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へらマスターズ


~ 成長の証。時田光章選手、4年ぶり2回目の栄冠 ~
2018ダイワへらマスターズ全国決勝大会 in 友部湯崎湖

今年も茨城県笠間市の人気管理釣り場「友部湯崎湖」にて行なわれたダイワへらマスターズ全国決勝大会。

昨年はメーターウドンセットの使い手、天笠 充選手の「圧勝劇」で幕を閉じたマスターズだが、今年はいったいどんなドラマが誕生するのだろうか。
そして今年、不死鳥のごとく「あの選手」が3年ぶりにマスターズに還ってきた。「ミスターマスターズ」と呼ぶのに誰も異論は挟まないだろう、浜田 優選手である。
優勝5回、準優勝3回。前人未到の記録をひっさげ、なお現役の68歳。
厳しい予選を勝ち上がっての浜田選手の「復帰」に他の選手達のモチベーションも奮い立つ、ダイワへらマスターズ 2018となった。

さて毎年、「活性の谷間」となるこの時期。友部湯崎湖も例外ではなく、ダンゴからセット、そして、同じセットでも高活性時の「強いセット」から、冬を意識した「繊細なセット」へ…。日々刻々と変化していく状況が、今年も選手達を大いに惑わせる。
試合前の選手達から漏れ聞こえてくるのは、「難しい」の単語。
釣れなくはないが、他を圧倒するほどの決め手はなく、浅ダナもチョウチンも、そして段底も「そこそこ」。いったい誰が抜け出すのか、まったく余談を許さない中で本番を迎えることとなった。

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前夜祭。前年度チャンプの天笠充選手より優勝カップの返還

今年も第三者機関である日本へら鮒釣研究会が大会審判を務めた。

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競技委員長岡崎一誠氏より挨拶

友部湯崎湖、茅根社長より挨拶

【予選リーグ】

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舞台となった友部湯崎湖2号桟橋

「ホテル・ザ・ウエストヒルズ水戸」で華やかに行われた前夜祭から一夜明けた11月17日(土)。まだ暗い友部湯崎湖の駐車場に、続々と選手達の車が入ってくる。関東に初霜が降ることもあるマスターズ初日だが、今年は比較的暖かい朝。決戦の舞台はこれまでの4号桟橋から、今年は事務所前の2号桟橋へと移る。

関東、関西、東北、そして韓国。各地の予選を勝ち抜いた選手達に昨年シードの天笠 充選手(優勝)、鈴木千秋選手(2位)、佐藤 勝選手(3位)、時田光章選手(3位)を加えた総勢16名の選手達は、前夜祭での抽選によって4名ずつAからDの4グループに振り分けられ、各グループ内で1対1の総当たり戦を三試合行う(競技時間は全て2時間)。マスターズ伝統の1対1の対戦方式だ。準決勝へと駒を進めることが出来るのは、各ブロックたったの1名のみ。いきなり厳しい「ふるい落とし」が待ち受けている。

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予選Aグループ

予選Bグループ

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予選Cグループ

予選Dグループ

釣り方については、メーターウドンセットを選択する選手が多い中、チョウチンセットと段底がちらほら…という様相。
試釣を入れた選手達に聞くと、「今年の湯崎は、朝は渋めでスロースタートの傾向。それだけに、第一試合の出来が運命を左右するかも」と話す選手が数名。慎重な「入り」が求められた。

7時30分、予選第1試合がスタート。競技時間は全試合2時間。10時より第二試合、昼食休憩を挟んで13時30分より第三試合というスケジュール。
マスターズは全試合1対1の対決制度を採用(昨年から準決勝も3名1人抜けでなく1対1)。勝ち点3点、引き分けで1点、負けると0点で3試合の勝ち点合計で競う。とにかく隣の相手に「勝つ」ことが最優先事項であり、全勝(3勝)すれば文句無し。2勝1敗で並んだ場合は直接対決時に勝った方、三すくみの場合のみ、釣った総重量の比較で予選通過者を決定する。まさに“一瞬も気の抜けない真剣勝負”が同時に8組、予選リーグ一日で24試合繰り広げられるのだ。

朝の気温は8℃と、昨年よりやや高め。予報に反して薄日も差す状況で、コンディションは悪くない。

ある意味、マスターズ全国決勝大会の「面白さ」が凝縮されている予選リーグ。相手に勝つことはもちろんだが、それだけではない星取りの駆け引きの妙もあり、今年もマスターズは初日から大いに盛り上がりを見せる。

