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ダイワへらマスターズ


2014ダイワへらマスターズ全国決勝大会 in 三和新池 レポート

優勝6回、準優勝5回、23年連続全国大会出場を誇る絶対王者、浜田 優選手。その牙城を崩すのは、いったい誰か。その一点にファンの興味が集中した、今年のダイワへらマスターズ。しかし、意外な形で「ドラマ」は展開していくこととなる。

「新星」の出現は、いつも唐突だ。絶対王者の神通力がまったく通じないほどの「勢い」。いや、「無垢さ」と言った方がいいか。若い力が初冬三和新池で炸裂する。

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集合写真

予選リーグ

11月15(土)。マスターズ初日。朝の気温は、なんと3℃! 今シーズン一番の冷え込みとなる。空には一点の雲もなく、快晴。二日間、今年のマスターズは抜けるような青空の下での戦いとなった。まるで、新しい力の台頭を歓迎するかのように…。

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夜明け前の三和新池

昨年同様、朝焼けの幻想的な光景の中で白い息を吐きながら淡々と準備を進める24名の戦士達。皆、厳しい地区予選を勝ち抜いてきた者達ばかり。最高の舞台で「ひと暴れしてやろう」というそこはかとない意気を感じる。

24名の選手達は前夜祭での抽選によって4名ずつ、AからEの6ブロックに振り分けられ、各ブロック内で1対1の総当たり戦を三試合行うこととなる。マスターズ伝統の1対1の対戦方式。そして、「勝利こそ最優先」という単純明快にして厳しい順位決定方式により、各ブロックたったの1名のみが準決勝へと駒を進めることが出来る。

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予選A組
予選B組
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予選C組
予選D組
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予選E組
予選F組

さて、戦前の三和新池の状態である。何人かの選手達に話を聞くと、ほぼ全員が「浅ダナ有利。特に朝は釣れる。しだいに釣れなくなっていき、午後はチョウチンでも勝負になる感じ。底系は、今年は厳しい」…というものだった。メーターウドンセット有利。それも、アタリ数が多く新べらも交じるやや長めの竿で…というのが「本命」のようだ。

7時、予選第1試合がスタートする。競技時間は全試合2時間。10時より第二試合、13時30分より第三試合となる前述のとおり、マスターズは全試合1対1のマンツーマンを採用し(準決勝のみ3名1人抜け)、まずは相手に「勝つ」ことが絶対条件だ。全勝(3勝)すれば文句無し。2勝1敗で並んだ場合は直接対決時に勝った方、2勝1負同士が三すくみの場合のみ、釣った総重量の比較で予選通過者を決定する。とにかく「勝ち」が求められるのだ。

東桟橋両面に並んだ選手達。やはり中尺竿でのメーターウドンセットを選択する選手が圧倒的に多い…というより、関東の関 成市選手、鈴木桂太郎選手が段差の底釣り、関西の源 弘次が両ウドンの底釣りである以外は全員がメーターウドンセットとなる。

そして開始直後、いきなり信じられない光景がギャラリーの目を釘付けにする。

ギャラリーから近い桟橋端に並んだAグループ。あの浜田 優選手を圧倒する選手がいた。東北代表、山形の時田光章選手だ。時田選手、浜田選手はともにメーターセットで、時田選手が10尺、浜田選手が11尺。1尺長い浜田選手だが、凄まじい時田選手の釣りに、まさかの沈黙を強いられてしまう。時田選手の釣りは、いわゆる浅ナジミ系の超攻撃型釣法であり、バラケのナジミ幅は限りなくゼロに近く、かつ、早いアタリにガンガンアワせていく釣り方。対照的に浜田選手は絶対王者らしい落ち着いた釣りで、じっくりとバラケをナジませての「様子見」から入ったが、これが完全に裏目に出た。

