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2021.12

絶景フィッシング in 沖縄・久米島
コバルトブルーの海で、憧れのマグロとGTを釣る!

空と海が水平線でにじむように溶け合った、真っ青な世界。
そこにあったのはエキサイティングなビッグゲームの楽園だった!

Happy birthday to me ――。いつの間にかいい大人になったのだし、自分の誕生日くらいせいぜい好きなことをして、自ら盛大に祝ってやろう。そんなエピキュリアン的発想から始めた毎年6月の「バースディ・フィッシング・トリップ」なる恒例行事も、早何年目を迎えただろう。

無論、自然相手の釣りなので、そこはこれまでも釣れたり釣れなかったりいろいろだったが、双子の兄と一緒にカヤックを漕いだり、フィッシングベストをジャケットに着替えて星付きレストランで食事をしたり、とっておきのヴィンテージワインを空けたりと、特別な1日を祝うにあたり、お楽しみのコンテンツに事欠くことはなかった。

さて今年はどうしようかと考えた時、ふと体力のあるうちに挑戦しなければならないはずが、いまだ先送りにしていたビッグゲームのあることを思い出した。ずばり、マグロとGT(ロウニンアジ)である。

海外に行きづらいいまの時代、目的地を決めるのに迷いは少なかった。沖縄の中でも、アングラーの間では「マグロ島」との呼び声も高い久米島。この島の周囲にはパヤオと呼ばれる人工浮漁礁が無数に設置されており、かなりの高確率でマグロをヒットさせられるという。さらにリーフ(サンゴ礁)周りでは憧れのGTも狙えるというのだから、もはや何を躊躇する必要があるだろうか。

しかも、まだ見たことのないような美しき南の島の絶景に一人抱かれて――、否、自らその絶景の一部となって竿を振るという、誕生日にこそふさわしい神聖な、カタルシスにも似た体験ができるに違いない。そう目論んだ僕は、見事な手際の良さでチケットからホテル、レンタカーまであらゆる手配を済ませた。

砂浜、岩、サンゴ礁――。
表情豊かな美しく青き海の絶景に抱かれて

本島からおよそ100kmの西方に位置する久米島までは、那覇空港でプロペラ機に乗り換えてのち、わずか30分強のフライトだった。飛行高度が低いため、眼下に広がる夢のように美しいサンゴ礁の眺めを思う存分、ゆったりと堪能できた。と言いながらも、ひょっとするとリーフの溝に潜むモンスターGTの背中でも見えないものかと、距離感も忘れてつい目を見張らせ身を乗り出してしまうのは、いかにも釣り人の性というもの。思わず自分でも可笑しくなってしまう。

4泊5日の逗留先は、空港からすぐの「サイプレスリゾート久米島」。目の前に、リーフエッジへと続く広大なビーチが広がる胸のすくようなオーシャンビューで、リゾートには欠かせないインフィニティプールもある。まずはここが、なかなかの絶景ではないか。

そんなホテルの部屋で、しかし筆者は来るべき明朝の出撃に備え、さっそく荷ほどきをしてタックルを広げる。

しばらく経って、思ったよりも陽が長いので、ちょいとロケハンとばかりにクルマを駆り、気の向くままに走らせてみる。道路標識に誘われて立ち寄ったのは、有名な畳石。確かに岩の一枚一枚が五角形や六角形をしていて、岩盤全体がまるで巨大なカメの甲羅のようだ。海の色は、この世のものとは思えないようなエメラルドグリーンの輝きを放っている。

美しさに見とれてしばし佇むが、にわかに南の方から暗雲が立ち込めてきて、ざーっと激しい雨が降り出す。スコールだ。駐車場まで駆け足しながらびしょ濡れになるが、不思議と嫌な気持ちはしない。力強い生命力あふれる久米島の自然の息吹に、さっそく触れられたように思えたからだ。

沖縄県内で5番目の大きさを誇る久米島は、クルマで回ってみると意外に山がちな地形であることに気づかされる。南国らしい鬱蒼とした樹木の覆い茂る山道を走らせていると、時折そこが島であることを忘れるくらいだ。

高台の城跡越しに、また広大無辺の大海原がぽっかりと現れる。暮れなずむ水平線では空と海がにじむように溶け合い、境の曖昧な青い帯となる。なんと豊かにして無の世界。心を空っぽにしてくれて、かつ充足感で満たしてくれる場所。永遠の片鱗に触れさせてくれる、奇跡の時――。

さて明日は、この海のはるか沖合いにいよいよ一人乗り出すのだと思うと、思わず知らず武者震いがしてきた。さあ、帰ろうか。待っていろ、大物よ。

忘れ得ぬ思い出になった3日間の挑戦。
ドラマは最後に訪れた――!

