~ 成長の証。時田光章選手、4年ぶり2回目の栄冠 ~
2018ダイワへらマスターズ全国決勝大会 in 友部湯崎湖
今年も茨城県笠間市の人気管理釣り場「友部湯崎湖」にて行なわれたダイワへらマスターズ全国決勝大会。 昨年はメーターウドンセットの使い手、天笠 充選手の「圧勝劇」で幕を閉じたマスターズだが、今年はいったいどんなドラマが誕生するのだろうか。 さて毎年、「活性の谷間」となるこの時期。友部湯崎湖も例外ではなく、ダンゴからセット、そして、同じセットでも高活性時の「強いセット」から、冬を意識した「繊細なセット」へ…。日々刻々と変化していく状況が、今年も選手達を大いに惑わせる。 |
前夜祭。前年度チャンプの天笠充選手より優勝カップの返還 |
今年も第三者機関である日本へら鮒釣研究会が大会審判を務めた。 |
競技委員長岡崎一誠氏より挨拶 |
友部湯崎湖、茅根社長より挨拶 |
【予選リーグ】
「ホテル・ザ・ウエストヒルズ水戸」で華やかに行われた前夜祭から一夜明けた11月17日(土)。まだ暗い友部湯崎湖の駐車場に、続々と選手達の車が入ってくる。関東に初霜が降ることもあるマスターズ初日だが、今年は比較的暖かい朝。決戦の舞台はこれまでの4号桟橋から、今年は事務所前の2号桟橋へと移る。 関東、関西、東北、そして韓国。各地の予選を勝ち抜いた選手達に昨年シードの天笠 充選手(優勝)、鈴木千秋選手(2位)、佐藤 勝選手(3位)、時田光章選手(3位)を加えた総勢16名の選手達は、前夜祭での抽選によって4名ずつAからDの4グループに振り分けられ、各グループ内で1対1の総当たり戦を三試合行う(競技時間は全て2時間)。マスターズ伝統の1対1の対戦方式だ。準決勝へと駒を進めることが出来るのは、各ブロックたったの1名のみ。いきなり厳しい「ふるい落とし」が待ち受けている。 |
予選Aグループ |
予選Bグループ |
予選Cグループ |
予選Dグループ |
釣り方については、メーターウドンセットを選択する選手が多い中、チョウチンセットと段底がちらほら…という様相。 7時30分、予選第1試合がスタート。競技時間は全試合2時間。10時より第二試合、昼食休憩を挟んで13時30分より第三試合というスケジュール。 朝の気温は8℃と、昨年よりやや高め。予報に反して薄日も差す状況で、コンディションは悪くない。 ある意味、マスターズ全国決勝大会の「面白さ」が凝縮されている予選リーグ。相手に勝つことはもちろんだが、それだけではない星取りの駆け引きの妙もあり、今年もマスターズは初日から大いに盛り上がりを見せる。 |
「死の組」となったのは、強豪・時田光章選手、茂木昇一選手、堀川要一選手が顔を揃えたBグループ。しかも初戦が時田vs茂木の黄金カードとなり、大会はいきなりヒートアップする。 アタリの増加とともに徐々にペースを上げていった時田選手とデッドヒートを繰り広げるが、最後は型の差に泣き、1kg差での敗退。茂木選手を初戦で退けて波に乗った時田選手は続く2戦ともに快勝し、全勝で予選リーグ突破を決める。対照的に、茂木選手の久しぶりのマスターズは予選リーグで終わりを告げたのである。まさに勝負の妙…。 Aグループでは、もちろんメーターウドンセットを操る天笠 充選手が磐石の釣りを展開。圧倒的な差を見せつけて3勝全勝を決め、準決勝へ。スローな出だしもなんのその。余裕の釣りで危なげない釣りを展開する。 Cグループでは段底で奮闘する浜田優選手をチョウチンセットの鈴木千秋選手が破るが、さらにその上を行ったのが、同じくチョウチンセットの斉藤心也選手。浜田選手は鈴木、斉藤選手に2敗するも、最後まで諦めずに戦う姿を会場にいる誰もがその目に焼き付けていた。 下馬評では「メーター有利」であったが、試合後に斉藤選手も話してくれたとおり、「チョウチンで普通によく釣れる地合だったので、平常心で臨めた」。メーターに比べて打ち始めによく釣れる傾向もあり、ここにきて「やはりチョウチン強し」の空気も生まれ始めていた。 |
大会初日。浜田選手が釣る |
Cグループ、前年準優勝の鈴木千秋選手が絞る |