開始直後から激しいアワセを連発していく時田選手は、スレや空振りも多いものの、そのリズムは浜田選手…いや、他の全選手の三倍以上! そこに「今年の三和新池は朝イチが最高に食いがいい」というコンディションがガッチリとハマる。強烈な「新星登場」だった。浜田選手がようやく1枚目を釣った時、時田選手はすでに7枚をフラシに入れていたのだ!波乱、である。時田選手の勢いはとどまることを知らず、浜田選手に対して6キロ近く離すまさかの圧勝劇。その勢いのまま第二試合、第三試合も圧倒して三連勝。「大本命」浜田選手を破っての準決勝進出を決めるのである。

昨年3位の力を存分に発揮し、早々に勝負を決してしまったのがBグループの柴崎 誠選手だ。10尺メーターウドンセット、「ある程度魚を寄せておかないとダメですね」と語ったその釣りは、時田選手ほど分かりやすい激しさはないものの、知的に寄りの量をコントロールしながらの見事な釣り。三連勝で予選ブロックを突破する。

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波乱。序盤から時田選手が浜田選手を圧倒する!
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昨年に続いて抜群の強さを見せた柴崎 誠選手

柴崎選手同様、早々に準決勝進出を決めたのが、Cグループの茂木昇一選手だ。11尺メーターウドンセット。第一試合で関東A地区予選1位の平松広行選手を破って勢いに乗った茂木選手は、第二試合で強豪、そして同じクラブのライバル古澤修実選手を退け、早々のグループ突破を決定。第三試合は「様子見」の段底で両ウドンの源選手を破る余裕を見せつつ、「明日は段底はないですね」と言い切る盤石ぶり。2度目の頂点に向けて、「大本命」に躍り出た。

Dグループは第二試合から得意のチョウチンに切り替えた関東B予選突破の小寺則之選手の釣りが光り、いぶし銀の鈴木一成選手らを向こうに回して全勝で予選ブロック突破を確定。メーター勢が盤石の釣りを見せる中、ただ一人10尺チョウチンで安定感溢れる釣りを披露。今大会の「台風の目」となるか。

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予選ブロックの注目カード、古澤修実選手vs茂木昇一選手は茂木選手が制す
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得意のチョーチンに切り替えて復活した小寺則之選手

Eグループでは「試釣でいい感触をつかんだ。新べらを交えるというより、へらの活性自体が高い感じ」という15尺メーターウドンセットの上杉 拓選手が良型を連発していく。今年は各メジャートーナメント全国大会で暴れ回っている上杉選手。マスターズでもその強さを発揮し、やはり強豪・高橋五郎選手らを危なげなく退け、嬉しい準決勝進出を決める。

そして予選ブロックで最も見応えのある戦いとなったのが、Fグループだ。なんといっても注目は浜田選手と双璧をなる次世代カリスマの筆頭、天笠 充選手。昨年は決勝戦で浜田選手に敗れて連覇を阻まれているだけに、今年に賭ける想いはひとしお。

しかし、そんな天笠選手の出鼻をくじいたのが斉藤心也選手だ。初戦でメーターセットの名手・山村慎一選手に敗れた斉藤選手だったが、続く第二試合では、天笠選手との真っ向勝負を制して復調。そして第三試合では得意のチョーチンに切り替えていた板平寛光選手に合わせるかのように、竿の長さまで揃えた9尺チョウチンウドンセットで快勝。天笠選手と2勝1敗で並んだものの、直接対決で勝利していたために予選突破を決めるのである。敗れた天笠選手は「斉藤君との対戦が全て。気負い過ぎて、竿が長過ぎました。完敗です」と、浜田選手同様、まさかの予選ブロックでその姿を消すこととなった。

予選ブロックを通過したのは、時田光章選手、柴崎 誠選手、茂木昇一選手、小寺則之選手、上杉 拓選手、斉藤心也選手。浜田選手や天笠選手の名前がないことに一抹の寂しさを感じるものの、勢いのある若い選手達が顔を揃え、世代交代を色濃く感じさせるメンバーとなった。