兎にも角にも、釣りは自然が相手だ。梅雨の時期ということもあり、予備日も含めて滞在期間中はフルでチャーター船の予約を入れてきたのだが、予報によると、どうやら幸運なことに3日間とも船が出られそうな空模様だ。

Day 1

初日に乗船したのは大洋丸。気は優しくて男前な遠藤船長に加え、高校生の息子さん、大洋くんがアシストで付いてくれた。

「まずはぜひ、キャスティングでマグロを1本釣って欲しい」という船長のはからいで沖のパヤオを目指すが、ウネリがあり、開始早々船酔いの洗礼を受ける。何度経験してもこればかりは辛く、早くも心が折れそうになる。

だが朦朧とした目で見るパヤオ周りにはすでに鳥山ができ、時折水面を割って飛び出すマグロの姿もあるではないか! いつまでも甲板に伏している場合ではない、とばかりに自らに喝を入れて跳ね起き、再びキャスト開始。まっすぐ立つのもおぼつかないままに、ペンシルベイトでついにヒットさせるも、途中で痛恨のバラシ。船酔いと初物のバラシというダブルパンチはなんという痛み、なんという辛苦だろう。

しばしの時合いののち、いつの間にか鳥も散らばり、魚も沈んでしまう。仕方なしにジギングに切り替えるが、この日の釣果は外道のカツオのみに止まった。果たして明日以降、この船酔いに打ち勝てるものか、本当にマグロの顔を拝めるものか、すでに絶望と敗北感にすら苛まれつつ、無念のままに船を降りる。

Day 2

2日目は太一丸での出船である。海は昨日より穏やかそうだ。パヤオに着くなりしょっぱなから船酔いを起こすも、その後はむしろスッキリし、なんとか騙し騙し釣りを楽しめるようになってきた。よし、今日こそは大丈夫だ! 前日のリベンジを遂げるべく、全身全霊を傾けてジギングを繰り返す。そして、その時は突然訪れた。

ジャークの間のちょっとした違和感。間違いない。あの硬い口にしっかり針を貫通させることを意識して、重く鋭い合わせを二度、三度とくれてやる。すると――、ズン! ジーーーーー!! これまで経験したことのないような重量感のあるダッシュ! 派手なドラグ音をジングルに、ついに辛い思いをして耐え忍び、待ち望んだマグロがヒットしたのだ。

200m近い水深からのポンピングは腕に、体にこたえるが、こんなに胸のすくような気持ちのよい重労働は他にない。やがて、とうとうブルーメタリックな輝きが水を透かして見えるところまで近くなり、感動はハイライトを迎える。船長が引き上げてくれた魚体のなんと神々しく輝き、なんと力強く逞しいこと!

その後も棚を変え、場所を変え、ルアーを変えしながら釣った数はいつの間にか10本以上。メバチとキハダだ。回収時のハイスピードリーリングに、不意にアタックしてくるカツオも楽しませてくれた。マグロとしてはまだまだ小さいものばかりだったが、初めてとしては上出来ではないか。

夜は船長が捌いてくれたマグロをホテルに持ち込み、大いに舌鼓を打ったことは言うまでもない。

Day 3

3日目/最終日の目的はただひとつ。いよいよ大物を上げることだ。そう伝えると、2回目の乗船となった大洋丸の遠藤船長は「まずはパヤオでのキャスティングでマグロを狙い、時合いを逃さずジギングでサイズアップを図り、ラストはリーフ周りでGTに挑戦してみましょう!」と、魅力的としか言いようのない黄金プランを提案してくれた。無論、望むところだ。

この日は海も一番穏やかで、パヤオに着いても船酔いを起こさない。元気にキャスティングを繰り返す姿を見て、船長が笑顔でこう声をかけてくれた。「3日連続ですからね。いよいよ船酔いにも慣れて、僕らの仲間入りでしょう(笑)!」

あいにくマグロの活性は昨日より低く、食い渋っているようだが、何しろこちらはもはや船酔いを克服し、全身筋肉痛ではあっても活力が漲っている状態だ。ついに念願のキャスティングでもマグロを引きずり出し、ジギングとは一味も二味も違ったファイトを堪能。これは面白い! 中毒になりそうだ!!

