ダイワアングラー
ソルトウォーター オフショア フィールドテスター
SALTWATER OFFSHORE FIELD TESTER
オフショア
SPECIAL INTERVIEW
スペシャルインタビュー
豪胆と繊細が織りなすグラデーション
世界中を釣り歩くフィジカルモンスターの多彩なる感性と魚愛。
瀬川 良太
臆さぬ心と体のルーツ
異国で揉まれ、磨かれた心身のタフネスさ。
「怖いもの知らず」ではなく、「怖さを知ったうえ」で前に進む。
僕は少年時代、親の仕事の関係でカナダに住んでいました。カナダは移民の国なので、いろんな人種の人たちが住んでいます。こっちはアジア人なので当然、欧米人や南米人に比べたら、体格差があります。でもそんなことはまったく気にせず、年上の友達といっしょに遊んだり、スポーツをしたりしていましたね。とくにカナダでは、「氷上の格闘技」と言われるほどハードなアイスホッケーが国民的スポーツとして人気で、僕もよくプレーしていました。タックルやチャージなど、とにかくボディコンタクトの多いスポーツですから、パックを取り合う際に吹っ飛ばされることも多く、悔しい思いもたくさんしましたね。
そんな環境で育ったからこそ、彼らに負けない戦い方や身体の使い方を常に考えるようになりました。そうやって小さいころから不利なバトルをたくさん経験してきたので、自分よりもデカくて強い相手と対峙することには慣れていましたし、いま思うと、「臆さないメンタル」が自然と身についたのかもしれません。
この経験は、釣りにも活きているように思います。モンスター級のヒラマサを狙う場合、向こうの方がこっちよりも力は強いし、磯から落ちて怪我するリスクを考えると、恐怖心はゼロではないんです。そこで重要になるのが、恐怖心を飲み込んで前に突き進めるかどうか。それはつまり、ただの「怖いもの知らず」ではなく、緊迫した中でフリーズせずに冷静に状況判断する力を持っているかどうかということ。「ふぅ~あぶねぇ」とか言いながらリスクや恐怖と対峙しつつ、その先にあるワクワクするバトルに向けて、ぐっと強く踏み込んでいける豪胆さみたいなものを大事にしたいと常に思っています。ファイト中、磯を駆け回る姿を見て、よく皆さんから「瀬川さんって筋トレめちゃくちゃやってるんでしょ?」と聞かれるのですが、本当に何もやっていなくて…。体幹は少年時代の経験で鍛えられた部分はあると思いますが、僕の釣りはハードな釣り場に挑むことが多いので、釣り自体がトレーニングになっているのかもしれませんね(笑)。
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釣りをはじめる前には、日本武道に伝わる呼吸法「礼三息」を必ず行う。そうすることで身体のバランスが整い、不安定な足場でも体の芯がブレずにキャストできるという。
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瀬川の相棒 ソルティガ。瀬川のキャラクター同様、強さと繊細さを兼ね備える。日本人離れしたパフォーマンスは、すべてこのタックルから解き放たれる。
「釣る」と「描く」の両輪
魚というカッコいい生き物が好き。
その気持ちの彩りが、ロッドとペンに乗っていく。
はじめて釣りをしたときのことは、はるか昔すぎて覚えていません(笑)。父も祖父も釣りが好きな人だったので、物心ついたときには釣りや魚に囲まれていました。海外に住んでいると当然、日本のテレビ番組が見られないので、祖父が送ってくれた VHSの番組を食い入るように見ていましたね。その中に、開高健さんの釣り番組が録画されていて、モンゴルで釣りをしたり、秘境で怪魚を狙ったり、幼い僕はその映像を何度も見返して「このおじさんみたいなことしてみたいな」と漠然と思っていました。
そんな釣りへの憧れを胸に、カナダ郊外にある湖にブラウントラウトを釣りに行ったときのこと。その湖は透明度がとても高く、澄みきった水の中を優雅に泳ぐ魚たちの風景が、絵の中の世界のように幻想的で美しくて……当時の僕には、まるで魚たちが空中を散歩しているように見えたんです。あれ以来僕は、自然の美しさや雄大さに触れたときに、「あぁ、生きてるなぁ」と感じるようになりました。そんな環境で育ってきたので、幼いころから「魚を釣ること」と「魚の絵を描くこと」を自然とやってきました。
