河川では一般の方々が釣りや網で自由に獲っていました。ホンモロコは内湖だけじゃなく、そこに流れ込む川や水路の石や砂利にも結構な数の親魚が遡上して産卵していたんです。2012~2013年の調査では伊庭内湖と西の湖で琵琶湖のホンモロコの4~5割を支えていたという試算もありましたから、この2つの内湖でしっかり産卵させてあげることが琵琶湖のホンモロコを増やすことにつながると考えました。釣り人など一般の方々への規制はとても難しいことですが、調査データを積み重ねた上でご理解をいただき、特に産卵の集中する河川区域をいくつか決めて、毎年4月と5月にホンモロコを含むすべての水産動植物を禁止するという滋賀県内水面漁場管理委員会指示を出させてもらったんです」釣りの自由と資源管理のための規制は、理解とバランスがとても難しい。理不尽な規制はともかく、魚を増やすため(これ以上減らさないため)という、釣り人にも利益のある規制だとしても、なかなかスムーズに理解が得られるとは限らない。そこで水産試験場では膨大な調査データを積み重ね、たもすくいや釣りがホンモロコ資源に及ぼす影響や、ホンモロコの産卵回帰習性を解き明かしては説明し、理解を深めてもらった。その上で2017年、滋賀県の内水面漁場管理委員会指示により伊庭内湖と西の湖の流入河川の一部区域で4~5月の2カ月間、すべての水産動物採捕禁止の措置が決められた。2026年からはホンモロコのみの採捕を対象に滋賀県漁業調整規則として同様の禁漁措置が取られている。

ホンモロコは増えたが、食べる人が減った?
産卵期の漁獲規制と一部区域の一般採捕規制に加え、産卵場の整備や外来魚の駆除、水田を利用した1,000万尾規模の種苗放流、ホンモロコの回遊を妨げる過剰繁茂した水草の除去など、多角的な取り組みの実施により、ホンモロコ資源は2026年現在も順調な回復傾向をたどっている。滋賀県によると琵琶湖のホンモロコ推定資源量は、2020年に100トンに迫り、2021年には200トンを超えた。近年では内湖での資源管理の成功をもとに、かつての主要産地だった南湖でホンモロコを増やす試みが進められ、成果が認められている。「漁獲量」で350トンを超えている年もあった半世紀前と比べれば、まだまだ回復途上と言えるだろうが、環境保全・再生と漁獲規制によって資源量が回復した意味はとても大きい。
「順調に回復していることは、とてもうれしくホッとしていますが、その一方でホンモロコを食べる文化の衰退を感じています。激減していた20年ほどの間にホンモロコを食べる人や、食べられるお店が少なくなってしまったんですね。臭みもなくとても美味しい魚ですから、増えてきた今、もっとたくさんの人に食べてほしいですね」亀甲さんは、炭火で素焼きして生姜醤油か酢味噌をつけて食べるのが最高だという。
「深場に落ちた冬モロコや子持ちの春モロコも美味しいけど、うちの研究室の少し食通な学生は『栄養が卵に移る前の、身に脂がたくさん乗った秋モロコが一番』なんて言ったりもします。最近人気のあるワカサギも美味しいし、身が柔らかいから子どもの評判もいいんですけどね。琵琶湖ではワカサギは外来魚ですから、琵琶湖固有種のホンモロコには負けてほしくないですね(笑)。ワカサギに比べて少し苦味もあるホンモロコは“大人の味”と言えるのかもしれません」内湾を後にして、琵琶湖の南端にあたる大津市出浜へ向かう。亀甲さんおすすめの和食居酒屋「からっ風」で、素焼きしたホンモロコを生姜醤油でいただいた。琵琶湖のホンモロコを食べるのは初めてだ。
頭から口に放り込むと、炭火焼きの香ばしさと頭周りのほろにがさが鼻に抜けた。身は淡白でありながら、思いのほか味わいは濃く、歯ごたえもよい。同じ大きさのワカサギに比べても食べ応えがある。これは日本酒の肴に最高だ。だが今回は移動手段が車ゆえ、烏龍茶とともにいただいた。皿に並んだ8匹のホンモロコをパクパクと、あっという間に平らげてしまった。
琵琶湖で人気の魚介類であるビワマス、コアユ、ハス、ニゴロブナ、スジエビ、ゴリ、イサザそしてホンモロコ。これら8種の魚介類は「琵琶湖八珍」と呼ばれ、伝統的な食文化とともに琵琶湖の名産となっている。からっ風は琵琶湖八珍の発足に関わった店でもあり、旬の八珍を楽しめる。この日は炭火で焼いたホンモロコのほか、ビワマスの頭焼きと、ニゴロブナのふなずし茶漬けをいただき、琵琶湖の幸を存分に堪能することができた。次回はぜひともお酒と合わせたいと再訪を誓い、店を後にした。



