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2024.03

ハーレーと釣りと「ひさしぶり!」のカレーうどん

笑顔と笑顔を結ぶ、本気の遊び心

ファッションブランド「CHALLENGER」のプロダクションマネージャーを務める新谷竜治さん。アメリカンカルチャーに魅了されるきっかけとなったのは、小学生の頃に出合ったバスフィッシングだった。以降、バイク、スケボー、音楽などに夢中になり、いつしか自らがアメリカンカルチャーを発信する側に立っていた。
言ってみれば新谷さんのライフスタイルにはON/OFFの区別がなく、常に“遊び心”に満ちている。そこで、ショップを構える都内と、バスフィッシングのフィールドとしての亀山湖で、二度にわたる取材を実施。「仕事は遊びで、遊びは仕事」という、ひとつの理想的な生き方を体現し、自分も周りの人も“とびきりの笑顔”にする、新谷さんの魅力あふれるライフスタイルをお伝えする。

ファッション業界における“挑戦者”としての顔

原宿にあるアメリカンカジュアルショップ「CHALLENGER」。店の前に立ち、人懐っこい笑顔で迎えてくれたのはプロダクションマネージャーの新谷竜治さん。案内されて店内に入ると、Tシャツやパーカーといったファッションアイテムの間に、さっそくバスやアメリカンルアーブランドのイラストが描かれたスケボーを発見! よく見ると、ほかにも有田焼のバイクタンクがあったり、アメ車がジャケ写のCDが並んでいたりと、ここが遊び心あふれるアメリカンカルチャーの“おもちゃ箱”であることが見て取れる。

「お店の名前には、ファッション業界に新しいことを起こしていく挑戦者になるぞという意味が込められているんです。アメリカンカルチャーとしてのバスフィッシングをモチーフにモノづくりをしたり、『Kode Talkers』というバンドのサポートをしたり、LeSportsacのような意外性のあるブランドとのコラボレーションに取り組んだりといったチャレンジを、まずはつくる側の自分たちから楽しみながらやっています」
「自分たちの世界観を提示して、それを面白いと思うお客さんがファンとしてついてくれるのが嬉しい」と話す新谷さん。ファッション以外の引き出しも数多く持つからこそ「その服を着て、誰と、どこで、どんなふうに遊ぶのか」を、個々のお客さんと語り合えるのだという。「大事にしているのが、遊び上手であること。一生懸命働くのは当たり前だからこそ、それ以外にも本当に好き! と言える遊びを増やしつつ突き詰めていけたら、生きていて楽しいなと思えるんじゃないかな」。
そんな新谷さんが「最高の遊び!」と言うのがバスフィッシングとバイクだ。「お気に入りのバイクに跨って風を感じながら走ったり、バスを釣って思わず叫んじゃったり。自然の中で思いっきり遊んで、シンプルに『気持ちいい!』と思えたら、それこそが自分にとってのFeel Alive.です」。屈託のない笑顔でこう話してくれた新谷さん。これからカスタムとバッテリー交換を依頼していたバイク店へ愛車を取りに行くというので、同行させてもらうことにした。

バイクとバスボートとバスフィッシング

CHALLENGERから「ハーレーダビッドソン中野店」へ移動。新谷さんは整備用リフトに乗った愛車を前に、顔馴染みのメカニックとしばしバイク談義に花を咲かせる。そして我々に、こう説明してくれた。
「このバイクは2010年式の『XR1200X』という車種です。ハーレーらしからぬスポーツモデルだったことから人気がなかったんですが(笑)、僕はむしろ、そのハズし具合がグッと来て、こうしてカスタムを楽しみながら乗っているんです。もう北海道を3周しましたよ。近々こいつでサーキットを走ろうと思っているんです」

いかにもなアメ車感を漂わせる、ファイアーペイントのハーレーダビッドソン。新谷さんにとってその魅力とは?
「世界観がカッコいい。モノ自体は『なんでこんなに重たいの?』『なぜここにこんなパーツが付いてるの?』といったツッコミどころが満載なんですが、それってつまり遊び心も満載なんですよ。実用性を超えた大きさやスペックにロマンを掻き立てられる。バスボートも同じで、ただバスを釣るためだけの船に、あんなにデカいマーキュリーのエンジンを積んで、無駄に高くてカッコよくて(笑)。その観点では、バイクもバスボートもよく似ていて、僕にとっては最高のおもちゃです」

新谷さんは、「バイクとバスボート」だけでなく、「バイクとバスフィッシング」にも共通点があると話す。
「自分好みに、自分のスタイルで遊べる点です。バイクだったら、ツーリングが好きな人もいれば、サーキットを走るのが好きという人もいるし、ガレージでいじっているのが好きという人もいる。釣りも一緒だと思うんです。のんびり楽しみたい、試合で戦いたい、ルアー収集やリールチューンなどインドア的に楽しみたい。いろんなスタイルがあるなかで、僕は今“フロッグで釣る”のがいちばん好き。フロッグは、キャストからバスをキャッチするまでの一連にオートマチックなところが少ない。キャストでも、アクションでも、フッキングでも、バスに自分のスキルを試されます。バイクやクルマでいうマニュアルの面白さ、難しさというか。ぜんぶ自分の技量次第だからこそ、釣れた時の嬉しさがハンパないんでしょうね。
それと、『この部分をこう変えたら、もっと良くなるんじゃないか?』と妄想しては、あれこれと手を入れる楽しみも、バイクとバスフィッシングに共通しています。インドアでの妄想と、自然のなかでの実践という二本立てで楽しめる、どちらも最高に楽しい遊びです!」

