ダイワアングラー
ソルトウォーター オフショア フィールドテスター
SALTWATER OFFSHORE FIELD TESTER
オフショア
佐藤 偉知郎
Ichiro Sato
日本のクロマグロキャスティングゲームにおける唯一無二のアングラー。青森県をメインフィールドに、春から秋までのシーズン、クロマグロを狙って各地へ赴く。氏の存在を抜きにして、この釣りを語ることはできない。
SPECIAL INTERVIEW
スペシャルインタビュー
未開のスタイルを拓くSOUL
クロマグロとサクラマスを愛する男のフロンティア魂
佐藤 偉知郎
サクラマス愛と開拓精神
「サクラマスをルアーで釣る」という
誰もやらなかった新スタンダードを切り開いた20代
“Think Outside The Box”という言葉があります。「既成の枠組みに囚われるな」という意味で、私が大切にしている言葉です。釣りにおいて、私は常にこの言葉を意識してきました。そうすれば、必ず道は拓かれる。サクラマスのときも、そしてクロマグロのときも、そうでした。私が初めてサクラマスに出会ったのは20歳を過ぎた頃です。それまで幼少期から川でフナやコイなどいろんな魚を釣ってきましたが、サクラマスの魚体を見たときに「川にこんなにかっこよくてデカい魚がいるんだ」と衝撃を受けました。自分でも釣ってみたいと思ったものの、当時、サクラマスは釣りのターゲットとしては注目されていませんでした。ほとんど情報はなく、釣り方もスプーンの転がし釣りで釣れるらしいという程度。結局、2年間、まったく釣れなくて……。その悔しさから、まず実際にサクラマスを水槽で飼育して、その生態を観察してみることにしました。いろいろなエサを与えて、その捕食行動を観察したり、サクラマスだけでなく、ブラウントラウトなど他の魚も飼育して、それぞれの行動パターンを比較したり。ときには川に潜って自然のサクラマスを観察したこともあります。それはもう、考え得るありとあらゆる手段で観察しました。自分の好きなプラグで憧れの魚を釣りたい。スプーンの転がし釣りという枠組みに囚われる必要はないんだ。そうした想いが自分を動かしていたんだと思います。来る日も来る日も観察を続けていたら、あるとき、エサの激しい動きに対してサクラマスが威嚇する行動をとることに気づいたんです。ミノーを激しく動かせば⾷うんじゃないか。その仮説のもと、ゆっくりと誘うのではなく、激しくジャークさせて釣る釣りを試してみました。すると、それまでとは一転して、コンスタントにサクラマスがヒットするようになったんです。それが話題となって、雑誌やDVDでも取り上げられるようになり、やがてサクラマスをルアーで釣るためのスタンダードなメソッドとして、ジャーキングは釣り人のあいだに広まっていきました。私が二十代後半のころのことですね。
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佐藤の釣りの原点である⻘森の弘前公園。⽵に⽷と針をつけて垂らしただけの即席タックルで釣るコイやフナが佐藤少年の⼼をときめかせた。
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サクラマス⽤のタックルとクロマグロ⽤のタックル。専⽤タックルが存在しない当初から、佐藤⾃らがタックルの在り⽅を切り拓いてきた。
旅するジュークボックス
「やったことがない」ことにこそ、魂を揺さぶられる。
⾳楽の波にゆられ、今日も海へと向かう。
そこのころ、私は釣りと同じくらいの情熱で音楽と向き合っていました。プロのミュージシャンとしてステージに立っていた時期もあります。担当はサックスで、この楽器と出会ったときの衝撃は、いまでも忘れられません。当初は別の楽器を担当していたのですが、あるオーディションでサックスの艶やかな輝きと、シブいサウンドに触れた瞬間、「自分でも吹けるようになりたい」と強く願ったんです。釣りと同じように、やると決めたら徹底的にやる性分ですから、その翌日から毎日、必死に練習しました。はじめのうちは音を出すことも満足にできませんでしたが、練習の甲斐もあって、3カ月で約200曲のレパートリーを覚えました。ライブハウスのステージに立ち、憧れだった楽器を手に自分のブレスから生まれた音をオーディエンスに届ける。この体験は釣りとはまた違った感動がありました。わずか3カ月で未経験の楽器のレパートリーを200曲も覚えるというのは、常識的に考えれば難しいですよね。それもプロとしてステージで演奏するわけですから。既成の枠組みに囚われず、やりたいことと向き合って、新たな道を切り拓く。その考え方は、振り返ってみれば釣りに対してだけでなく、音楽に対しても同じだったのかもしれません。