初日夜にホテルにて行われた中夜祭における抽選にて、準決勝はAグループが小寺、茂木、柴崎選手、Bグループが斉藤、時田、上杉選手、という組み合わせとなる。各組1名のみが栄光の決勝戦に進出することとなる。

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いつもの短竿に戻してリズムをつかんだ天笠選手だったが…
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準決勝A
準決勝B
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テーブル1:マスターズのもう一つの魅力が全国の名手同士の交流。2日目には皆打ち解けて釣り談義に花が咲く。
テーブル2
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テーブル3

準決勝&シード権獲得戦

明けて11月16日(日)、この日も朝から快晴。真冬を思わせる冷たい空気が三和新池を包む。

準決勝は敗れた選手達全員による(浜田選手は規定により既にシード権を保持しているために欠場)翌年度地区大会決定戦シード権獲得戦と同時に、7時30分にスタート。準決勝の6名の選手は東桟橋岸向きに、手前寄りAグループ小寺、茂木、柴崎、Bグループ斉藤、時田、上杉…の順に並ぶ。小寺選手が10尺チョウチンウドンセットである以外は、全員がメーターセット。茂木、柴崎、時田選手が10尺。斉藤選手が11尺。上杉選手が15尺、という竿の長さだ。

ファーストヒットはやはりこの男、前日の勢いを駆るBグループの時田光章選手だ。やはり特徴的な浅ナジミの攻撃的な打ち返しから、アタリ出しの早さは圧倒的。序盤からアタリ数で圧倒し、突き進んでいく。「若い釣り」だが、三和新池の朝の高活性が、時田選手のややもすると荒れ気味になりがちな釣りをギリギリのところで支えているようにも映る。運も味方している。

しかし、やはりへらマスターズ準決勝。そう簡単に時田選手の独走は許されなかった。沖から良型を引く作戦に出た上杉選手は、間引かれた釣り座が仇となったのか、動きすぎるウキとカラツンでリズムにのれない。その一方で、斉藤心也選手が時田選手とは対照的に不気味な静けさで淡々とカウントを重ねていた。

斉藤選手の釣りは、同じメーターセットでも、時田選手のそれとはまさに「正反対」。いわゆる「抜き」の釣りを不得手とする斉藤選手は、小さなバラケをしっかりとナジませ、長い下ハリスをゆっくりと落としながらじっくりと待つ得意の釣りに活路を見出していた。斉藤選手が1投する間に時田選手が3投…いや、4投以上も打ち返している超スローリズムの釣りであるが、そのヒット率はまさに驚異的なもの。ほぼ毎投に魚が付いてくる感じで、これには時田選手も思わず苦笑いする場面もたびたび見られた。しかも遠巻きの魚を狙っているために、型もいいのだ。

見た目では時田選手が圧倒しているように見えるのだが、重量では見た目ほどの差はなく、斉藤選手がピタリと背後を追走。上杉選手も終盤にかけて良型を釣り込み、勝負は検量までもつれた。時田選手11.05kg、斉藤選手8.80kg、上杉選手7.35kg――――――。それぞれスタイルの異なる三者によるメーターセット対決に、会場は大いに沸いた。

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序盤から釣りまくる時田選手
超高ヒット率の斉藤選手が時田選手に迫る
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長竿で活性の高いへらを拾っていった上杉 拓選手

Aグループでは、茂木選手と柴崎選手が最後の最後まで激しい鍔迫り合いを演じていた。チョウチンウドンセットで勝負に挑んだ小寺選手だったが、やはり今年の三和新池の朝は完全にメーター地合。力なく動くウキに為す術なく、茂木、柴崎両選手の快走を許してしまった。まったく同じ10尺メーターセット。並んで釣りまくる茂木、柴崎の両選手による対決も、マスターズ準決勝に相応しい高レベルの頭脳戦となっていた。茂木選手は浅いナジミで釣る場面もあるものの、基本的にはトップを深めにナジませての安定感重視の釣り。その折り合いが絶妙で、「さすが」の釣りを展開し、穴が空くことなく釣り進んでいく。また、意識的にバラケを食わせているような場面もあり、そのへらがまた、デカい。

