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未来を拓く源流新時代の幕開け ~全国源流の郷協議会~
全国各地の河川の最上流に位置する自治体が結集し、平成17年11月に「全国源流の郷協議会」が発足しました。 日本の源流域は、国土保全や環境保全の最前線に位置しており、河川の流域だけでなく、我が国にとっても非常に重要な地域となっています。会員一同その責任を自覚し、源流域の環境などを保全に務めておりますが、源流の恵を共有する流域の皆さんと一緒に活動していくことが必要です。 当協議会では、源流地域の重要性を多くの方々に理解していただき、源流域が存続していけるよう源流基本法の制定などを提案し、その実現に取り組んでおります。
冒険家・風間深志の新計画「子どもに学ぶ・水のワークショップ」
1980年代後半から1990年代初頭、日本を沸かせていたバブル経済。バイク冒険家の風間深志さんが主宰する「地球元気村」が生まれたのは、そんな狂乱の時代の真っ只中、1988年のこと。35年目を迎えた「地球元気村」は『子どもも大人も自然の中で純粋に遊びを追求し、みんなで地域をつくろう』という新しい価値観を日本に浸透させた。今も遊びの純粋性を追求し続ける風間さんに、今年(2022年)から始める新たな自然体験プロジェクト「水のワークショップ」について語ってもらった。
環境への想いがつないだ出会い
 僕が今、改めて目を向けているのは『川』です。ここのところ、環境汚染や大気汚染、海洋汚染といったことがものすごく大きな問題として押し迫っていますよね。なんだか、普通に呼吸していることが、息苦しく思えるほど・・・。「じゃあ、僕にやれることはなんだろう?」 と考えたのです。  でも、海洋汚染を解決するなんて、「僕ができることじゃないよなぁ~」と。できることといえばゴミ拾いくらい。それなら、川辺を掃除して歩くのがいいんじゃないかなと。僕は釣りが好きだし、川から遠のいてしまった子どもや、川遊びや釣りを体験したことがない子どもはいっぱいいますから、呼びかけていこうと考えたんです。  それと同時に、訴訟にまでは発展していないものの、川の水質汚染が深刻な状態になっているスポットも全国に見うけられます。そういったことに目をつむるのではなく、何かをしたいと思っていました。  では、研究者の人たちはこの状況を学術的にどう捉えているんだろう。  そう思って、山梨大学 大学院総合研究部の西田継教授(参考資料1)にお話を聞きにいったんです。  西田教授は、国際流域環境研究センター長も務めていらっしゃる、生命環境学の研究者です。その西田教授が「自然はもっと神秘だし素晴らしいもの。知らないことを知るということが、これからの学問には必要なのです」と言ったんです。  それは、僕たち「地球元気村」が最初から考えてきたことでもあるんですよ。自然には解明できない神秘さや深みがあることを、最先端の研究をしている人も考えているんだなぁ、と嬉しく思いました。そこから、西田教授と一緒に、「水のワークショップ」を始めることにしたのです。
山梨県の富士川にて。今、改めて川の価値、水の本質に目を向けている風間さん。
本能で生きている子どもこそが先生だ
 なぜ子どもたちは昆虫や、泥だらけになる遊び、木登りが好きなのか。水と人間の関わりってなんなのか。水循環を我々はどう見るべきか─。そうした問いを子どもから教わっていきたいんだ、と西田先生は言うんですよ。  実は、僕も子どもから学ぶことが大事だと思っているんです。  よく「幼児教育」って言うでしょう?  でもね、本当は大人が幼児に教わることばかりなんですよ。僕はね、僕らの先生は子どもだと思うんです。それなのに、幼児教育だとか言って大人が子どもに一方的に知識を突っ込むのは、おかしいんじゃないかなあ。そうした教育が行き着いた先が今の文明社会の現状でしょう?  ちょっと話が反れますが、僕は山梨県北杜市にある「森のようちえん」とお付き合いがあるんです。そこには草ぼうぼうの園庭や森があって、トイレは昔ながらのボットン便所(汲み取り式)。  その「森のようちえん」に行くと、毎回発見があるんですよ。  3〜4歳の子からびっくりするような言葉を聞いて、目から鱗が落ちる体験をします。  