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Bグループ、茂木選手と時田選手が激しい火花を散らす。

「死の組」となったのは、強豪・時田光章選手、茂木昇一選手、堀川要一選手が顔を揃えたBグループ。しかも初戦が時田vs茂木の黄金カードとなり、大会はいきなりヒートアップする。
時田、堀川選手がメーターセット。対照的に、茂木選手は師である浜田選手と同じく段差の底釣りを選択。出だし、メーターの時田選手がなかなかアタリを出せない中、茂木選手が狙い通りしつこく待つ段底でカウントを重ね、リードを広げていく。
しかしここで茂木選手にとって「誤算」があった。メーターで釣れるへらが、予想外に大きいのである。

アタリの増加とともに徐々にペースを上げていった時田選手とデッドヒートを繰り広げるが、最後は型の差に泣き、1kg差での敗退。茂木選手を初戦で退けて波に乗った時田選手は続く2戦ともに快勝し、全勝で予選リーグ突破を決める。対照的に、茂木選手の久しぶりのマスターズは予選リーグで終わりを告げたのである。まさに勝負の妙…。

Aグループでは、もちろんメーターウドンセットを操る天笠 充選手が磐石の釣りを展開。圧倒的な差を見せつけて3勝全勝を決め、準決勝へ。スローな出だしもなんのその。余裕の釣りで危なげない釣りを展開する。

Cグループでは段底で奮闘する浜田優選手をチョウチンセットの鈴木千秋選手が破るが、さらにその上を行ったのが、同じくチョウチンセットの斉藤心也選手。浜田選手は鈴木、斉藤選手に2敗するも、最後まで諦めずに戦う姿を会場にいる誰もがその目に焼き付けていた。

下馬評では「メーター有利」であったが、試合後に斉藤選手も話してくれたとおり、「チョウチンで普通によく釣れる地合だったので、平常心で臨めた」。メーターに比べて打ち始めによく釣れる傾向もあり、ここにきて「やはりチョウチン強し」の空気も生まれ始めていた。

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大会初日。浜田選手が釣る

Cグループ、前年準優勝の鈴木千秋選手が絞る

Dグループは、昨年は体調不良で思うようなパフォーマンスが発揮出来なかった松本茂行選手が本領を発揮する。同じくメーターセットの使い手である佐藤勝選手を退け、チョウチンの南選手に僅差で敗れ、2試合目からチョウチンへスイッチした山本敏之選手と2勝1敗で並ぶものの、直接対決で勝った松本選手が準決勝への切符を手にする。

3戦合計の最高釣果はCグループの斉藤心也選手で、37.15kg。2位はAグループの天笠 充選手で、35.45kg。3位はBグループの茂木昇一選手で32.80kgが続いたが、その茂木選手が予選を突破出来ないところがマスターズならではの1対1の妙。選手達には酷だが、会場が盛り上がるマンツマーン方式ならではの「残酷さ」なのかもしれない。

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中夜祭にて。準決勝は天笠 充選手vs斉藤心也選手、松本茂行選手vs時田光章選手に決定。

試合後、ホテルにて行われた中夜祭での抽選にて、決勝トーナメントの準決勝は天笠選手vs斉藤選手、松本選手vs時田選手という対戦カードが決定。

いずれも「決勝戦」といってもいい、贅沢なカードだ…。

各組の勝者1名のみが最終の決勝戦に進出することとなる。

大一番を前に、楽しくも神妙な夜は静かに更けた。

【準決勝&シード権獲得戦】

明けて11月18日(日)。マスターズ最終日の朝を迎える。
朝の冷え込みは前日同様緩く、この時期としては暖かい朝を迎える。天候は曇り時々晴れ、無風と、上々のコンディションだ。

準決勝は敗れた選手達全員による翌年度ブロック大会決定戦シード権獲得戦と同時に、同じく2号桟橋にて7時30分にスタート。事務所向きに向かって左から天笠選手vs斉藤選手、松本選手vs時田選手が並び、その背面にはズラリとシード権獲得戦の選手が並ぶ。

天笠選手が「HERA S」8尺メーターウドンセット。斉藤選手が「龍聖」7尺チョウチンウドンセット。松本選手が「龍聖」8尺メーターウドンセット。そして時田選手が「龍聖」9尺メーターウドンセットである。