対する柴崎選手も、見た目の派手さはまったくないのだが、前日の予選ブロック同様、尻上がりにペースを上げていく安定感重視のメーターセットだ。大きめのバラケで絶対量を確保しておきながら、要所ではガツンと釣り込んでいく抜群の上手さで茂木選手に一歩も引けを取らない釣りを展開していく。慎重の検量の結果、茂木選手9.50kg、柴崎選手8.20kg、小寺選手5.40kg――――――。僅か700gの差で茂木選手が逃げ切り、久しぶりの決勝戦への切符を手にした。

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攻撃的かつ安定感のあるバランスのいい釣りを披露した茂木昇一選手
得意のチョーチンに賭けた小寺選手だったが、やはり朝はメーター地合だった
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最後の最後まで茂木選手を苦しめた柴崎選手

惜しくも準決勝で次点で敗退した斉藤選手、柴崎選手には、翌年度全国大会のシード権が。また各組3位の上杉選手、小寺選手には、翌年度地区大会シード権が与えられた。

同時開催された「シード権獲得戦」では、結城勝彦選手が8.60kgで1位。以下、板平寛光、鈴木桂太郎、岡田健司の上位4名の各選手が、前年度王者の浜田 優選手とともに翌年度地区大会シード権を獲得。1勝すれば再び全国大会に戻ってこられる権利を得た。

決勝戦は「驚異の新星」時田光章選手vs「捲土重来」茂木昇一選手の対決。

釣り方は同じ、メーターウドンセット。茂木選手が「まるで若い頃の自分を見ているような釣り」と語ったように、ともに攻撃的なスタイルをベースとする両者の対決。純粋無垢に早いアタリを追いかける時田選手と、数々の経験を積んで「守り」も取り入れたテクニシャンへと変貌している茂木選手。この両者の対決に、会場のボルテージは最高潮まで高まっていた。

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シード権争奪戦:一方ではすでに来年に向かっての戦いが始まっている。

決勝戦 ~両者一歩も譲らず。しかし、意外な結末が待っていた…~

10時30分、いよいよ今年のマスターズ覇者を決める決勝戦が始まろうとしていた。運営スタッフ、報道、一般ギャラリー、そして惜しくも敗れた全ての選手達が観戦桟橋に集まり、対面に並んだ二人の選手に視線を注ぐ。向かって右が時田選手、左が茂木選手。試合直前、岡崎一誠氏のインタビューの後、固い握手を交わし、黙して自分の釣り座に着く。

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決勝戦開始前の握手

若い時田選手の超攻撃的釣法が決勝でも炸裂するのか。はたまた、2008年マスターズチャンプの茂木選手が、阻止するのか。ここまで数々の波乱が巻き起こってきた今年のマスターズ。果たして、今年の覇者はどっちだ――――――?

快晴無風の下、2時間の決勝戦がスタートする。

時田選手は「枯法師」10尺、メーターウドンセット。

茂木選手も同じく「枯法師」10尺、メーターウドンセット。

図らずもまったく同じ釣り方での真っ向勝負だ。

時田選手が、僅か5投目でアワせる。エサの打ち返しが茂木選手より一歩速い。一方の茂木選手は、最初は時田選手に走られるのを覚悟の上で、じっくりと深ナジミ。桟橋に二人という状況は、必ず「寄り過ぎ」の状態を招くことを知っている。だからこそのスロースタートなのだ。

意外にもファーストヒットは茂木選手だった。10時41分、沈没気味までナジんだトップが消え、上バリを食わせて1枚目。さらに次投、ナジんでフフっと返してスパッと落とし、2枚目を連釣する。その5分後に時田選手も1枚目を釣るが、予想どおり、動きすぎるウキに首を傾げ、苦笑いする場面が目立つ。やはり経験値では茂木選手が一枚上手か。