結果的には、プロミュージシャンの道は自ら断ち、釣り一本に絞ることにしましたが、相変わらず音楽は好きで、愛用のクルマもボートも最高の音質・音響になるように、海外からも機材を取り寄せるなどしてカスタマイズしています。私は一年のうちのほとんどを釣り場で過ごしていますが、その道中は常に音楽が流れています。良質な音楽を聴いて、気持ちを盛り上げながら釣り場に向かう。それが最高に楽しいんです。
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⾼品質な⾳響設備と防⾳性能を備える愛⾞はまるで⾛るジュークボックス。60's〜80'sのアメリカンポップスとソウルミュージックが釣り場に向かう気持ちを上げる。
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愛艇にもハイエース同様の⾳響設備を搭載。⾃⾝が聴く曲だけでなく、同船者を楽しませるためのおもしろ選曲も多数ストック。
クロマグロへのロマンと探求心
「クロマグロをキャスティングゲームで釣る」という未踏の領域へ。
常識の枠を超えて、魂の赴くままに突き進む。
サクラマスへの探求をつづける一方で、新たなターゲットも模索するようになりました。サクラマスのようなカッコいい魚を釣りたい。それも、デカくてカッコいい魚を――。そんななか、釣り仲間の助言もあって目を付けたのが、クロマグロでした。クロマグロといえば、地元・青森で水揚げされる天然魚は、全国的にも有名です。デカくてカッコよく、魚の王者として知らない人はいません。このロマンあふれる魚をルアーで釣ってみたい。そうは思ったものの、90年代当時、クロマグロは、あくまで漁の対象魚。ルアーはもとより、釣りのターゲットという発想自体がありませんでした。そもそもソルトウォーターのオフショアゲームは黎明期で、船で狙う⼤型青物といえばブリ、ヒラマサ、カンパチ。釣り方もジギングが主流でした。にもかかわらず、キャスティングゲームで釣ろうというのですから、無謀といわれても仕方がありません。ロッドはGT用で、スピニングリールは当時、手に入る一番大型の番手を使いましたが、かけることはできても、獲ることができない。ファイトしているうちに、どうしても折れたり、壊れたりしてしまうんです。メーカーにしてみたら、クロマグロを想定して作っていないのだから、当然ですよね(笑)。PEラインも発展途上で、いまほど強度はありませんでしたから、ラインブレイクも珍しくはありません。しかし、困難であればあるほど、「このデカくてカッコいい魚を、自分の好きなプラグで釣るんだ」という想いが強くなっていきました。スタンディングファイトでのレコードとして、186㎏のクロマグロを釣り上げたのは、クロマグロを狙いはじめてから、十数年後のことです。不可能と思われていたクロマグロのキャスティングゲームも、いまではルアーフィッシングの1つのジャンルとなり、シーズンになると毎年、多くの釣り人が夢の一尾を求めて海に出るようになりました。クロマグロを獲るためのスピニングリールも発売されるようになり、私自身、その開発にかかわることができています。
一方で、最近は行政とともに、クロマグロ釣りのルール作りにも取り組みはじめました。国際的な資源保護の観点から、クロマグロはその捕獲にあたり、厳格なルールが求められます。釣り人も例外ではありません。こうしたルール作りは、私にとって未知ですが、クロマグロ釣りの未来のためにチャレンジしなければならないと思っています。“Think Outside The Box”ですね。今後は、こうした活動をとおして、ひとりでも多くの釣り人に、クロマグロ釣りの魅力を伝えることができればと思っています。
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地元⻘森の釣り仲間が経営する店で最⾼に美味しい海産物を味わう。どんな時も周囲を愉しませる佐藤は⽣粋のエンターテイナーだ。
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全国の蕎⻨の名店を開拓するのも楽しみのひとつ。「僕の体の90%は炭⽔化物でてきてますから」というほどの麵好き。