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準決勝。狙いどおり打ち始めからラッシュを決める斉藤選手

7時30分、スタート。
ファーストヒットは斉藤選手。そして、いきなり連チャンで2枚目をフラシに入れる。
狙っていた斉藤選手。出足の遅いメーターと違い、チョウチンは逆に寄り始めが簡単に釣れ、だんだん難しくなる…という傾向。これを逆手に取り、メーターの天笠選手が釣り始める前に1枚でも多く釣っておこう、という作戦だった。そしてこれが見事に功を奏し、序盤から一気にカウントを重ねていくのである。釣り方はいわゆる「抜きチョウチン」で、バラケのナジミをほとんど入れずにクワセだけでタテサソイを繰り出していくスタイル。比較的早めのサソイ後に明快なアタリをもらっている。

7時50分、ようやく天笠選手がアタリらしいアタリをもらって1枚目をフラシに入れた時、斉藤選手はすでに5枚を持っていた。この差が後々まで後を引くこととなる。

松本選手vs時田選手は、まさに両者譲らぬデッドヒートとなった。
ともにメーターセットの2人。「ファッ、ファッ、タッ!」、と早いアタリで松本選手が畳み掛ければ、若い時田選手が落ち着き払って冷静に待って釣り返す…という展開。優勝経験のある時田選手は年齢を感じさせず不気味なほど落ち着いていて、時にはかなり待ってからの消し込みでもとりこぼしなく拾っていく。

いわゆる「抜き系」と呼ばれる浅めのナジミ幅で勝負している両者だが、松本選手の方が穴が開く時間が長い。対する時田選手も決して「イレパク」ではないのだが、松本選手に比べると等間隔で確実にカウントを重ねている印象だ。

これが顕著になったのが、中盤以降。
後に松本選手が「バラケをいじり過ぎて、正解から逸れていってしまった」と語ったように、ほぼカウントがストップしてしまう。その隙を逃さなかったのが時田選手で、逆にペースアップに成功し、徐々に松本選手を引き離していくのだ。

「暖かい朝だったせいか、初日以上にへらのハシャギが強くで、ボソのバラケで抜きだと抑えきれなくなる。そこでバラケを締めてやると変え際に何枚かは釣れるんだけど、そこで完全に止まってしまう。時田君のようにボソで寄せながらうまく上のへらをさばいていくことが自分には出来ず、我慢出来ずにバラケを締めてしまった。それで『シーン』(苦笑)。完敗です」

おそらく、本当は戦っている本人達にしか分からない、ほんの僅かの差なのであろう。

試合後、負けの原因を明快に語ってくれた松本選手の表情は、晴れ晴れとしていた。つまりそれくらい時田選手の方が一枚も二枚も上だった、ということなのだろう。

松本選手、8.90kg。
時田選手、13.75kg。

時田選手、快勝。

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準決勝。時田選手がコンスタントに絞る

準決勝。中盤までは時田選手と互角の戦いを演じた松本選手だったが、終盤、バラケを合わせきれず失速してしまう

さて、予想以上に苦戦している印象が強かった天笠選手。しかし、ウキをサイズアップしたところで完全に持ち直し、徐々に天笠選手らしい強さが表れ始める。
斉藤選手は序盤の勢いはいったん収束し、徐々に上層でハシャぐへらに手を焼き始める。打ち始めは比較的簡単にアタって、しかも高ヒット率で釣れてくるのだが、エサ慣れしたへらが厚く寄り始めると、とたんに難しくなる傾向があった。9時12分には天笠選手が先に2フラシ目を掛け、ほぼ同時に斉藤選手も2フラシに。つまり、この時点では枚数的には追いつかれていたのだ。

ウキを交換して徐々に迫力を増していく天笠選手のメーターセットに対し、逆に徐々に決め手を欠いていく斉藤選手のチョウチンセット。普通ならここで天笠選手の釣りに飲み込まれてしまうところだが、今大会の斉藤選手は違った。
バラケのサイズ、タッチはもとより、ハリスの長さやハリをこまめに換えながら、その換えた1投で釣る…という拾い釣りをしたたかに繰り返していき、天笠選手のペースにピタリと食らいついていくのだ。

正直、対面で見ていた筆者も「やはり天笠選手が勝つか」という印象を持って中盤を迎えていた。しかし、斉藤選手は誰もの予想を覆す粘りを見せ、天笠選手の先行を許さなかったのである。