Dグループは、昨年は体調不良で思うようなパフォーマンスが発揮出来なかった松本茂行選手が本領を発揮する。同じくメーターセットの使い手である佐藤勝選手を退け、チョウチンの南選手に僅差で敗れ、2試合目からチョウチンへスイッチした山本敏之選手と2勝1敗で並ぶものの、直接対決で勝った松本選手が準決勝への切符を手にする。 3戦合計の最高釣果はCグループの斉藤心也選手で、37.15kg。2位はAグループの天笠 充選手で、35.45kg。3位はBグループの茂木昇一選手で32.80kgが続いたが、その茂木選手が予選を突破出来ないところがマスターズならではの1対1の妙。選手達には酷だが、会場が盛り上がるマンツマーン方式ならではの「残酷さ」なのかもしれない。 |
試合後、ホテルにて行われた中夜祭での抽選にて、決勝トーナメントの準決勝は天笠選手vs斉藤選手、松本選手vs時田選手という対戦カードが決定。 いずれも「決勝戦」といってもいい、贅沢なカードだ…。 各組の勝者1名のみが最終の決勝戦に進出することとなる。 大一番を前に、楽しくも神妙な夜は静かに更けた。 |
【準決勝&シード権獲得戦】
明けて11月18日(日)。マスターズ最終日の朝を迎える。 準決勝は敗れた選手達全員による翌年度ブロック大会決定戦シード権獲得戦と同時に、同じく2号桟橋にて7時30分にスタート。事務所向きに向かって左から天笠選手vs斉藤選手、松本選手vs時田選手が並び、その背面にはズラリとシード権獲得戦の選手が並ぶ。 天笠選手が「HERA S」8尺メーターウドンセット。斉藤選手が「龍聖」7尺チョウチンウドンセット。松本選手が「龍聖」8尺メーターウドンセット。そして時田選手が「龍聖」9尺メーターウドンセットである。 |
7時30分、スタート。 7時50分、ようやく天笠選手がアタリらしいアタリをもらって1枚目をフラシに入れた時、斉藤選手はすでに5枚を持っていた。この差が後々まで後を引くこととなる。 松本選手vs時田選手は、まさに両者譲らぬデッドヒートとなった。 いわゆる「抜き系」と呼ばれる浅めのナジミ幅で勝負している両者だが、松本選手の方が穴が開く時間が長い。対する時田選手も決して「イレパク」ではないのだが、松本選手に比べると等間隔で確実にカウントを重ねている印象だ。 これが顕著になったのが、中盤以降。 「暖かい朝だったせいか、初日以上にへらのハシャギが強くで、ボソのバラケで抜きだと抑えきれなくなる。そこでバラケを締めてやると変え際に何枚かは釣れるんだけど、そこで完全に止まってしまう。時田君のようにボソで寄せながらうまく上のへらをさばいていくことが自分には出来ず、我慢出来ずにバラケを締めてしまった。それで『シーン』(苦笑)。完敗です」 おそらく、本当は戦っている本人達にしか分からない、ほんの僅かの差なのであろう。 試合後、負けの原因を明快に語ってくれた松本選手の表情は、晴れ晴れとしていた。つまりそれくらい時田選手の方が一枚も二枚も上だった、ということなのだろう。 松本選手、8.90kg。 時田選手、快勝。 |
準決勝。時田選手がコンスタントに絞る |
準決勝。中盤までは時田選手と互角の戦いを演じた松本選手だったが、終盤、バラケを合わせきれず失速してしまう |
さて、予想以上に苦戦している印象が強かった天笠選手。しかし、ウキをサイズアップしたところで完全に持ち直し、徐々に天笠選手らしい強さが表れ始める。 ウキを交換して徐々に迫力を増していく天笠選手のメーターセットに対し、逆に徐々に決め手を欠いていく斉藤選手のチョウチンセット。普通ならここで天笠選手の釣りに飲み込まれてしまうところだが、今大会の斉藤選手は違った。 正直、対面で見ていた筆者も「やはり天笠選手が勝つか」という印象を持って中盤を迎えていた。しかし、斉藤選手は誰もの予想を覆す粘りを見せ、天笠選手の先行を許さなかったのである。 |
後に、天笠選手はこう語った。 天笠選手、9.95kg。斉藤選手、12.55kg。 かくして、決勝戦のカードは斉藤心也選手vs時田光章選手に決定。両者優勝経験者同士のチョウチンvsメーター対決となる。 惜しくも準決勝で敗退した天笠選手、松本選手には翌年度全国決勝大会のシード権が与えられ、また同時開催された「シード権獲得戦」では、茂木昇一選手が7.55kgを釣ってトップに。以下、鈴木千秋選手、成田和史選手、韓国の金東賦選手が翌年度ブロック大会決勝シード権(1勝すれば全国)を獲得し、大会を終えた。注目の浜田優選手は残念ながら6位となってブロック大会決勝シード獲得を逃したが、おそらく来年また、力強くブロック大会予選から勝ち上がってくることだろう。 |
