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未来を拓く源流新時代の幕開け ~全国源流の郷協議会~
全国各地の河川の最上流に位置する自治体が結集し、平成17年11月に「全国源流の郷協議会」が発足しました。 日本の源流域は、国土保全や環境保全の最前線に位置しており、河川の流域だけでなく、我が国にとっても非常に重要な地域となっています。会員一同その責任を自覚し、源流域の環境などを保全に務めておりますが、源流の恵を共有する流域の皆さんと一緒に活動していくことが必要です。 当協議会では、源流地域の重要性を多くの方々に理解していただき、源流域が存続していけるよう源流基本法の制定などを提案し、その実現に取り組んでおります。
源流探検部特別編  親子で学ぼう! 奇跡の星・地球をつくった鉄の不思議
生きるために必要な鉄はどこからきたの?
これまで日本全国の源流を訪ねてきた源流探検部。そこでは多くの人々が源流や森林、そしてさまざまな源流文化を守っていた。そうした源流域の人々や有識者に話をお聞きし続けるうちに、「なぜ、源流や森を守る必要があるのか」という疑問に対する答えの一つが「鉄」だ。 では、なぜ鉄なのか。 それは、あらゆる生き物にとって、生きていく上で必要なのが鉄だからだ。陸のあらゆる生き物も、海の生き物も、植物だって同じ。植物は土の中の鉄を取り込み、人間や陸の生き物は食べることを通じて鉄を身体に取り入れている。さらに、海の生き物には、森の土から生まれたフルボ酸鉄という物質が川を通じて海に運ばれている。(詳しくはvol.76とvol.77へ)。 では、そもそも鉄はいったいどこからくるのだろう? 地球にはどのくらい鉄があるのだろう? そんなギモンに答えてくれるのが、はやぶさ2小惑星探査機などさまざまな宇宙計画に参画している東京大学の宮本英昭教授だ。 自然や生き物に欠かせない「鉄」を、ぜひ宇宙から見てみよう! Q. 鉄は地球にどのくらいあるのですか? A. 地球の3分の1を鉄が占めています。
地球の表面だけで見ると酸素が最も多いが、地球全体で見ると鉄が最も多く3分の1を占める。
詳しく説明すると… 地球の表層(地殻)だけ見ると、酸素やケイ素が多いのですが、地球全体で見ると、3分の1を鉄が占めていると推察できます。というのも、地球中心部のマントルは、溶けた鉄でできているためです。鉄は重いので、中心部分に集まっているのです。地球は水の惑星であるとともに、鉄の惑星だと言えるでしょう。 Q. どうして地球にはそんなにたくさん鉄があるのですか? A. そもそも鉄は宇宙の中でも特に多く存在するからです。 詳しく説明すると… 宇宙が誕生した138億年前、最初に生まれたのが水素とヘリウムと電子でした。さらに130億年前に、恒星(自ら光を出す星)の内部で核融合が起こり、さまざまな元素がつくりだされました。その中でも特に鉄が増えたのには理由があります。鉄よりも小さい原子核は核融合で大きくなった方がより安定しますから、恒星の内部で起こる核融合反応の最終到達点は鉄なのです。また鉄よりも大きい原子核は分裂して小さくなった方がより安定します。こうして長い年月とともに宇宙には鉄が増えていきました。こうして作られた鉄も含め、さまざまな元素が原材料になって、太陽系が誕生し、地球が生まれました。 Q. どうして生き物には鉄が必要なのですか? A. 鉄は、身体のすみずみまで酸素を運び、生きるのに必要なエネルギーをつくる手助けをします。
陸上の生き物はもちろん、海の生き物も、ほとんどの生き物が生きるために鉄を使っている。
詳しく説明すると… 地球上のほとんどの生命は、生きるために鉄を使っています。人間やいろいろな動物の血は赤いですよね。それは、血液の中にヘム鉄が含まれるから。血液に含まれるヘモグロビンは鉄を中心にできています。ヘモグロビンは酸素と結びつきやすいのが特徴。 そのため、鉄を中心としたヘモグロビンは、体のすみずみまで酸素を送ることができます。さらに、酸素を受け取った細胞は鉄を介して電子を受け取り、酸素を使って炭水化物などの栄養素をゆっくり燃焼させて酸化させ、エネルギーを生み出すことができるのです。 Q. 太陽系の中でも地球に生き物がいるのはなぜ? A. 大量の鉄が創る強大な磁場がバリアになって、宇宙放射線をさえぎってくれるからです。
