カンパチ vol.1
サカナなのに、集団で狩りをする狡猾なサイボーグ!
カンパチの仲間は、驚いたことに群れで隊形を作って、頭脳的な狩りをします。誰に教わったのか、また誰が掛け声をかけているのかはわかりませんが、小魚の群れの動きをみんなで封じ、効率よいハンティングをするのです。船からのジギング、活きエサ流し釣りなどの大物釣りのターゲットとして知られるカンパチ。頭部にちょうど「はちまき」をしたような、背ビレ側から見ると漢数字の「八」の字が描いてあるかのような暗褐色の模様。それがカンパチ(勘八)の名の由来です。カンパチにはホンカンパと呼ばれるカンパチとバケカンパと呼ばれるヒレナガカンパチの2種類が生息することが知られています。前者は、尾ビレの下側後端に白い班があること、後者は背ビレが前者よりもかなり長く、しかも鎌型になっていることで、慣れれば簡単に見分けることができます。また後者の方が生息域が南に偏っていますので、南日本になればなるほどヒレナガカンパチであることの方が多くなります。また、カンパチの仲間のうち、特に南方の海で釣れた超大型は、シガテラ毒という毒を持っている場合があるので食べないほうがいいでしょう。これは食物連鎖の末に、シガテラ毒を持った小魚を捕食し続けたことによるカンパチのカラダへの毒の蓄積によるもの。そもそもこの毒を持っているのはプランクトンなのですが、そのプランクトンを捕食したサカナを捕食するということで毒が蓄積すると考えられています。シガテラ毒ではよほどのことがない限り命を落とすことはないようですが、激しい下痢と嘔吐、感覚の異常、めまいなどの症状があるとされています。
高速遊泳が圧倒的な捕食性能を生み出す

団体戦で小魚の群れを襲うこともある


スピードに物を言わせて強引な喰い方をするのとばかり思っていたら、とてもサカナの知能とは思えないような狡猾さもカンパチは持ち合わせている場面を目撃しました。それは西伊豆でのことです。緩い潮が流れていた沖の根。水深は、周囲は30メートル以上の深さのある場所なのですが、ちょうど台地のように海底から立ち上がって、平らになっている場所がありました。そこに西伊豆ではよくみかけるキビナゴの群れを見つけました。数は千や二千はくだらない、おそらく1万尾ぐらいだったのではないかと記憶しています。群れは大きくなったり小さくなったりを繰り返しながら、その根をゆっくりと通り過ぎようとしていたときのこと。いきなり群れの動き方が固まったと思うと、その周囲を6尾ほどのヒレナガカンパチが取り囲みました。ヒレナガカンパチはまだ若魚という感じで、全長60センチほど。みるみるうちにその6尾は隊形を整え始めたのです。左右の両側をそれぞれ2尾ずつ、多少深さを変えて挟み込むようにして、キビナゴの横への動きを封じました。横へ逃げられない群れは前後の方向に膨らもうとするのですが、後方から群れを追っていた2尾のうちの1尾がキビナゴの群れを追い抜き、反転しました。その時点でキビナゴの群れは前後左右への動きを封じられ、巨大な球状に群れの形状が変わったとたんのことでした。先頭の1尾がその群れに突入。それと同時に、他のヒレナガカンパチも群れに突入。キビナゴの群れはパニック状態になり、群れの形が大きく崩れたのです。まるでキビナゴたちの悲鳴が聞こえるような壮絶なシーンでした。ヒレナガカンパチはというと、その形の崩れたキビナゴの群れの中を縦横無尽に泳ぎまわりながら捕食。あまりにも素早すぎてひとつひとつのヒレナガカンパチの動きを確認できないほどです。でも、確実に喰われているのがわかるのは、キビナゴのウロコがキラキラと光りながら落ちてくるのです。キビナゴの群れが完全に散り散りになったころ、どれだけのキビナゴを捕食したのかはわかりませんでしたが、ヒレナガカンパチの群れは去りました。しばらくすると、4つぐらいに分かれたキビナゴの群れをそれぞれ根の上の別の場所で見つけましたが、その数は相当減っていました。でも、ヒレナガカンパチが隊形を作って、まさに戦略的にエサとなるサカナの群れを効果的に襲うことができる能力を持ち合わせていることは、実に驚くべき事実でした。
※釣魚水中生態学入門より移設