【決勝戦 ~チョウチン vs メーター。1枚の差は、4年分の「成長」~】
10時30分、いよいよダイワへらマスターズ2018全国大会決勝戦が2号桟橋事務所向きにて始まる。 向かって左が斉藤心也選手、右が時田光章選手。 チョウチンウドンセットの斉藤選手は「龍聖」7尺のまま。そしてメーターウドンセットの時田選手は準決勝より1尺短くした「枯法師」8尺で勝負に出た。この枯法師は、決勝戦直前にレジェンド浜田選手から託された竿だという。 開始直後の1投目から、両者のウキが動く。桟橋に2人だけ。与えられた魚影は十二分のようだ。開始から3分、先に静寂を打ち破ったのは時田選手だった。 |
静かなる挑接戦となった決勝戦。序盤から緊張感が会場を包む |
独特の前傾姿勢で竿をためる斉藤選手 |
斉藤選手は毎投、1~5回くらいのタテサソイの後にアタリをもらっているが、いきなりカラツンが多い。そして時田選手も魚の多さに苦悶の表情を浮かべる。マスターズ決勝に勝ち上がった者にしか分からない「桟橋に2人の恐怖」が襲いかかるが、二人ともに経験者。狼狽することなく、次の一手を狙う。 そこからはまさに、絵に描いたような「互角の攻防」が繰り広げられた。 斉藤選手が掛ければ、即座に時田選手が釣り返す。 11時50分、斉藤選手が連チャンを決めて18枚とし、時田選手に3枚差を付けて先に2フラシ目に手を掛ける。 試合が動いたのは、12時7分。 |
冷静な両者の釣り姿。時田選手が釣っても、斉藤選手は眉ひとつ動かさない |
即座に釣り返す斉藤選手 |
ここからがまた、一進一退。 この時の二人の心理状態というのは、いったいいかなるものなのだろうか。 お互いが自分の釣りに集中し、相手は見えていないのか。 二人にしか分からない絶対領域――――――。 終了まであと7分と迫った12時23分、ついに試合が動く。 2枚差…。 ハリスを換え、斉藤選手が1枚釣り返して21枚とし、1枚差。 そして最後、両者ともに止まる――――――。 12時30分、試合終了。 斉藤選手21枚、時田選手22枚。 果たして――――――? ギャラリーが見守る中、慎重な上に慎重を期した検量が行われる。 斉藤心也選手 21枚 12.00kg チャンプ同士の静かなる超接戦を制したのは、山形が生んだ若き怪物トーナメンター、時田光章選手だった! |
検量終了の瞬間、思わずガッツポーズを繰り出す時田選手 |
斉藤選手の釣り姿 |
「チョウチンは試釣の時から好感触はあったんですが、打ち始めが簡単にポンポンと釣れて、だんだん難しくなってボケてくる…というはっきりとした傾向がありました。それが決勝戦まで続いた感じです。抜き系のチョウチンで、打ち始めは比較的簡単にアタって釣れるのですが、だんだんエサ慣れしたへらが寄ってくると、カラツンだらけになります。そこからはバラケのタッチやハリスの長さをわざとちょこちょこ換えたりして、換え際に1枚釣る…という感じでした。今試合が終わってみると、他に何かやりようもあったような気がしますが、釣り的にも勝負の駆け引き的にも、時田君の方が1枚上手でした。完敗です」 試合後、全てを出し切った斉藤選手は爽やかに自らの釣りを振り返り、若きチャンプを祝福したのである。 |
【4年分の成長の証明。我慢に我慢を重ね、最後に勝機をものした時田光章の戦略】
