EXISTデザイナーが語る、込められた想い
本質をデザインに問う。
初代よりEXISTのエクステリアデザインを担当する
デザイナーの近藤 俊に、22EXISTに込めた想いを聞いた。
近藤の口からたびたび出てきたのは
「本質の追求」という言葉だった。
EXISTデザイナーが語る、込められた想い
初代よりEXISTのエクステリアデザインを担当する
デザイナーの近藤 俊に、22EXISTに込めた想いを聞いた。
近藤の口からたびたび出てきたのは
「本質の追求」という言葉だった。
Exterior Designer
近藤 俊
初代EXISTからエクステリアデザインを担当。22EXIST、18EXISTなどで、グッドデザイン賞を多数受賞。
デザイナー近藤が22EXISTのデザインを語るにあたり、まず口を開いたのは、
18EXISTで試みたデザインコンセプトの大転換だった。
22EXISTのデザインは、18EXISTの存在を抜きに語ることはできません。
22EXISTのデザインは、18EXISTの存在を抜きに語ることはできません。革新的なテクノロジーであるモノコックボディの搭載は、私たちに、それまでの「フラッグシップとはこうあるべき」という、デザインの方向性を大きく変える決断をさせました。具体的に言えば、ゴールドなどのきらびやかな加飾表現からの転換です。モノコックボディを目玉とした、優れたダイワの最先端テクノロジーをどのように表現すれば良いか。そこを第一に考え、「機能を外観に表すこと」を、デザインコンセプトの中心に据えたのです。
まずは、なによりもモノコックボディのハウジングを強調しようと心掛けました。デザイン的にボディからフットを独立させ、ボディの中心にはリールの心臓部を表す強靭なメインギアの回転軸を表現しました。一方、フットは付け根にブランキング(穴開け)を施し、贅肉を削ぎ落とした軽やかさを強調しました。
軽量を伝えることは、歴代EXISTに通じたテーマですから、たとえば12EXISTと15EXISTでは、二股に分かれたリアキャップによる風が抜けていくイメージで軽やかさを表しています。18EXISTでは、軽量感の表現はフットに担わせつつ、ボディではモノコックの剛性感を強く印象づけるなど、それぞれのパートごとに機能を強調するデザインを目指したのです。ローターで言えば、12EXISTと15EXISTでは、軽量化とマグシールドの防水性を強調し、さらに剛性にも寄与するアーチ形状のエアローターをデザインしましたが、LT(ライト&タフ)コンセプトを立ち上げた18EXISTでは、スプールとローターをよりタイトに絞り上げたデザインに変更しています。
このように、一点一点、パーツの持つ機能やテクノロジーをわかりやすく伝えるのが18EXISTで目指したデザインコンセプトでした。もちろん、カタログなどのプロモーションツールを見ていただいている方は、ダイワの技術力を十分に理解されているかと思いますが、リールを見ただけで、誰もがその凄さを実感してもらえるようなデザインを求めていったのです。カラーリングをできるだけ飾らないシンプルなシルバー基調にしていったことも、その表れです。
一本の線、一つの曲面に、リールの個性は左右される。各パーツの最先端テクノロジーが成す機能美を突き詰めた18EXISTに対し、22EXISTでは、フラッグシップとしてのたたずまいをどのように表現していくかに心血を注いだ。
各々のテクノロジーを強調した18EXISTのデザインを受けて、
22EXISTは、どのようなデザインを目指されたのでしょうか?
EXISTで目指したのは「さらなる本質の追求」です。18EXISTのデザインも本質の追求のひとつだとは思いますが、22EXISTでは、そもそも「EXISTとはどのようなリールであるべきか」といったところにまで立ち返り、デザインの方向性を再構築したわけです。2005年に初代EXISTが発売されてから5代目となり、最先端技術の粋を集めたEXISTの機能が優れていることは、もう十分に認知されているだろうと考えました。その上で、伝えるべきことはなにかと検討を重ねた結果、それはEXISTらしい存在感とアイデンティティを進化、そして深化することではないかと。性能に直結する機能部品でありながらも官能的な要素も求められる外装部品に、派手さや奇抜さを求めるのではなく、要素を減らして一本の線や曲面に磨きをかける。その結果として備わる風格や、たたずまいの美しさを通して、フラッグシップとしての本質を表現することではないかと、たどり着いたのです。
洗練とは
『ものを良くするために、ピュアに突き詰めていく作業だよね』
と行き着いたんです
では、フラッグシップとしての本質とは、どのようなものなのか?