大量の鉄が電気を流し強大な磁場が作られ、宇宙放射線から生命を守っている。(画像提供=多摩六都科学館)
詳しく説明すると… 地球の中心核では大量の鉄とニッケルの合金が溶けて対流し、強大な磁場を作っています。宇宙からは生命に危険な宇宙放射線が降り注いでいますが、この強大な磁場が宇宙放射線をさえぎる役割を果たすため、地表で生き物が生きていけるのです。 その一つの例が、大気を維持する役割です。太陽の中では大量の水素による核融合反応が起きていて、プロトン(陽子)を宇宙空間に放出しています。もし地場が無く、そのエネルギーが直接地球の大気に衝突したら、大気が宇宙空間に逃げてしまいます。すると、地球の表面の圧力が下がり、水が蒸発してしまうでしょう。火星は昔、海がありましたが、太陽風によって剥ぎ取られたと考えられています。地球では強大な磁場がそれを防いでくれているのです。 Q. 地球の内部にある鉄を取り出して使うことはできる? A. それより、宇宙に行く方が簡単かもしれません。 詳しく説明すると… 地球の質量の3分の1は鉄ですが、その多くは地球内部にあります。地球の表層にもありますが、酸素がたくさんあるため酸化(錆びている)しています。そのため、鉄を使って何かをつくるには、まずは錆びた鉄を還元しなければいけませんが、すさまじいエネルギーが必要です。日本はマントルの物質を手に入れる計画を進めていて、その道では世界でもトップレベルです。しかし、それでもたかだか深度10km。深度3000kmの鉄のコアは遥か先で、宇宙に行くよりも難しいのです。 地球の周りには約300万個の小惑星があると言われており、その中には鉄や白金でできた小惑星もあるでしょう。話題になったイトカワやリュウグウなどの小惑星は重力が地球の1万分の1と非常に小さいため、比較的行きやすいのです。半径1kmの鉄でできているタイプの小惑星には約100億トンもの鉄があると推測されますが、これは人類がこれまで使った鉄の量と同じ。しかも、地球のように酸化しておらず、すぐ使える(還元されている)状態です。将来的には、小惑星の金属を利用することもあるかもしれませんね。
源流探検部からひとこと
鉄の惑星と言えるほど、鉄が豊富な地球。鉄がたっぷりあるからこそ地球には生命が生まれた。そして、この星で暮らす生き物は、人間もライオンも犬も猫も魚も鳥も、そして植物も、みんな鉄がないと生きていけない。だからこそ、海の生き物を育むフルボ酸鉄をつくってくれる森やフルボ酸鉄を海へと運んでくれる川もまた、大切な存在なのだ。
私たちは「次世代を担う子どもたちに、水の尊さを自ら体感してほしい」という想いから、その源である豊かな森林、そして源流域の取材を続けてきた。
「なぜ水が尊いのか。」「なぜ森林を守っていかなければならないのか。」私たちが子どもたちに伝えていきたいことのひとつとして、森林が、川が、取り込んだ“鉄”こそが私たち地球上の生き物の生命を維持するのに必要な役割がある。
そして私たち人間の役割は、鉄がくれた奇跡のような自然環境を大切に守っていくことなのだろう。
鉄は生き物に不可欠であり、その鉄を森が育み、川が運ぶ。ゆえに私たちは本気で森を守る必要があるのだ。この大切な関係について、ぜひご家族で考えてみてください。


写真=田丸瑞穂
文=吉田渓
画像=多摩六都科学館


プロフィール
宮本英昭
東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻/教授・専攻長。はやぶさ小惑星探査機、はやぶさ2小惑星探査機、MMX(火星衛星サンプルリターン)計画をはじめとした小惑星探査計画に参画するとともに、太陽系探査機のデータ解析などを行っている。また、宮本教授の宮本研究室では、子どもから大人まで楽しめる「宇宙ミュージアムTeNQ」のサイエンスエリアの監修や、同リサーチセンターの運営も行っている。
参考資料
  • 『鉄学 137億年の宇宙誌』(宮本英昭 立花省吾 横山広美著 岩波書店刊)