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シード獲得戦でアワセを決める茂木選手

後に、天笠選手はこう語った。
「予選での釣り方というのは、上のハシャギに惑わされず、小さめのウキに長めの下ハリス、そして大きめのバラケをうまく持たせて、寄りをキープしながら釣っていく…という感じが正解でした。それが、準決勝は中盤になってもバラケがまったく入って行かず、結果的にはウキは大きめ、下ハリスは短め、そしてバラケは小エサ…と、全てが逆になったのです。予選で決まり過ぎたために、そこに気づいたのが遅過ぎました。完敗です」

天笠選手、9.95kg。斉藤選手、12.55kg。
斉藤選手、最後はその差を再び広げる。

かくして、決勝戦のカードは斉藤心也選手vs時田光章選手に決定。両者優勝経験者同士のチョウチンvsメーター対決となる。

惜しくも準決勝で敗退した天笠選手、松本選手には翌年度全国決勝大会のシード権が与えられ、また同時開催された「シード権獲得戦」では、茂木昇一選手が7.55kgを釣ってトップに。以下、鈴木千秋選手、成田和史選手、韓国の金東賦選手が翌年度ブロック大会決勝シード権(1勝すれば全国)を獲得し、大会を終えた。注目の浜田優選手は残念ながら6位となってブロック大会決勝シード獲得を逃したが、おそらく来年また、力強くブロック大会予選から勝ち上がってくることだろう。

【決勝戦 ~チョウチン vs メーター。1枚の差は、4年分の「成長」~】

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決勝戦前に健闘を誓い固い握手をする斉藤心也選手と時田光章選手

10時30分、いよいよダイワへらマスターズ2018全国大会決勝戦が2号桟橋事務所向きにて始まる。

向かって左が斉藤心也選手、右が時田光章選手。
斉藤選手は一昨年2016マスターズ覇者。そして時田選手は4年前、若々しくも攻撃的な釣りで「世代交代」を色濃く印象付けた2014年マスターズ覇者。
2018年マスターズの締めくくりは、歴代チャンプ同士の見応えある「超接戦」となった。

チョウチンウドンセットの斉藤選手は「龍聖」7尺のまま。そしてメーターウドンセットの時田選手は準決勝より1尺短くした「枯法師」8尺で勝負に出た。この枯法師は、決勝戦直前にレジェンド浜田選手から託された竿だという。

開始直後の1投目から、両者のウキが動く。桟橋に2人だけ。与えられた魚影は十二分のようだ。開始から3分、先に静寂を打ち破ったのは時田選手だった。
…と思いきや、即座に斉藤選手がタテサソイからの「チクッ!」をとらえて2枚を連チャン。
その3分後、再び斉藤選手が連チャンを決めて4枚とするも、時田選手もすかさず釣り返し、ピタリと背後に付けて「逃げ」を許さない。

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静かなる挑接戦となった決勝戦。序盤から緊張感が会場を包む

独特の前傾姿勢で竿をためる斉藤選手

斉藤選手は毎投、1~5回くらいのタテサソイの後にアタリをもらっているが、いきなりカラツンが多い。そして時田選手も魚の多さに苦悶の表情を浮かべる。マスターズ決勝に勝ち上がった者にしか分からない「桟橋に2人の恐怖」が襲いかかるが、二人ともに経験者。狼狽することなく、次の一手を狙う。

そこからはまさに、絵に描いたような「互角の攻防」が繰り広げられた。

斉藤選手が掛ければ、即座に時田選手が釣り返す。
時田選手が連チャンヒットを決めれば、斉藤選手も粘り強く連釣する…。
まるで二人が示し合わせてシンクロしているかのようにまったく同じペースで釣り進み、開始から1時間後には14枚対14枚の同枚数。息をするのもはばかれるほど静まり返った対岸のギャラリー席は、固唾を呑んで二人の超接戦を見守った。

11時50分、斉藤選手が連チャンを決めて18枚とし、時田選手に3枚差を付けて先に2フラシ目に手を掛ける。
しかし、時田選手もすぐに1枚釣り返して、再び2枚差に。斉藤選手も一気にその差を広げることは出来ず、しばらくカラツンが続く。1~2枚差で斉藤選手がリードした状態で、中盤を過ぎる。

試合が動いたのは、12時7分。
時田選手が連続ヒットを決めて18枚とし、ついに均衡を破って斎藤に追いつく。
そしてさらに1枚を追加して差を付けるも、即座に斉藤選手が釣り返し、同枚数。