そう聞くと近藤は、とある自動車メーカーの名を挙げ、
当時、発売されたばかりのフラッグシップカーを例に、こう語った。
そこには、サーキットでレースを走破できるスペックを持っていながら、それを公道の走行車としてどのように高めていくかという、好例がありました。とてつもなくハイレベルな技術を持ちながら、スポーツカーらしく仕上げるのではなく、あくまでもしっとりとした風格のあるラグジュアリーな方向へとデザインを突き詰めながら、中身はものすごくハイスペックなのだろうと感じさせるデザインです。これはまさに22EXISTと一致するコンセプトであると思い、チームで共有する際の参考にもさせてもらいました。
立体のニュアンスは、近藤がその手でクレイモデルを削りながら掴んでいく。内部構造と外観を隔てる境界は極めて薄く、デザインの領域はあまりにも狭い。制限と表現の狭間を行き来しながら高みを目指し、理想へと向かう作業。
22EXISTのデザインには「洗練」という言葉が良く似合う。
そう伝えると、近藤は喜びながらも、次のように言葉を継いだ。
「洗練」という言葉については、とても良い意味で言っていただけていることがわかるし、うれしいのですが、一方で、イージーな褒め言葉として、とても使いやすい言葉だという自覚をチームでは共有しています。「洗練されたデザイン」といえば、プレゼンがまとまってしまう気もしますが、では「洗練とはなに?」というところまで、我々は突き詰められているのだろうかと。装飾を減らしたり、なるべく余分な線をなくしてシンプルにすることも、洗練の一部ではありますが、それ以上に「ものを良くするために、ピュアに突き詰めていく作業だよね」と行き着いたんです。
デザインのバックグラウンドを定めるデザイン会議は、EXISTに関わる者すべてが、フラッグシップへの熱意を共有する作業。エクステリアデザイナーとして、企画部や設計部とともに、このリールの存在理由を確かめていく。
「ものを良くするために、ピュアに突き詰める」。
それは、具体的にどのようなことだったのでしょうか?
22EXISTの大きな技術革新はエアドライブデザインであり、その顔とも言えるエアドライブローターはデザイン上の要であると考えていました。ローターとしての本質とは何か。こう考えた時、シンプルに「回転するものである」という答えが出てきたわけです。では、糸を巻く回転体としての理想的な形状とは、と考えた先に、「球体」という方向性が見えてきた、というわけです。このデザインが、リールの顔とも言えるスプールデザインにもつながり、シンプルでミニマルな造形ながら流麗なカーブの美しさの際立つ、全体的なデザインの方向性にもなっていきました。
先にも述べましたが、18EXISTのデザインは、それぞれの機能を強調しながら、セクションの外形を表す稜線を立たせたデザインにして、美しさを強調しています。言うなれば、デザインの線や形そのものの格好良さが際立ったデザインになっているかと思います。対して22EXISTでは、リールとしての機能の本質を突き詰めながら、釣り道具としての本質的なたたずまいを強く求めています。ロッドにセットして、フィールドで使用した時に、アングラーが感じる所有感。シルバーの鏡面に映り込んだ自然の風景も含めた、景色とシェードとハイライトからなる、上質なたたずまいです。
22EIXSTの3Dモデル。回転体としての本質を形にしたエアドライブローターの球体形状が際立つ。初の試みとなった、表面に一切ビスのないスクリューレスデザインは、近藤が求め続けた360度デザインの完全形と言える。だろう。
シルバー1色の鏡面には、そのような理由があったのですね。
その意味ではデザインの本質論は、18EXISTから出ていました。ダブルアルマイトやブルーのラインなどを多少加えながらも、シルバー基調で勝負した18EXISTで、多くのユーザー様に認められたからこそ、22EXISTでは完全に単色でまとめきることができたのだと思います。本質をデザインに問うことができた結果であると、自負しています。ただ、これは決してデザイナーだけの仕事ではなく、企画担当や設計担当を含め、EXISTに関わったすべてのメンバーの努力の賜物です。
22EXISTでは、初めて外観のスクリューレス(ビスなし)も達成しました。相当な技術とコスト面での努力を必要とする部分ですが、成し遂げることができました。
「EXISTのデザインは、すべてのアングルから味わって欲しいですね」
デザインにとって、ビスの存在は、あえて言えば「物の裏側」を暗示するものだという。小さなことのようにも思えるが、機能をつかさどる内部構造と外観との間は、わずか数mm。リールデザインは、限りない制約の範囲内で行われている。だからこその大きな一歩を、近藤は嚙み締めていた。
最後に、近藤に22EXISTのデザインで特に個人的に気に入っているところは?と言う質問を投げかけた。近藤がまず挙げたのは「フットからボディへの柔らかい流れとテクノロジーの共存」というものだった。だが、当然のことながら、それでは収まらず、このように続けた。
結局は、どの部分が一番というのではなく、360度すべて、と言う答えが正しいと思います。リールのデザインを車に例えたりもしましたが、車は下面を見ませんよね。でもリールはそうではありません。ロッドにセットして使うものですから、上も下も表も裏もなく、360度デザインしています。それは初代EXISTから突き詰めてきたことですし、これをかなりのハイレベルで実現できたのが、22EXISTだと思っています。ぜひ、EXISTのデザインは、すべてのアングルから味わって欲しいですね。その上で、オーナー様の所有感を満たし、未来へのワクワクを期待されるプロダクトに仕上がっていたとしたら、これ以上ない喜びです。