今でも暇さえあれば魚の絵を描いていて、海外遠征の移動時間や空港での待ち時間などに、僕の頭のなかを泳いでいる魚たちを、iPadを使ってデジタルで描き上げていきます。よくロケ先でカメラマンさんから「瀬川さん、魚のリリースが早いから撮影するの大変!」と言われますが、あの短い時間でもじつはじっくり魚を観察しているんです。だって、いちばん近くで魚を観察できるのって、釣りだけじゃないですか。自分の好きなものをしっかり近くで観察するには、結局、自分で鈎に掛けて釣り上げるしかない。「かっこいい魚を間近で見たい!」その強い気持ちが真ん中にあって、魚を描きたい衝動と魚を釣りたい衝動が、僕のなかでひとつに繋がっているんです。
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魚の絵を描くときは、何も見ずに想像だけで筆を動かしていく。大好きなGT、ヒラマサ、普段釣らないアオリイカなど、多種多様な魚たちが瀬川のiPadの上を自由自在に泳ぐ。
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父親とともにカジキマグロ釣りに出掛けた際の一枚。掛けたマグロをバラした後の悔しさが、瀬川少年の表情に滲む。
モンスターを追い求めるロマン
「安全に釣ること」と「釣りの醍醐味」を伝えていく。
そしていつか、未知のモンスターをダイナミックに描ききる。
これまでいろんな強い魚とファイトしてきましたが、ヒラマサの面白さは別格です。「本当に魚の力なのか?」と思うくらいの力で引くし、暴力を振るわれている感覚になるほどの狂気じみた迫力があります。とくに磯からヒラマサを狙うと、予測のつかない挙動に翻弄されることも多いです。急に沖の方に走ったり、力を緩めてみたり、また引っ張ってみたり…。ファイト時間は短いけれど、休む間なんてない。だからこそ、飽き性の僕でもこの釣りだけはやめられないんです。ショアからの釣りは、「どこでいつ何をどう狙うか」そのすべてを自分の責任と感性で決められる良さがあります。ゆえに、釣れるも釣れないも自分次第。釣りたい気持ちが高まったときにロッドを振ればいいし、自由気ままに魚と向き合えるおかっぱりスタイルが一番好きなんです。
DAIWAテスターになって5年以上経ちますが、最近釣りに対する向き合い方が少し変わってきて、このヒラマサのビッグゲームの魅力を発信していくためには、「安全に釣ること」を伝えていくのも僕の使命だと思うようになってきました。僕はどんな釣り場でもいきなりルアーを投げることは絶対にしませんし、とくに磯で釣りをする場合は、足場が滑らないか確認したり、ファイトからランディングまで安全にできる場所を入念に下調べしたりしてから釣りをするようにしています。こう見えて意外と繊細なんです(笑)。あとは、自分が子供のころに夢見ていた「こんな魚に出会いたいな」という純粋な気持ちを、次の世代にも感じてもらうこと。釣りには「釣れるとか釣れない」以前に、未知なるものに挑戦するロマンがあるじゃないですか。僕自身、今もリベンジしたいモンスターたちが何匹かいます。激流のなかで掛けたのに3回やられている場所があって。みんなは「あそこにデカいのはいない」と言いますが、僕は確実にいると思っています。それはまだ、誰も獲った人がいないだけ。いつかそいつを釣り上げて、絵に描き残したい。それが僕の密かな野望なんです。
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八丈島でお世話になっている釣り宿のシゲさんと愛犬のパンチと。「瀬川さんは“天然の唯我独尊”って感じでマイペースだけど生き物にやさしい人」とシゲさんは語る。
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辛いものが苦手で、甘いものが大好きという意外な一面も。行きつけのハンバーガー屋ではシェイク、中華料理店では杏仁豆腐をマストで注文するという。