ジギングでもショートピッチ、ロングピッチとタックルも誘い出しも使い分けながら、プロセスから楽しめるように。サイズアップこそ叶わなかったが、またメバチ、キハダ、カツオでなんとか2桁ヒットを果たした。

それにしても、船から眺める景色がまた素晴らしい。ぐるり360度、見渡す限りの青い水平線。遠くには久米島が見える。走る船に驚いて、時折、透明な胸ビレを広げたトビウオたちが飛び出し、波頭にキラキラと水しぶきを上げる。エキサイティングな釣り時間もいいが、こうした自分だけを乗せて大海原の絶景を独り占めするクルージング時間も、なんとも贅沢な限りではないか。

「これ以上良くなる見込みがないので、イチかバチかGTを狙いに行ってみますか?」

残り時間も少なくなり、船長のオファーに待ってましたとばかり二つ返事で答える。パヤオを離れた船はラストチャンスとばかりにエンジン音を轟かせて、島周りのポイントを目指す。岸を間近に望み、足元には次第に透明な青の水越しにサンゴ礁が見えてくる。リーフエッジの眺めも、なんと美しいものだろう。

船長の合図で、大海原に向かってポッパーを思い切りキャスト。ロッドワークで飛沫を上げるようにジャークさせ、ポージングさせる。ジャーク、ポーズ、ジャーク、ポーズ――。傍目には優雅に見えるかもしれないボートからのキャスティングだが、いつGTが水面に躍り上がってヒットするかもしれないワクワク感と緊張感、そしてヘビータックルを使ってフルキャストし続けるタフさは、3日目の終わりにはなんとも堪らないものがある。タイムリミットも迫りつつあり、次第に疲れも焦りも出てくる。

何度か場所を変えてから、大洋くんと船長がふと船首の方を指差して声を上げた。「あっち、あっち! グルクンの群れが湧いてる!」

その声を聞くや否や、まだ明瞭な思考も浮かぶ前の、いま思い返すと疲れと暑さに少しぼうっとしていた頭で考えるより先に、僕は力一杯かつ精確なキャストを決めていた。着水。ジャーク! 「ゴボッ!」 ジャーク! 「ガボッ!」 ジャーク! 「ガツン!!」

ギーーーーーー! グングン、ギーーーーー、ジャーーーーー!!

あんなに硬くセッティングしたはずのドラグが、勢いよく糸を吐き出していく。「嘘だろう!? 本当か!?」――そうだ、確か3度目のアタックでとうとうGTがフッキングしたのだった。激しいファイトが始まってからようやく認知が追いつき、途端に焦りが脳内を駆け巡る。根に潜られないように必死で耐えながら、グリップエンドをギンバルに差し込む。落ち着け、よし、反撃開始だ!

船長の電光石火の操船もあって、いきなりのピンチは無事にかいくぐれたようだ。ここからは、この至福のスリルを存分に楽しむ時間だ。いなし、かわし、徐々に寄せてきた魚体はまごうことなきGT。これまでカスミアジとギンガメアジは釣ってきたが、なかなか出会えなかったロウニンアジに、とうとう出会えたのだ。

サイズこそ94cmと、メーター級と呼ぶにも一歩足りない、まだほんのベビーサイズではあったが、やっと手中にすることができた憧れのGT。自分にとっては最高のバースディ・プレゼントとなった。もっと大きくなってから再び出会えることを願い、一瞬の撮影ののちに速攻でリリースする。

3日間にわたるマグロ&GTチャレンジは、こうして夢のクライマックスのもとに幕を閉じた。また必ず来よう、この真っ青な空と海の待つ絶景の島、久米島へ。

いまさらながら、今回はバースディ・フィッシング・トリップである。丸3日間酷使され、強い陽射しと塩水にさらされた体には然るべき休息と祝祭が必要だ。その後「ザ・リッツカールトン沖縄」でしばし寛いだと言っても、バチは当たらないだろう。とはいえ、こう見えても頭の中ではもう次の絶景フィッシングの行き先を、あれこれ思索していたのだが。

取材・文/大野重和(lefthands)
撮影/大野重和、川分香織(lefthands)and courtesy of Taiyomaru and Taichimaru