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冷静な両者の釣り姿。時田選手が釣っても、斉藤選手は眉ひとつ動かさない

即座に釣り返す斉藤選手

ここからがまた、一進一退。
斉藤、時田両選手はほぼ同時に1枚ずつカウントを重ねていき、まったくの互角の勝負は終盤までもつれ込むのだ。

この時の二人の心理状態というのは、いったいいかなるものなのだろうか。

お互いが自分の釣りに集中し、相手は見えていないのか。
はたまた、思いっきり意識し合い、釣り返そうと思っているのか。

二人にしか分からない絶対領域――――――。
対岸にいる我々は、言葉も発することも出来ずに、ただその勝負に釘付けになるだけだった。

終了まであと7分と迫った12時23分、ついに試合が動く。
満を持してバラケを締めた時田が、連続ヒットを決めて22枚とする。

2枚差…。

ハリスを換え、斉藤選手が1枚釣り返して21枚とし、1枚差。

そして最後、両者ともに止まる――――――。

12時30分、試合終了。
その瞬間、会場全体から「フーーーッ」というため息ともどよめきとも取れない声が漏れた。

斉藤選手21枚、時田選手22枚。

果たして――――――?

ギャラリーが見守る中、慎重な上に慎重を期した検量が行われる。

斉藤心也選手  21枚 12.00kg
時田光章選手  22枚 12.70kg
その差、700gジャスト。

チャンプ同士の静かなる超接戦を制したのは、山形が生んだ若き怪物トーナメンター、時田光章選手だった!

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検量終了の瞬間、思わずガッツポーズを繰り出す時田選手

斉藤選手の釣り姿

「チョウチンは試釣の時から好感触はあったんですが、打ち始めが簡単にポンポンと釣れて、だんだん難しくなってボケてくる…というはっきりとした傾向がありました。それが決勝戦まで続いた感じです。抜き系のチョウチンで、打ち始めは比較的簡単にアタって釣れるのですが、だんだんエサ慣れしたへらが寄ってくると、カラツンだらけになります。そこからはバラケのタッチやハリスの長さをわざとちょこちょこ換えたりして、換え際に1枚釣る…という感じでした。今試合が終わってみると、他に何かやりようもあったような気がしますが、釣り的にも勝負の駆け引き的にも、時田君の方が1枚上手でした。完敗です」

試合後、全てを出し切った斉藤選手は爽やかに自らの釣りを振り返り、若きチャンプを祝福したのである。

【4年分の成長の証明。我慢に我慢を重ね、最後に勝機をものした時田光章の戦略】

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時田選手の釣り姿

「ラスト30分のどこかで何か起きればと思って狙ってはいましたが、全体的にはとにかく我慢の釣りでした」

4年前、マスターズであの浜田優選手や茂木昇一選手を超攻撃的な釣りで破って華々しくシーンに躍り出た「山形の怪童」は、ひとまわりもふたまわりも大きく成長した青年となって、再び栄光の座をつかみとった。
しかし、4年前とはその勝ち方があまりにも対照的であった。いかにも若者らしい弾けるような超攻撃型の速攻がまぶしかった4年前に比べて、今年の時田選手は(まだ若いが)、まるで油の乗り切ったベテラントーナメンターのような冷静沈着な釣りが目立った。

特に決勝戦では、斉藤心也選手との文字どおりの互角の戦いを冷静に進め、最後の最後でラッシュを繰り出して鼻差で勝つ――――――という、そう、まるで浜田優選手のような渋い勝ち方をやってのけたのである。

ではいったい、時田選手はどのような戦略でメーターセットを組み立て、実践したのだろうか。

「釣り方の基本形は、いわゆる冬っぽい『抜き系』で、バラケの重さがトップの1目盛にかかるかかからないか…という釣りです。そこで下バリのクワセがいい感じでアオられて、スパッとアタる感じですね。今年はあまり試釣が出来なかったので、関東の友人や先輩方に情報をもらって釣りをイメージしてきました。そういう意味では、みなさんに本当に感謝です」

試釣は金曜日の1日のみ。そして、その試釣と本番の予選リーグを通じて、時田選手はある傾向をつかんでいたという。

「竿の長さですね。7尺や8尺より、ちょい長めの9尺の方が圧倒的にいい魚が濃くて、型もいいんですよ。決勝戦だけは桟橋に2人だけになるということで8尺にしたのですが、今考えればこれは失敗だったかもしれません…と思えるほどに、9尺が良かったんですよね」

