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DAIWA 源流の郷 小菅村
DAIWA 源流の郷 小菅村
豊かな森が水を育み、水がいのちを育みます。
次世代を担う子どもたちに、水の尊さを自ら体感して欲しい、と考えております。
源流の山里、そこに暮らす人々が森林を育て、その森林が生きた水を育み、そして海をも豊かなものへと保ちます。
水がいのちを育む、その源とも言える豊かな森林「源流の郷」をお伝えします。
源流探検部が行く 第5回
源流域の水を体感する沢歩き
源流域の水を体感する沢歩き
五感で感じる源流域の自然の魅力

梅雨らしい天気が続く中、晴れた日を狙ってBE EARTH-FRIENDLY源流探検部は多摩川源流の小菅川を目指した。今までと違って今回は沢歩きという探検が待っているのだ。

今回、探検部を案内してくださるのは、NPO法人多摩源流こすげの鈴木一聡さんだ。NPO法人多摩源流こすげは、さまざまな活動を通して多摩源流域の地域活性に取り組んでいる団体だ。自然を生かしたいろいろな体験プログラムを提供しており、中でも7~8月に開催される「源流体験プログラム」は子供も大人も実際に川に入って自然を体感できるとあって人気が高い。4月からずっと、川沿いや川を守る水源かん養林を探検してきた探検部も、気温も水温も上がって水に入りやすいこの時期を待ち望んできた。

今回の探検の舞台は、先月訪れた雄滝より下流の、二つの堰堤(えんてい)に挟まれた区間だ。堰堤とは、水の流れを緩やかにしたり、土砂を防いだり、釣り場を作ることなどを目的に作られた堤防のこと。

今回は沢歩きとあって、探検部の服装もいつものトレッキング用とはまったく違う「川仕様」だ。

まずは、足元。普段は山道を登りやすいよう、トレッキングシューズを履くが、今回は川の中を自在に歩けるよう、全員ウェーダーを履くことになった。ウェーダーとはいわゆる「胴長靴」で、長靴とズボンが一体となっているもの。これを着ている服の上から履く。胸まであるウェーダーなので、腰くらいの深さまで水に浸かっても服が濡れないので安心だ。

沢歩きにおすすめの装備がこちら。滑りやすい川の中や、川から出ている石の上を歩いても滑りにくいウェーダー(胴長)を履き、上半身には、万が一の時に身の安全を確保できるよう、ライフジャケットを着用。さらにたも網と箱メガネがあれば川遊びがより楽しくなる。

そして、アウトドア初心者の探検部メンバーにとって欠かせないのがライフジャケットだ。

「膝までの深さでも、転ぶと流される可能性があります。そんな時、初心者はもちろんですが、慣れている人でもライフジャケットがあると安全です」

源流体験プログラムのガイドとしての経験豊富な鈴木さんが教えてくれた。人気の源流体験でも着用しているライフジャケットを着るとそれだけで安心感が増す。

さらに、背中のデイパックも、いつも使っているものから防水パックにチェンジ。脱水症予防の飲み水、ファーストエイド(応急手当)グッズなども防水パックに入れれば安心だ。

さらに、タモ(釣った魚を取り込む網)と効率よく水中観察できる箱メガネも持って、いよいよ探検のスタート。

「川の中を歩く時のポイントは、あまり大股で歩かず、小股ですり足のように歩くこと。足元の石が滑らないか、動かないかを確認しながら、少しずつ歩くようにしましょう。川を渡る時は、まっすぐ渡るより、斜め上流に向かって歩いた方が歩きやすいですよ。じゃあ、いきましょうか」

そう言うと、鈴木さんは澄んだ川の中にさっそく入っていった。探検部員も、恐る恐るそのあとに続く。といっても、おっかなびっくりで歩いていたのは最初の三歩くらいまで。足の裏から伝わるごろりとした石の感触と、押し寄せる水の力強さに、今までとは違う高揚感が湧き上がる。

いよいよ探検がスタート。探検部員たちは鈴木さんに教えてもらった通り、川底の石の感触を確かめながら小股で歩く。「斜めに渡ると水の力を受けにくい」と聞き、探検部員も斜めに渡っていく。

川の水は、底の石の模様が見えるほど澄んでいる。丸い石、角ばった石、黒い石、白い石。さまざまな石の上を、澄みきった水が撫でるように滑っていく。そこに、葉の隙間から届いた太陽光が差し込み、川面でキラキラと光が踊る。

サラサラとも、ザアザアとも聞こえる、水の流れる音。慣れ親しんだその音にポコポコ、ポコポコという音が重なる。何の音だろう。不思議に思いながら川を歩いていると、流れが急になっているところから聞こえる気がする。そういうところにはたいてい、大きな石がある。水が石に乗り上げて落ちる時、巻き込んだ空気が抜ける音なのだろうか。川の水が流れる音が、いろんな水音の重なりだなんて、川の中を歩いてみるまで気づかなかった。

今回の探検をサポートしてくださった、NPO法人多摩源流こすげの鈴木一聡さん。団体や個人、親子など、さまざまな人に向けた源流体験プログラムのガイドとして豊富な経験を持つ。