しかし、ここからが時田選手の「凄さ」だった。動きが多すぎるウキに、時田選手はまず下ハリスを5cm詰める対応。しかしこれは外れ、肝心の決めアタリが消える。するとすかさず元の長さに戻し、今度はバラケのサイズを一回り小さくして対応。自分らしい浅いナジミの超攻撃型スタイルを保持しつつ、決勝戦の状態にアジャストしてみせたのだ。大勢の報道やギャラリーが見守る、静まり返る桟橋の上で!若いながら実は着実に「場数」を踏んできている時田選手。予選ブロック第一試合、浜田選手を向こうに回してもまったく動じずに自分の釣りを貫いたのは、実は「勢い」だけではない。全国大会という舞台の緊張感を、すでに経験した上での「落ち着き」だったのである。

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茂木選手の釣り姿
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時田選手も徐々にリズムをつかむ

茂木選手に先行を許したものの、すぐに体勢を立て直した時田選手の釣りが、しだいに火を噴き始める。30分経過後の11時には、4枚対4枚の同点。まったくの互角だ。

そこからはまさに一進一退の攻防。時田選手が特徴的な早いアタリで2、3枚と連続で釣れば、茂木選手が冷静に大型を釣り返す…と、両者全く譲らないまま時間は流れた。

そして開始から1時間30分、残り30分となった12時1分、「悪夢」の瞬間が訪れた。

12時の時点で、茂木選手13枚、時田選手15枚。しかしその時、時田選手はハシャぐへらに手こずり、カウントが止っていた。対する茂木選手は、「耐え」の時間を経て、「攻撃」の時間を迎えようとしていた。フワリとウケた後、深くナジんでいったトップが一拍あって豪快に水中に突き刺さる。明らかに時田選手を上回るへらがタモに収まる。その時記者は、正面ではなく桟橋横でその様子を見つめていた。連続して茂木選手のウキに理想的なアタリ。

「ちょっと力が入った!?」

記者がそう感じたその刹那、それまでより大きなアワセの音を響かせ、茂木選手の仕掛けが宙を舞った…。

痛恨のラインブレイク!

最も良くなっていた時間、茂木選手本人も「ここが勝負どころ」と読んだのだろう。終始攻めまくる時田選手に対し、茂木選手は深く入れて堪える「守りの時間」と、ナジミは入れつつも早いアタリを果敢に取っていく「攻めの時間」を織り交ぜていく釣り。そして、この日最高の「攻めの時間」に突入した直後、悲劇は起こってしまったのだ――――――。

茂木選手はすぐにスペアの「聖」9尺を用意するが、8分間のロス。

その間、時田選手は4枚を釣り込み、一気に突き放す――――――!

勝負あった。

やはり一度途絶えてしまったリズムを呼び戻すのは、茂木選手といえどもそう簡単ではないのだろう。なかなか再開1枚目を獲れない茂木選手を横に、時田選手は自分の釣りに集中。最後の最後で再び「山場」を作り上げ、連続ヒットで締めくくる。

12時30分、競技終了。

茂木選手16枚9.00kg。時田選手23枚11.75kg。

「新星」時田光章選手、驚きの超攻撃型スタイルを貫き通し、マスターズ新チャンピオンに!

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茂木選手、痛恨のラインブレイク!
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表彰式風景
恒例の胴上げ

時田光章の超攻撃型メーターウドンセット。穴が空くのは覚悟の上で、貫く

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時田選手

これほど爽快かつ攻撃的な釣りは、久しぶりに見た。

昨今の大型化した管理釣り場、しかもトーナメントというハイプレッシャーのかかる舞台では、どちらかといえば拾い釣り系のメーターウドンセットが主流である。浅いナジミの攻撃的なセットは、見た目は派手でカッコいいが、釣れ続かないのだ。

そんな空気に風穴をあけるよう、そんな「新星」時田光章選手の釣りだった。大袈裟かもしれないが、今大会の時田選手の釣りは、どこか閉塞感が漂い始めていたメーターウドンセットという釣り方に、改めて新しい可能性を感じさせるものであったと思う。

