山元 隆史 山元 隆史

磯フィールドテスター

ISO FIELD TESTER

山元 隆史

Takashi Yamamoto

山元 隆史

1970年10月4日 徳島県在住
尾長グレ始め、大型魚に強いこだわりを持つ大物ハンター、大物を狙う事に特化したテクニック探求の研鑽も日々怠らない。尾長グレの自己記録は69.4cm。

SPECIAL INTERVIEW

スペシャルインタビュー

塗り重ねる大いなる志。

ロマンを追い続ける大物師の美学と
こだわりを重ね続けるウキ職人の矜持。

山元 隆史

磯釣りとの出会い

山元 隆史

海ではなく空に掲げていた穂先。
父の背中を見て育った磯少年の思い出。

初めて釣り竿に触れたのは、釣りではなく「凧揚げ」でした。リールに巻いた凧糸を送り出し、その先に凧をくくりつけて竿を空に掲げて走ると、風に乗って凧が高く揚がってくれるんです。父の山元八郎が磯釣り師ということもあり、いたるところに釣り具があったので、子供の頃はそんな風に釣り具を使って遊んでいました。当時は、父がDAIWAのカタログに載っているのを何度も見返しては、「カッコいいなぁ」と憧れましたね。普段は普通のおっちゃんなのですが、磯釣りで日本一を34回獲っただけあって、ひとたび竿を持つと本物の磯師の風格を醸し出すから不思議です。そんな父に小学校へ上がった頃にハエ釣りに連れていってもらい、そこで初めてちゃんと釣りをしたのを覚えています。
釣りにハマりたての頃は、近くの地磯を陸伝いで歩いてチヌを釣りに行ったこともありました。一日夢中になって釣ったあと、帰ろうと思ったら満潮になってしまっていて、パンツ一丁で海の中を歩いて帰ってきたことも(笑)。そのくらい磯釣りは楽しかったし、「状況に合わせて仕掛けを替えたら釣れる」ということが単純に面白かったんです。この時の気持ちは、磯師として、ウキ職人として、フカセ釣りを追求し続けている今にもつながっているように思います。

  • 山元 隆史

    行きつけの渡船の船長とは長い付き合い。山元の活躍を喜んでくれる人間の一人だ。

  • 山元 隆史

    磯に上がると自然と表情も変わる。荒波や悪天候の方が胸が高なるのは、磯師の血統だ。

ウキ職人としての矜持

山元 隆史

ウキとは魚と釣り師の「接点」である。
絶妙な浮力を生み出すための2つのこだわり。

今の僕はグレのフカセ釣りトーナメントに挑みながら、自社の工房でウキの製造開発に力を注いでいます。ウキづくりに携わるようになって約30年になりますが、ウキは魚と釣り人をつなぐ「接点」だと考えています。グレという繊細な魚を狙う際、ウキが止まっているのにサシエだけがフラフラ流れていると警戒されるため、流れに馴染んで違和感なく沈む「程よい浮力」がフカセ釣りのウキには求められます。その絶妙な浮力を形にするため、うちの工房では素材選び、塗装工程を特にこだわって作っています。素材は桐を使用。芯の詰まり具合や節のバランスを見て選定するので、使えるのは全体の7割程度。浮いた時のバランスが良い桐材だけを選び抜き、特殊工具で丸く削り出します。
素材だけでは絶妙な浮力は得られないため、塗料の厚さでバランスを取っています。ウキ1個につき10層以上に色を塗り重ね、ひとつの塗装工程を終える度に1日乾燥させるため、正直手間はかかります。加えて、全工程がほぼ手作業ですから完成までに3カ月程度かかります。塗装の間にちょっとでもホコリが入ったものは、商品として世に出さないのは当然のこと。買ってくれた人が本当に満足してくれるかどうかを常に自分に問いかけながら、1個1個のウキに対して愛情と厳しさを持って向き合っています。

  • 山元 隆史

    絶妙な浮力の実現には塗装が最重要に。山元が作るウキは工程の多さこそがこだわりであり、品質の高さを物語る。

  • 山元 隆史

    塗装工程は手作業が大前提。色の食いつきやコーディングのためのクリア塗装だけでも3回も行っている。

大物を追うロマン

山元 隆史

いかに人生に残る一尾を釣るか。
大物師として生きることを決めた69cmのインパクト。

2005年に長崎県男女群島で69cmの尾長グレを釣り上げてから、僕は大物を獲るロマンを追い続けています。当時のことは鮮明に覚えていて、磯上がりしたのは昼の3時頃。1投目はエサ取りが多くて投げ直し。2投目はエサ取りを避けるために遠投。慎重に潮に乗せて仕掛けを流していたら、「ドスン!」。経験したことのない大きなアタリでした。ググッと30m程真下に走る衝撃は、リールを巻くのが追い付かないくらい速いし強い。右に走られてシモリがあって、ジリジリとこっち側に寄せて行って…。ロッドは紫電の3号、ハリスは5号、道糸3.5号。あの興奮は人生ずっと忘れないと思います。
大物は狙わないと釣れないし、狙って釣れるものでもない。本当に条件が合わないと釣れないので、ボウズ覚悟で挑むことも正直多いです(笑)。それでも、魚が棲んでいる自然の中に人間が入っていくというスタンスで、そこにチャレンジさせてもらうという気持ちが大事だと思っています。だからこそ、釣れなかったとしても挑んだことに意味がある。大物を釣るとみんな喜んでくれますし、何より自分自身が最高に楽しいですから。
近年、釣り人口がどんどん減ってきていますが、そうした磯釣りの魅力や大物を追うロマンをもっと広めていきたいですね。そのために最近は、釣り教室を開くなど釣りの魅力を伝える活動にも積極的取り組んでいますから、近い将来、きっと潮目がよくなると信じています。一方、息子たちも力をつけてきました。僕自身、うかうかしてはいられません。大物師として、ウキ職人として、何層にもこだわりを重ねる塗料のように、これからも研鑽を積み重ねていきたいですね。この小さなウキに、「いつかナナマルを釣り上げる」という大物サイズの夢を込めて。

  • 山元 隆史

    工房に飾ってある69cmの魚拓。この独特の青い鱗を見る度に、大物師の心が掻き立てられる。

  • 山元 隆史

    「ナナマルを釣るときは自らが開発した最高のウキで」という野望を胸に、今日もまた磯へ向かう。