新谷さんの本気の遊び心は、
「嬉しい」「楽しい」を伝染させる

明けて休日は千葉県・亀山湖へ。バスフィッシングの人気フィールドである亀山湖の「のむらボートハウス」には、この日も未明から大勢の人が訪れていた。6時の出船時間に合わせてボートを出すべく、桟橋は準備を急ぐアングラーで賑わっている。そんななか、前日の仕事が押して不眠で誰よりも早く現地に着いていた新谷さんは、ボートハウスの店主とのんびり談笑していた。せっかく一番乗りだったのに――である。

「一番乗りだったのは、寝たら絶対に起きられない時間に帰宅したからで、たまたまですよ(笑)。普段は、お昼前に来て夕方までとかのんびりやってます。亀山湖に来たら、のむらのご主人と話すのも僕のバスフィッシングの楽しみの一つだし、今日は気持ちのイイ秋晴れなので景色も含めて楽しみたいな、と。そもそもボートに乗って綺麗な湖に浮かぶだけでも、最高に素敵な非日常の体験じゃないですか。だから、釣れた・釣れないだけに囚われず、自分なりのこだわりで楽しんだ者勝ちなんじゃないかなと思うんです」
新谷さんは、マイボートを置いている霞ヶ浦だけでなく、こうしてさまざまなフィールドでレンタルボート・フィッシングも楽しんでいる。ボートハウスの前でご主人と話していると、次から次に友人が声を掛けてきた。どうやらこの日の新谷さんは、亀山湖というコミュニティを訪れて、近況を報告し合うことも楽しみにしているようだった。

さて、いよいよエレキやタックルをボートに積み、すでに皆が出船した後の閑散とした桟橋から出船した新谷さん。なんら急ぐ様子を見せず、気になるポイントに立ち寄ってはキャストを繰り返していく。
「ちょっと寒いけど、山が本当に綺麗ですよね」――別のボートに乗っている我々取材班に声を掛けながら、一人悠々とバスフィッシングを楽しむ新谷さんの姿は、実にのびのびした様子で楽しそうだ。と、そんなふうに思っていたら、岸際にピタリとキャストが決まったクランクベイトの巻き始めにバスがヒット! だが、あと少しでランディング成功――という、すんでのところでバレてしまった。

「悔しいなー!」「でもドキドキできたなー」と、バラした残念さも楽しむ新谷さん。一緒になって取材班も残念がり、一緒に笑いながら、新谷さんの言う「釣れた・釣れないだけに囚われない楽しみ方」とは、こういうことなのだなと感じる。
その一方で、キャストしながら「今日からジリオンのスプールをシャロー仕様に換えてみたんですよ。明らかに回転の立ち上がりがよくなって、投げていて気持ちがいい。ほかのリールもシャロースプールに換えようかな」と新谷さん。セッティングで変わる使用感の違いを楽しむ様子は、なるほどバイクに通ずるところがあるのだろう。

うどん屋に入った瞬間、「あら!ひさしぶりじゃないの!」

2バイト・ノーフィッシュに終わった(2尾目に掛けたバスはデカかった……)その帰り道。「ここは、うどんも店もおばちゃんも、いい味出してるんですよ」と言いながら新谷さんが立ち寄ったのは「くるり庵」。ぺこぺこに空いたお腹を満たすことはもちろん、目的のもう半分は「おばちゃんとおしゃべりすること」だと言って笑う。

「あら!ひさしぶりじゃないの!今日は釣れた?カメラマンとか引き連れて、有名人みたいだね」
「あはは(笑)。バラしてばっかりだったけど楽しかったよ。それより、もうすぐ地元のお祭りなんだね?」
会話しつつニコニコと楽しそうに笑う新谷さん。つられてこちらも笑顔になる。「うん、今日も美味いね」とカレーうどんをすする新谷さんを見て、取材班もたまらず同じものを注文した。日が長い夏は、下船時間まで釣りをして帰るころには、くるり庵は営業を終えてしまっているそう。一方で下船時間が早い冬は、営業時間内に間に合うので“ひさしぶり”というわけ。
2日間、都内と釣り場で一緒に過ごして感じたのは、どうやら新谷さんの「嬉しい」「楽しい」は周囲に伝染するということ。CHALLENGERのお客さん、ハーレーのメカニックさん、ボート屋のご主人とその奥さん、お子さん、湖上で会った友人たち、うどん屋のおばちゃん、新谷さんの周りには素敵な笑顔の人たちが集まっていた。新谷さんが行く先には、見たい景色があり、寄りたい場所があり、会いたい人がいるのだ。新谷さんは今日も自分の遊び心に正直に、趣味と仕事に本気で向き合っている。

取材・文/大野重和(lefthands)
撮影/宮下潤