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2022.01

焚き火を楽しむ大人のバス釣り

「焚き火マイスター」猪野正哉の極意を探るインタビュー

「焚き火マイスター」として、焚き火の楽しみ方を数々のメディアで伝える猪野正哉さんがやってきたのは、山梨県にある西湖。周囲にキャンプ場の豊富な“キャンプの聖地“で、バスフィッシングと焚き火キャンプを楽しむ一日をレポート。

着火にフェザースティックは欠かせない

「バス釣りをするのは20年ぶりくらいです。あのときは一日中やっても釣れなかったなぁ」

西湖畔のキャンプ場に着いたら、はやる気持ちを抑えてまずはテント設営。そして夜の焚き火に向けて下準備を行う。細かい作業を明るい時間帯に完了しておくことが、キャンプにおける焚き火の成功のポイントなのだとか。

「たまに早朝から薪を割っている人がいますが、まだ寝ている周囲の人を起こしちゃいますから、明るいうちに必要な量の薪を準備しておきたいですね」

明るいうちにテントを張り、焚き火台の位置を決めたら、薪の準備を始める。焚き火台の大きさに合うように斧で薪を割っていくが、できることなら細く割るように心がけたい。「薪が太くても細くても、炎の大きさはそんなに変わりませんから」

そして割った薪は、よく燃えるように太陽の下に晒すのがポイント。

「天気が良かったら、日の光に当てて割った薪を乾かしておきましょう。地面に直に置くのではなく、シートなどを下に敷いて水分を拾わないように気をつけて。最近のアウトドア人気で薪も不足気味ですから、無駄なく有効に使えるように下準備をしておきたいですね」

焚き火において、着火のプロセスで苦労したことのある人も多いだろう。着火剤を使うのも手だが、薪割りの最中にも、着火をぐっと楽にする工夫はできる。猪野さんがフェザースティックづくりのポイントを教えてくれた。

「フェザースティックがあると、着火剤がなくても火がつきやすくなりますし、あれば確実に火がつきます。ソロキャンプの時なんかはこれを作る時間も楽しいんですよ。5〜6本あるといいでしょう。両手でナイフをしっかりと持ち、体重をかけて削っていくのがコツです。この時、薪の端をしっかりと膝で地面に押さえつけて動かないようにします」

試しにできたフェザースティックに火を灯してみると、みるみる燃え上がった!

20年ぶりのバス釣り

焚き火の準備も整ったところで、いざ20年ぶりのバス釣り! といきたいところだけれど、目の前に広がる西湖、どこをどんな風に釣ったらいいか、初めてでは難しいもの。今回は自身もアウトドアが大好きだというプロアングラーの茂手木祥吾さんが指南役としてバス釣りをレクチャーしてくれることに。

ブラックバスはルアーという疑似餌で釣るのが一般的。魚のいそうなポイントにルアーを通すためには、まずキャスティングという投げる動作を覚える必要がある。遠くにルアーを投げられたり、狙ったポイントの近くに投げられることが、釣果につながるのだとか。

「ルアーは種類がたくさんあって選ぶのが難しいですが、そのフィールドのバスが食べているエサに合わせるのが基本です。西湖ならワカサギなので、ワカサギのようなルアーを使います。基本はゆっくり巻いていればOKですが、時々バスに気づいてもらえるように竿をあおって、動きに変化をつけてあげてください。ここに餌があるよって魚に教えてあげるんです」

釣れない時間も贅沢でいい

一通りの釣り方を習った猪野さんは、集中した表情でルアーを投げ続ける。どんどん歩きながら、ポイントを探っていく。座ってできる餌釣りと違って、バス釣りはかなりアクティブな釣りだ。ずっと投げて巻いて、歩いて。ほとんど動きっぱなしといってもいい。

残暑きびしい西湖からは、なかなか魚の反応がない。それでも鏡のような湖面、雄大な富士山、鳥の鳴き声……大自然に包まれている感覚は、釣りに集中しているからこそ肌に感じられる。

「釣れない時間も贅沢でいいですね」

そんな言葉が自然に出るくらい、充実した時間が流れている。暮れなずむ湖面の美しさに、釣れない悔しさよりも満ち足りた本音がこぼれる。

まもなく日没というタイミングで待望の魚信が! ルアーとそう大きさが変わらないけれど、喰いついてきたのは紛うことなきブラックバス。一日の終りに飛び出した嬉しい一匹は、実は取材スタッフの釣り竿にかかったもの。隣で猪野さんは、初めて見るブラックバスに目を丸くしていた。「ホントに釣れるんですね」とは、猪野さんの弁。

残念ながら初めての一匹とはならなかったけれど、ルアーで釣れることを知って、猪野さんには俄然興味と、釣欲が湧いてきたようだった。しかし、日没を迎えたのでこの日はこれで納竿。湖畔のキャンプ場だから、日が沈むその瞬間まで釣り竿を振っていたのだった。

焚き火の時間の始まり

薄暗くなってきたキャンプサイトが、たちまちのうちに暖色に包まれた。明るいうちに支度を整えた薪がよく燃えている。日の沈んだこれからは、焚き火の時間だ。気温もぐっと下がった夜は、焚き火の温かさにほっとする。

焚き火を囲みながら、今日の釣りを振り返る。これはキャンプ プラス フィッシングだからこその醍醐味だ。猪野さんと茂手木さんの会話は夜と共に深まっていく。焚き火を囲みながら、話が尽きない猪野さんに今日の釣りを振り返ってもらった。ひさしぶりのバス釣り、いかがでしたか?

「最初に話したように、若い頃にやったバス釣りは辛い思い出でした。20年ぶりにちゃんとやってみて、自分自身がちょっと変わったんだなと感じました。元々登山からアウトドアに入ったのですが、今は山頂を目指さない登山も楽しんでいますし、自然の中にいることが一番大切で一番気持ちいいと感じるようになったようです。釣れた釣れないはその後だなと」

釣りをしている時間そのものを楽しむ姿勢は、焚き火の火を見つめる時間を楽しむことに近いのかもしれない。暖をとる、何かを焼くといった目的がなくても、ただ揺れる炎を眺めているだけで焚き火の時間は贅沢にゆったりと流れていく。揺れる湖面と木々のざわめきに耳を済ましながら糸を巻く釣りの時間も、やっぱりすごく贅沢だと思える。

プロフィール

猪野正哉(いの・まさや)
アウトドアプランナー/焚き火マイスター。男性ファッション誌のモデルからライターとしてアウトドア業界へ。千葉県千葉市のアウトドアスペース「たき火ヴィレッジ〈いの〉」を主宰し、焚き火のワークショップなど焚き火の魅力を精力的に発信している。2020年、自身初の著書「焚き火の本」を上梓。
Instagram : @inomushi75

猪野さん直伝の焚き火のコツをさらに掲載! onyourmark.jpで記事フルストーリーを読む
https://mag.onyourmark.jp/2021/10/camp_plus_fishing3/137691

Text by Yufta Omata
Photograph by Nobuhiko Tanabe