「何にも邪魔されない、のんびりする時間」

2025.04.18

ハンモックマニア野沢ともみと非日常を楽しむインタビュー

アウトドアライター兼デザイナーとして活動する野沢ともみさん。自他ともに認めるハンモックマニアで、岐阜県に構えた森のある自宅には国内外のハンモックを40個以上持つ。そんな彼女がいま大切にしている「のんびりする時間」を紐解いていく。

ヘビー級キャンパーからの脱却

野沢さんがキャンプを始めたのは、豪華で大きなテントを展開するグランピングスタイルのキャンプがブームになりかけていたころ。「当時はヘビー級キャンパーで、毎回100kg以上の道具をアウトランダーの荷室がいっぱいになるまで積んで、設営と撤収に2時間近くかけていました」

ある日、テントを持たずにハンモックだけでキャンプを楽しむ友人に出会い、設営から片付けのスムーズさに感動した野沢さん。「私が必死にテントを立てている間にコーヒーを楽しんでいるのを見て、大掛かりなキャンプでむだにしていた時間に気がついてしまって……」

すぐにハンモックを買ってみたところ、準備や片付けの簡単さはもちろん、同じハンモックでも用途や布の違いで使った時の印象が違うところにハマってしまい、気がついたらハンモックマニアになっていたという。キャンプスタイルが変わったことでアウトドアでの過ごし方も変わってくる。

「木にツリーストラップ(※)を回してハンモックをかけるだけ。ほんの数分の設営で済んでしまうので、自然のなかでの自由時間が格段に増えました」

そんな野沢さんのイチオシのキャンプアイテムは「ハミングバード」のハンモック。

重さは世界最軽量クラスの147gで、コーヒーカップよりも小さなサイズ。ツリーストラップと合わせてもいつでも持ち運べる気軽さが魅力。
コンパクトなハンモックに合わせてしだいに小さな道具にも惹かれていったという。

※ハンモック専用のロープのこと

釣りが一番気軽だった

ハンモック泊をすることで生まれた自由時間を、登山やトレッキングなどの遊びに活かすようになった野沢さん。

「せっかくならキャンプに近い遊びがいいなと思った時に、自給自足が合うと思ったんです。調理道具は持っているし、自分でとったものを食べるのはロマンがありますよね。山菜とかキノコもいいけれど、釣りが一番気軽だと思ったんです」

小さいころに親戚と一緒にハゼ釣りをして天ぷらにしていた経験があるという。その思い出の一幕がいまのスタイルにつながっているのかもしれない。

コンパクトなハンモック泊の道具に、小さな竿を組み合わせて遠方までキャンプに行くことも。
とくに島でキャンプをする時には、空き時間に楽しめるかも?と釣り竿を荷物に必ず忍ばせる。

「釣果によってご飯のランクが変わるゲーム性もおもしろい。無人島で魚が釣れなくて蟹を捕まえて作った蟹汁も、屋久島で釣れたカラフルな魚も、どれもいい思い出です」

釣った魚を調理するのもキャンプの醍醐味。野沢さんの最近のお気に入りは「ペレ炭と美濃焼コンロ(七輪)」のセットでの塩焼き。直径14cm、七輪の赤ちゃんのようなサイズのコンロにペレット状の炭を置くスタイル。「ペレ炭はすぐに火が付くし、片付けも楽ちんです」

考えすぎな自分を解放する時間

釣りビギナーにとって気になるのは「釣りの時って何をして何を考えているの?」というところ。

「友達と行くことも多いけれど、離れた場所で過ごすからおしゃべりとかはせず、ただただ無の時間。視力もそれほどよくないし、魚影もあんまり見えないから、ぼーっとしています」という意外な答え。

「日常生活ではつねに仕事をしたり考え事をしているから、寝る前も考えが張り巡らされすぎて眠れなかったりするんです。その解放のための時間を作っています。山登りのようなアクティブなアウトドアも楽しいけど、リラックスしたアウトドアが好きなのはそんな理由からかもしれません」

この日は自宅フィールドを流れる川を跨いでハンモックを張り、延べ竿でのエサ釣りとテンカラを楽しんだ野沢さん。川の流れを感じながらゆっくりと流れる時間はたしかに気持ちがいい。

せっかくの余暇には頑張りすぎないことが大切なのだとか。「釣りもあんまりハマって釣れないことがストレスになったら嫌なんです。リラックスしにきているのに釣果に執着すると凹んでしまうので、自分が楽しめる範囲で期待しすぎないことがアウトドアを楽しむポイントだと思っています」

暑い夏でも小川を抜ける風は涼しく、釣りに疲れたらハンモックに寝っ転がってのんびりできる。午後の時間は太陽の傾きが早いので、川面をキラキラと照らす木漏れの表情もすぐに変わっていく。釣れる釣れないではなく、この自然のなかで過ごす一体感こそが忙しい毎日からの解放につながるのかもしれない。

「時には前向きに諦めることも大事。せっかくの遊びなのでリラックスして、頑張らないキャンプ、頑張らない釣りを楽しんでみてください」


■プロフィール|野沢 ともみ

愛知県豊川市出身のアウトドアライター兼デザイナー。アウトドア好きが高じて2020年に岐阜県に移住。自身のキャンプフィールドを持ち、自宅には40個以上のハンモックを所有するハンモックマニア。著書「日本でイチバンやさしくて詳しいハンモックキャンプの本」(2024年発刊)を上梓。

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Text by Fuumi Mori
Photograph by Sean Hatanaka