ダイワアングラー
鮎フィールドテスター
AYU FIELD TESTER
鮎
SPECIAL INTERVIEW
スペシャルインタビュー
命あるものと対峙する野性観。
鮎釣り師の洞察力と、猟師の経験則で野生動物の習性を捉える。
生粋のハンターが語る命との向き合い方。
瀬田 匡志
猟師としての勝負勘
「生き物の習性を見抜く目」と「一撃にかける集中力」が
狩猟を通してさらに深く研ぎ澄まされていく。
私には鮎師だけではなく、猟師というもうひとつの顔があります。農作物被害を生み出す害獣駆除を目的に、11月から3か月間の狩猟期間のみ、週末を中心に山に入って猟をします。狙う獲物は、主にイノシシやシカで、猟銃と罠を使って捕獲します。猟銃は弾を3発充填できる英国製の散弾銃を使っています。野生動物という自然が相手なので、一度として同じ状況などなく、テレビゲームのようにリセットすることもできません。ましてや相手は大型動物。こちらにもリスクがあります。本気で突進してくる獣との間合いのなかで、一発の弾に込める集中力や、一瞬で判断する勝負勘のようなものが身についてきたのかもしれません。罠はすべて手作りで、仕掛ける際は野生動物の習性を利用します。実は獣道にも、獣が通る頻度や目的に応じて「道のランク」があるんです。人間界でいう国道・県道・市道のようなものですね。足跡などから獣の交通量を判断し、「ここは必ず踏むはずだ」という箇所に罠を設置します。こうした自然を見抜く力も、狩猟の経験を通して養われた気がします。生き物の習性というものはすごく面白くて、それを深く追求していくことで見えてくる道筋があるんです。失敗と成功を繰り返すことで自分なりの戦術リストができあがっていく。それは釣りでも同じことが言えると思います。狩猟は、そうしたゲーム性があるいっぽうで、その目的がたとえ害獣駆除だったとしても、生き物の命を奪う行為であることに変わりはありません。命を奪うからには、それを美味しくいただく責務がある。そのポリシーのもと、肉が痛まないように獲物を捕獲することを心がけ、持ち帰ったあとは、皮剥ぎから解体、調理まで、すべて自分の手で行います。自然のなかでドングリを食べて育った野生のイノシシやシカは、本当に美味しいんですよ。
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自作の罠は足跡が強くついている場所や黒くなっている所、草木がなぎ倒されているような箇所に仕掛ける。
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ドングリを食べて育ったイノシシの肉はほのかに甘く、驚くほど美味。いつかジビエの店を出すのが瀬田の密かな夢。
3匹の猟犬と命の尊さ
猟犬たちがいたから今の自分がある。
自然とともに生きていくために、命を敬う。
猟師にとって猟具以上に大切なのが、猟犬です。まず、猟犬は鋭い嗅覚で獣の痕跡を見つけたら、その匂いから獣の居場所を探し出します。次に、獣を見つけたら睨みをきかせて動きを止めます。そして、猟師がGoサインを出すと獣に向かって飛び掛かります。猟師は、猟犬の威嚇に驚いた獲物が慌てて逃げだした瞬間に引き金を引く。こんな寸法です。だから、犬と人との連携がとても重要なんです。猟師歴のなかで、私は「陸・海・空」という名前の3匹の紀州犬を飼ってきました。海と空は寿命を全うし、いま飼っているのは、その2匹の子である陸1匹です。この3匹は性格が全然違っていて、海はミッキーマウスみたいな可愛い顔に似合わず、風に乗った獣の匂いを嗅ぎつけると、急に谷に降りて吠え出すような鋭い嗅覚の持ち主でした。空はものすごく勝ち気で、獣を見るなりアキレス腱に嚙みつきにいくような闘争本能の固まりのような子でしたね。そんな2匹を親にもつ陸は、比較的穏やかで賢い性格に育ちました。同じ猟犬でもイノシシにやられることなく、最後まで命を全うして愛されながら死んでいく犬というのは、ものすごく名犬なんです。「あんたの犬と一緒に狩猟に行ったら、どこでも獲物が捕れる」と狩猟仲間から言われたことがあり、猟師としてここまで信用してもらえるようになったのは間違いなく犬たちのおかげ。海と空には墓石をつくって、よく連れて行った山と川が見える場所に一頭ずつ埋めました。猟師の中には猟犬をコロコロ変えたり、気に入らなければ山に捨ててしまったりする人もいると聞きますが、私はそういうことは絶対にしたくない。犬は道具じゃないし、彼らにも一生がある。私にとって、人も犬も命の尊さは同じなんです。
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海と空はかつて瀬田とともに駆け巡った山が見える場所に眠る。猟犬たちの話をする瀬田の表情には愛情が滲む。
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狩猟前には鳥獣供養塔に手を合わせる。命をいただくことで自分もまた生きていく。そんな感謝と決意を込めて。
大山と日野川の恵み
日野川に育ててもらったチカラと
大山の恵みにエネルギーをもらって未来へ突き進む。
私の家の目の前には、日野川という川が流れています。中国山脈に源流をもち、名峰・大山の裾野を流れて雄大な日本海へと続く日野川は、中流域は鮎マスターズの予選にも使われる川で、大山の自然の恵みや豊富なミネラルによって立派な鮎たちが育ちます。物心がついた頃には、すでにこの日野川で釣りをしていましたね。少年時代にこの美しい川で巨鯉と対峙して大物を釣り上げるロマンを抱いたり、大山の麓でスキージャンプ選手として鍛錬を積んだり、自分という人間をつくった源流というか、ルーツのようなものは、大山とその麓から流れる日野川にあるようにも思えます。
川の状態を「観る」ことと、魚の状態を「診る」ことを教えてくれたのも、この日野川です。川底の石が綺麗に光っていれば、魚が石についた藻【コケ】を食べている証拠なので、魚がある程度、元気な証拠。鮎の色がややくすんだ色であれば、病んでいる状態です。逆に、「川底の石が綺麗で、鮎の色が石と同化するくらい綺麗な色をしている時」が鮎のコンディションが良い証拠なんです。川が与えてくれた、そうした視点は、今の私の鮎釣りにも活きていると思います。
すべての生き物に豊かな恵みを与えてくれる大山の自然。日野川の源流から注がれる美しい水。そこで育まれるイノシシやシカ、そして鮎。これからも狩猟や鮎釣りを通して、大自然のなかで「命」と向き合っていきたいと思います。
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鳥取県を流れる県内三大河川のひとつ日野川は瀬田の主戦場。この川とともに育ったと言っても過言ではない。
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使用後の猟銃は毎回分解してメンテナンス。パフォーマンス向上のために道具を大切にするのは釣りも狩猟も同じ。