ダイワアングラー
磯フィールドテスター
ISO FIELD TESTER
磯
SPECIAL INTERVIEW
スペシャルインタビュー
職人魂を研ぎ澄ます「掌のアンテナ」。
チヌ釣りと大工の技を極めるべく挑み続ける
熱き男の職人ストーリー。
木村 公治
チヌ釣り職人の原点
「聞く」ことが、成長に「効く」。
自分を高めるための修行術が、職人魂の礎に。
十代の頃から大工職人になることを志した私は、弟子入りした大工の師匠がチヌ釣りの達人だったこともあり、それがきっかけでチヌ釣りを始めました。チヌと初めて対峙したのは、師匠と行った山口県の柱島。17歳の時でした。師匠は42cmを釣り上げましたが、その時私は釣ることができず、「何としても釣りたい」という思いから、達人たちに釣り方を聞いて回ることにしたんです。話を聞いていくうちに「チヌ釣り=底釣り」だけではない、いろいろな釣り方で達人たちがチヌを釣り上げていることを知りました。柔軟にいろいろな釣り方を試すと、ある日一気に3匹も釣れて。あまりの嬉しさに寝ている仲間たちを起こして自慢して回ったのを覚えています(笑)。もっと釣りが上手くなりたかった私は、「堤防ストリートファイト」的に堤防の名手たちに挑み、「その人よりも釣る」という自分なりのルールを決めて勝負をして回りました。そこで勝ちを重ねて自信をつけた後、250人ほどが集まる釣り大会に出場したのですが、1回戦で見事惨敗……。その悔しさから、もう一度自分の釣りを見直しました。達人たちの技を見聞きし、真似をしてみたり、自分流にアレンジしてみたり。ときには「今日は同じウキひとつで釣り続ける!」など、自分に制限をかけて釣る修行も実践してみました。それが実ってか、磯釣りの大会で60cmオーバーのチヌを釣って優勝することができました。堤防ストリートファイトで天狗になっていた時期もありましたが、なりふり構わず成長のための方法を探り続けたこと。そのプロセスが、今につながっているんじゃないかと思います。
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若かりし頃は血気盛んに釣り対決を挑んだ広島湾の堤防。今でも釣り場に行くと、気軽に誰にでも話しかける。
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釣り師のほかに、大工としての顔も持つ木村。華麗でダイナミックなパフォーマンスは、大工作業でも健在だ。
大工仕事で培った感性
刃物を扱う職人の手は「繊細なアンテナ」。
大工職人の経験が活きる釣りの設計術とは。
じつは私は、大工職人として広く建築業に携わっています。新築住宅の設計施工から、店舗の改築・リフォーム、古民家の再生まで手掛けることもあります。建築の仕事は図面やプランがあって、そこから各工程を進めていく、言わば「逆算積み上げ式」の仕事です。
このスタンスは釣りと似ていて、私の場合は「ここでこの魚を釣るんだ!」という意志を固めたら、そこから釣り方、エサ、タックルを逆算して組み立てます。釣りにおける計画性は、大工仕事から学んだ部分が大きいですね。
道具の面も、然りです。道具を大切にすることは、この仕事から学びました。カンナやノミなどの大工道具は、「手の一部」と言って良いほど大切な相棒。道具の状態が仕事の質に直結するため、つねに刃を研ぎ澄ませておくことにこだわっています。刃物を研ぐ時間というのは、私にとって「心静かに、精神を統一する」時間。刃のどの部分が、砥石のどの部材に当たっているかに全集中することで、神経が研ぎ澄まされます。実際にカンナやノミを使って部材を削る時も同じように、刃先を通して手のひらに伝わる微細な感覚から木の堅さや節の有無を感じ取り、部材をあと0.1mm削るか否かなどの判断をします。情報を得るのは目ではなく「手のひら」なんです。この感覚は釣りにも通じるものがあり、竿から手に伝わる振動や感触によって「いま、竿のどの部分が仕事をしているのか?」「魚がどう動いているのか?」という目に見えない部分を想像します。手のひらは私にとって「アンテナ」だと言えるかもしれませんね。
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数ある道具の中でも一番のお気に入りは、コツコツ貯金して買ったというカンナの名作「鳴門 潮」。
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10代の頃に刃物を研ぐ競技会に出たこともある木村。修業時代には数えきれないほど刃物を研いできた。
未来の設計図
成長のためには情報をシェアすることが大切。
「大九」レベルを目指して、今日も竿とカンナを手に取る。
チヌ釣り師としてこれからもずっと大事にしていきたいのは、「みんなで一緒にレベルアップしようぜ!」というスタンスですね。「秘伝の技術は自分だけのもので誰にも伝えず隠しておく」という人もいますが、私はそういう考え方ではなくて、良いものや役立つ情報、裏技なんかも含めてどんどんシェアしていきたいタイプなんです。これは「良い技はどんどん伝授する」という師匠の背中を見て育ってきたから思うことです。仮に、私が釣り知識を教えた釣り人がそれによって上達し、その人に私が負けることがあったとしても、それは構わない。だってそのほうが釣り業界全体としては盛り上がるはずだから。釣り人の多くは、土日や休日に釣りに行くわけですが、その貴重な休みを使うからこそ、一尾でも多く釣ってほしいと思っています。それによって、また一週間楽しい日々が始まるわけじゃないですか。月曜日の朝に、同僚に釣った魚のことを自慢したり、気持ちが晴れやかになって週末まで頑張れたり、「釣れる」ということは、日々の生活にプラスな感情をもたらしてくれるんじゃないかと思っています。
釣りにも大工仕事全般にも言えることですが、長年やってきたことなのに、「こういう方法でやれば、こんなことができるのか!」と、いまだに新たな発見があるんです。「大工」という言葉には「大九」という意味があるという説があり、大一、大二、大三…と熟練度が上がっていくと言われています。40年近く続けてきた大工も釣りも、まだまだ「大九」の領域には到達できていないと思っているので、仲間たちと一緒に、これからもチャレンジし続けていきたいと思っています。
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茶室の設計・施工を手掛けたこともある木村にとって、大工の手仕事にはすべて、作り手の「心」が出るという。
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自らが彫った「福田屋」さまの店看板の前にて。改築した外観、内装も含めて、ほぼ木村ひとりの手で仕上げた。