ある時、僕がトイレに行きたくなってね。二つ並んだドアの前で、「どっちかなあ」と独り言を呟いたんです。すると、右のトイレに入っている子が、トイレの中から「(入れるのは)左だよ!」と教えてくれました。彼はなんと背中で僕を見ているんですよ。そんなふうにアンテナを張っているんですね。  また、僕は足が悪いんですが、僕が小川を渡ろうとした時、子どもが「この杖を使ったらいいよ」と渡してくれたんです。僕には短すぎるとわかると、もっと大きいのを探してくれる。  こんなふうに、子どもは「この人には何が必要か」という観察眼を持っているんです。  この二つの話はどちらも他愛もない日常の一コマかもしれない。けれど、僕はこう思ったんです。「森のようちえん」の先生たちは、「毎日、子どもにいろんなことを教わっているんだな。まるで神様に対面しているみたいだな」って。  同時に、なぜこの子たちは神様みたいに、こちらの胸をつくような言葉を発するんだろうと思い、僕なりに子どもを観察してみました。  「森のようちえん」では、学校みたいに知識を教えるわけではありません。子どもたちは泥団子を作ったり、時々パンを焼いたりして過ごしています。そんな姿を見て、「子どもは自然の中でこそ育っていくものなんだ」と改めて気づきました。いろんな動物や植物を見て、その中で一つの生命として生きている。だから自然が好きだし、好奇心を持ってその中に入っていくんだなと。  大人は「こうしたら人に好かれる」という処世術や、学問的な知識を身につけているから、どうしても知識や既成概念に囚われてしまいます。一方で、子どもには知識や既成概念に囚われない、本質的な輝きと強さがある。だからこそ、子どもから学ぶことは実に多いんです。
山梨県山梨市「水口のたんぼ」にて。春の田植え、秋の収穫を小学生とともにおこなう「地球元気村」のプロジェクト。自然の中では子どもから学ぶことは多い。
 こうした思いもあって、今年から子どもたちを主な対象にして山梨県で「水のワークショップ」をやることになりました。これは、人間が生きるうえで一日だって欠くことのできない水の本質を見つめていこう、というものです。 「水のワークショップ」では、子どもと一緒に川に行き、子どもからいろいろなことを教わろう、と考えています。子どもたちは危ないことをしてしまう可能性もあるから、そこは僕らがガイドをして、一緒に川に入り、子どもから『学ぶ』のです。 「水のワークショップ」は、季節ごとにいろいろな川でやれたらいいなぁ~、と思っています。山梨県に流れる富士川水系の釜無川や笛吹川の他、小笠原諸島・父島の川なんかでもできたら嬉しいですね。まずは今年夏場にも山梨県でやろうと予定しています。
美しい山中湖に隣接する村営キャンプ場をリノベーション予定。「地球元気村」の新たなチャレンジが始まっている。
山中湖で哲学と自然を行き来する
「水のワークショップ」は「地球元気村」の延長上にあるもの。  そのため、これまでは特定の拠点を持たずにやってきましたが、2021年に僕が山中湖村観光大使に就任したことを機に、村営の山中湖キャンプ場をリノベーションするプロジェクトを始めました(参考資料2)。ここは「地球元気村」の活動拠点となる予定です。  このキャンプ場は、森に囲まれた三島由紀夫文学館の奥にあります。そこで物思いに耽り、外に出るとパッと視界が開けてとてもハッピーな気分になるんですよ。そこでキャンプをして夜を迎え、焚き火や星空を眺めると、一夜の安全や明日のこと、生活や仕事など物事の本質に思いを馳せる。  これは、まさに哲学ですよね。  思考の集積(文学館)と、自然(キャンプ場)はまったく別のもののようで、実は同じ。よりよく生きるための思考の集積と、解放感のある自然の中で見つめる自分の人生や家族。その二つが見えるのがとてもいいですよね。これから1年間かけてキャンプ場をリノベーションしていきますので、楽しみにしていてください。

 大人だって自然の中でとことん純粋に遊ぶという、それまでなかった価値観を日本にもたらした風間さんの「地球元気村」。35年目を迎えた今、辿り着いたのは自然と人間の本質を見つめ、水の循環の中でいかに生きるかということ。「子どもに学ぶ」という新たなベクトルからどんな化学反応が起こるのか、興味は尽きない。 文=吉田渓 写真提供=風間深志事務所