「今日はまだ気温が16度ですし、全身水に浸かることはありませんが、源流体験プログラムでは全身浸かることを前提に、濡れてもいい服装で来てもらうんです。もちろん、安全に過ごすためのポイントは押さえますが、子供にも『自分の身は自分で守るんだよ。その代わり、大丈夫だと思ったら、深いところにも行っていいよ』と伝えます。すると、子供たちは滑りやすいところでもちゃんと自分で気をつけるんですよ」

ちなみに夏の源流体験プログラムでは水着の上にラッシュガードなど長袖長ズボン、靴の上に靴下を履いて水に入るそうだ。ウェーダーは靴の底にフェルトが張ってあるため、苔が生えた岩に登っても滑りにくいが、靴の上に靴下を履くことで、それに近い効果が得られるのだという。

ウェーダーのソール(靴底)の裏にはフェルトが張ってあるため、苔の生えた岩の上などでも滑りにくい。濡れた岩を歩くことが多い川では必須アイテムだ。
川の中は平らじゃないから面白い

川岸で見ていた時には気づかなかったけれど、実際に歩いてみると、川底は起伏に富んでいる。くるぶし程度の浅いところだと思っていても、一歩先が深くなっていたりする。だから、自分の目と足の感触を頼りに、歩くことに集中する。普段アスファルトできれいに舗装された道しか歩いていない探検部員には新鮮な体験で、だから面白い。

「ここ、深くなっているので、気をつけてください」

先を歩いていた鈴木さんが言った。水は、鈴木さんの太ももより上まで来ている。水に入る前に深さがわかると、不安感も和らぐ気がする。何より、川のエキスパートがすぐ近くにいるので安心だ。

川では大人も子供も、自分の身は自分で守るのが基本。「この石に足を乗せても大丈夫かな?」と注意を働かせて歩いているうちに自信もつき、川遊びがどんどん楽しくなっていく。

「安全に遊ぶために重要なのは、危険なところを見極めること。急に深くなっているところ、泡が立って底の様子がわからないところ、石が落ちて来そうなところには近づかない。これが基本です」

なるほど。言い換えれば、川底が目で確認できるように足裏の感触を体得できれば、安全に楽しく遊べるということだろう。

「あとは、遊ぶところとその上流に雨雲がないか、ニュースやスマホアプリなどでこまめにチェックします。急に増水する時は川の水が濁るので、そういう時はすぐに川から上がった方が安全です。小菅川の場合、雨が降っても上流域の健全で豊かな森がいったん保水してくれるので、急激に川の水が増えることのはあまりないんですけどね」

時には、川の真ん中に大きな倒木がゴロンと転がっていることも。こうした倒木や岩を避けたり、時には乗り越えたりしながら進むのも、沢歩きの面白いところ。
淵など、深くなっているところでは、箱メガネで川の中を観察。順番に箱メガネを覗きながら、思わず「いたいた!」と声をあげる探検部員たち。Vol.6では、小菅川の沢歩きで出会った生き物について詳しく紹介する。

「けっこう歩きましたね」

思わず呟くと、鈴木さんが爽やかな笑顔で言った。

「まだ半分ですよ。今日のコースは全長1kmくらいですから、残りはあと500mです」

普通の道と違い、沢歩きでは岩を上ったり下ったりを繰り返す分、同じ距離でも長く感じる。

スタート地点では川原も川幅も広かったが、上流に向かって進むにつれて川幅も細くなり、水の流れが速いところや段差のあるところが出てきた。

慎重に歩きやすいルートを探したり、多少流れが速いところでも、まったく躊躇せずにどんどん進んだり、同じアウトドア初心者の探検部員たちの中でも、ルート選びには個性が出るのが面白い。

「大人の方が経験や知識がある分、恐怖心を抱きやすいのかもしれませんね。源流体験プログラムでも、子供はひょいひょい岩の上を歩いているのに、大人の方が怖がるというケースも多いですよ。普段おとなしい子が川に飛び込んだりして、『うちの子、こんな面もあるんだ』と驚く親御さんもいます」

なるほどと頷きながら、さっきよりも石の上を歩くことに慣れている自分に気づく。水の流れの強さ、滑る石を察知するカン。眠っていた身体機能のスイッチがオンになったような気がする。

今回、探検部が歩いたのは堰堤と堰堤に挟まれた1kmの区間。たった1kmの区間にも、川幅が広くて浅いところ、川幅が狭くて流れが急なところ、崖に囲まれたところなど、川はさまざまな表情を見せてくれた。

川幅はさらに狭くなり、両岸から張り出した木々の枝が日差しを遮る。心なしか、ひんやりと涼しい。上流から滝のような水音とともに、ゴールとなる堰堤が姿を現した。ほっとする気持ちと、やっと川の中を歩き慣れたのに終わってしまったという寂しさが入り混じる。

「源流体験プログラムでは、堰堤で滝のように流れ落ちる水に打たれる子もいますよ」

鈴木さんが、さきの堰堤を指差した。それは面白そうだけれど、また別の機会に。わずか1kmの川歩きだったが、想像以上に変化に富んだ源流域の姿に驚いた。知れば知るほど川に興味を持つだろう。こんな体験から自然を感じる楽しみが、また一つ増えた。