「ラスト30分のどこかで何か起きればと思って狙ってはいましたが、全体的にはとにかく我慢の釣りでした」 4年前、マスターズであの浜田優選手や茂木昇一選手を超攻撃的な釣りで破って華々しくシーンに躍り出た「山形の怪童」は、ひとまわりもふたまわりも大きく成長した青年となって、再び栄光の座をつかみとった。 特に決勝戦では、斉藤心也選手との文字どおりの互角の戦いを冷静に進め、最後の最後でラッシュを繰り出して鼻差で勝つ――――――という、そう、まるで浜田優選手のような渋い勝ち方をやってのけたのである。 ではいったい、時田選手はどのような戦略でメーターセットを組み立て、実践したのだろうか。 「釣り方の基本形は、いわゆる冬っぽい『抜き系』で、バラケの重さがトップの1目盛にかかるかかからないか…という釣りです。そこで下バリのクワセがいい感じでアオられて、スパッとアタる感じですね。今年はあまり試釣が出来なかったので、関東の友人や先輩方に情報をもらって釣りをイメージしてきました。そういう意味では、みなさんに本当に感謝です」 試釣は金曜日の1日のみ。そして、その試釣と本番の予選リーグを通じて、時田選手はある傾向をつかんでいたという。 「竿の長さですね。7尺や8尺より、ちょい長めの9尺の方が圧倒的にいい魚が濃くて、型もいいんですよ。決勝戦だけは桟橋に2人だけになるということで8尺にしたのですが、今考えればこれは失敗だったかもしれません…と思えるほどに、9尺が良かったんですよね」 わずか1尺の違いで相手にするへらの質や量が明らかに違う…。そんなことを冷静に見抜いていたほど、今大会の時田選手は終始、冷静沈着だった。 「経験…というにはまだまだですが、1回目の優勝時よりは、いろいろ周りが見えていたのは事実かもしれません」 釣り方も、まさに「手練れ」の雰囲気だった。 「抜き系」をベースとしながらも、ゼロナジミでガンガン打ちまくる…のではなく、わずかにバラケの荷をかけることで、タナの安定もキープ。渋いながらもハシャぎたがるへらを絶妙にいなし、他の選手より明らかに多くの食いアタリをもらっていた。 「決勝戦はやはり準決勝以上にへらのハシャギが強くて、かといってバラケを締めてナジませる釣りにスイッチすると、すぐに1枚2枚釣れたも、その後、一気に静かになっちゃう…という非常に難しい状態。斉藤選手も同じく苦しいはずだと思い、とにかく我慢しながらバラケの持たせ方を微妙に変えながら拾っていくことを心がけていました。そしてラスト7分の場面、もうこれで釣れなくなってもいいと思い、初めてバラケを練ったんです。そこで狙いどおり2枚拾えたのは、本当にラッキーでした」 我慢に我慢を重ね、最後の最後で勝負に出る。 繰り返すが、とても若者らしくない(苦笑)、勝負師の横顔…。 インタビューの最後、今大会を象徴するような冷静な表情でそう言い切った時田選手。 |
表彰式。グローブライド株式会社 藤掛進大会委員長の挨拶 |
笠間観光協会小沢氏より挨拶 |
岡崎一誠競技委員長より挨拶 |
参加賞は「かさま焼き芋」が友部湯崎湖茅根社長より手渡された |
時田選手に優勝カップが手渡される |
上位選手表彰台 |
【優勝:時田光章選手 メーターウドンセット】
竿 | : | 「枯法師」8尺(決勝) 準決勝までは「龍聖」9尺 |
道糸 | : | 0.7号 |
ハリス | : | 上0.4号8cm、下0.3号30cm |
ハリ | : | 上「バラサ」6号、下「リグル」3号 |
ウキ | : | 一志「セットスピリット」細パイプ 4番(マスターズバージョン) ボディ5cm エサ落ちは全7目盛中、4目盛出し |
バラケ | : | 「粒戦」200cc+「粒戦 細粒」50cc+「とろスイミー」 50cc+水300ccをしばらく放置後、「サナギパワー」 100cc+「バラケマッハ」100cc+「セット専用バラケ」100ccを手水と「軽麩」で微調整。 |
クワセ | : | 「感嘆1袋にさなぎ粉20ccをあらかじめ混ぜておいたもの」10cc+コーラ10cc |
【準優勝:斉藤心也選手 チョウチンウドンセット】
竿 | : | 「龍聖」7尺 |
道糸 | : | 0.8号 |
ハリス | : | 上0.5号8cm、下0.3号35~40cm |
ハリ | : | 上「極ヤラズ」7号、下「食わせヒネリ」3号 |
ウキ | : | 仁成作「ウォータースカッシュ」ボディ5cm グラスムクトップ仕様 エサ落ちは全13目盛中、3目盛出し |
バラケ | : | 「粒戦」200cc+「粒戦 細粒」100cc+「セットガン」200cc+水300ccをしばらく放置後、「セット専用バラケ」200ccを手水で微調整。 |
クワセ | : | 「感嘆1袋にさなぎ粉30ccをあらかじめ混ぜておいたもの」10cc+コーラ11cc |