わずか1尺の違いで相手にするへらの質や量が明らかに違う…。そんなことを冷静に見抜いていたほど、今大会の時田選手は終始、冷静沈着だった。

「経験…というにはまだまだですが、1回目の優勝時よりは、いろいろ周りが見えていたのは事実かもしれません」

釣り方も、まさに「手練れ」の雰囲気だった。

「抜き系」をベースとしながらも、ゼロナジミでガンガン打ちまくる…のではなく、わずかにバラケの荷をかけることで、タナの安定もキープ。渋いながらもハシャぎたがるへらを絶妙にいなし、他の選手より明らかに多くの食いアタリをもらっていた。
また、「手練れ」と言えば、決勝戦の最後の最後で連チャンを決めて優勝を確定させた、あの場面であろう。

「決勝戦はやはり準決勝以上にへらのハシャギが強くて、かといってバラケを締めてナジませる釣りにスイッチすると、すぐに1枚2枚釣れたも、その後、一気に静かになっちゃう…という非常に難しい状態。斉藤選手も同じく苦しいはずだと思い、とにかく我慢しながらバラケの持たせ方を微妙に変えながら拾っていくことを心がけていました。そしてラスト7分の場面、もうこれで釣れなくなってもいいと思い、初めてバラケを練ったんです。そこで狙いどおり2枚拾えたのは、本当にラッキーでした」

我慢に我慢を重ね、最後の最後で勝負に出る。

繰り返すが、とても若者らしくない(苦笑)、勝負師の横顔…。
しかしそんな戦略こそ、実は4年分の時田選手の「成長」だったのかもしれない。
「三和新池(前回優勝)の時の方が生きた心地がしましたよ。チョウチンは型がいいイメージもありましたし、今回はもう検量が終わるまで負けたと思っていましたから。あの最後の連チャンで『これで勝った!』なんて思う余裕は、これっぽっちもありませんでした。釣りにタラレバはご法度ですが、竿は準決勝までの9尺のままでいいへらを相手にし、ウキをもう少し大きくして釣った方が釣れたかもしれませんよね。まだまだ釣りが甘いと痛感させられる大会でもありました」

インタビューの最後、今大会を象徴するような冷静な表情でそう言い切った時田選手。
山形が生んだ「怪童」は、今回のマスターズ勝利を経てまた一段、本物の「怪物」への進化の階段を登ったようだ。

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表彰式。グローブライド株式会社 藤掛進大会委員長の挨拶

笠間観光協会小沢氏より挨拶

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岡崎一誠競技委員長より挨拶

参加賞は「かさま焼き芋」が友部湯崎湖茅根社長より手渡された

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時田選手に優勝カップが手渡される

上位選手表彰台

【優勝:時田光章選手 メーターウドンセット】

竿 「枯法師」8尺(決勝) 準決勝までは「龍聖」9尺
道糸 0.7号
ハリス 上0.4号8cm、下0.3号30cm
ハリ 上「バラサ」6号、下「リグル」3号
ウキ 一志「セットスピリット」細パイプ 4番(マスターズバージョン) ボディ5cm エサ落ちは全7目盛中、4目盛出し
バラケ 「粒戦」200cc+「粒戦 細粒」50cc+「とろスイミー」 50cc+水300ccをしばらく放置後、「サナギパワー」 100cc+「バラケマッハ」100cc+「セット専用バラケ」100ccを手水と「軽麩」で微調整。
クワセ 「感嘆1袋にさなぎ粉20ccをあらかじめ混ぜておいたもの」10cc+コーラ10cc

【準優勝:斉藤心也選手 チョウチンウドンセット】

竿 「龍聖」7尺
道糸 0.8号
ハリス 上0.5号8cm、下0.3号35~40cm
ハリ 上「極ヤラズ」7号、下「食わせヒネリ」3号
ウキ 仁成作「ウォータースカッシュ」ボディ5cm グラスムクトップ仕様 エサ落ちは全13目盛中、3目盛出し
バラケ 「粒戦」200cc+「粒戦 細粒」100cc+「セットガン」200cc+水300ccをしばらく放置後、「セット専用バラケ」200ccを手水で微調整。
クワセ 「感嘆1袋にさなぎ粉30ccをあらかじめ混ぜておいたもの」10cc+コーラ11cc