「実は仕事の都合でまったく試釣が出来なかったんです。なので、まったくのぶっつけ本番。普段、地元の釣り場や関東に遠征した時に練習している、自分が一番得意な釣り方で勝負しました」

山形から飛び出した新マスターズチャンピオンは、朴訥とした表情で、試合後のインタビューに丁寧に応じてくれた。

「エサ落ち目盛はクワセを付けて3目盛出しで、いわゆる『抜き』の釣りです。バラケのナジミは、かかっても1目盛くらいで、すぐに抜けるような感じです。とにかく魚にサワらせながら抜いて、リズムよく打ち返していくことを心掛けました。狙ったアタリは、クワセエサが落ちていく途中の、下ハリスが張り切るまでの早いアタリです。こういう釣りなので、当然、穴が空くのは覚悟の上でした。でも、試釣が出来なかったことが良かったのか、よけいなことを考えずに思いっきりいけました。初戦が浜田さんだったのも、逆に良かったと思います。負けて当然。もう思いっきりいくだけですから(笑)」

初戦の浜田戦で勝利し、全ての迷いを払拭した時田選手。決勝戦では、同じスタイルでありながらも、いまや「ベテラン」と称してもいいほどに成長している試合巧者、茂木昇一選手。気負いや不安はなかったのだろうか。

「茂木選手の方が明らかに強い釣りをやっていましたし、型も明らかにいいので、ヤバいなと思っていました(笑)。決勝戦は桟橋に二人ということで、魚も尋常じゃないくらい寄って、出足は正直、戸惑いました。自分の釣りは寄り始めのスタートダッシュは美味しい部分なんですが、逆に茂木選手に先行されて焦りました。でもそこでうまく気持ちを切り替えることが出来て、よかったです。まずはハリスを詰めてみたんですがよくなかったので、すぐに戻して、バラケに注目。サイズを一回り小さくして、寄り過ぎないように注意しました。…といっても、自分の釣りは寄り過ぎなくらいな方が成立するので、あまり慎重になりすぎないように、ここぞというところはそれまで同様、思いっきり攻めました」

茂木選手がラントラブルに見舞われた終盤、時田選手は何を感じていたのだろうか。

「茂木選手がトラブったのはもちろん見えましたが、自分の釣りに集中出来ていました。ちょうどその頃、新べらが回ってきたんですよね。おそらく茂木選手もそれは感じていたと思います。僕の方も、予選で決まった釣りの、早いタイミングのいいアタリが出始めていたんです。ここだと思い、またバラケのサイズをアップして豪快に攻めました」

そこで時田が釣った4枚が勝敗を決したわけだ。なんという「冷静さ」だろう!やはりここはマスターズの舞台。猪突猛進、ただやみくもに攻撃的なだけで頂点へと駆け上がれるほど、甘くはないのだ。もちろん、それを知っているからこそ、茂木選手はこう言って勝者を讃えた。

「時田君の釣りは本当に素晴らしかった。僕が若い頃より何倍も上手いですよ(笑)。それに、あの終盤の地合を逃さなかった冷静さというか、勝負勘も素晴らしい。たぶん、僕がライントラブルに見舞われていなかったとしても負けていたと思います」

まさに、素晴らしい戦いだった。あの茂木昇一を実力で破った、山形県南陽市から飛び出した新チャンピオン、時田光章。

柴崎 誠、斉藤心也ら、次世代のマスターズを彩るであろう若い力も確実に台頭。時代は確実に、次のステージへ――――――。

しかし、茂木選手はもちろん、浜田選手や天笠選手らも、黙ってはいないだろう。今からもう、来年のマスターズが楽しみで仕方がない。

時田光章選手 データ

竿ダイワ「枯法師」10尺
道糸0.8号
ハリス上0.5号 下0.4号 6-35cm
ハリ上5号 下3号
ウキボディ5cm
バラケ「粒戦」100cc+「とろスイミー」50cc+「セットガン」100cc+水200cc+「GTS」200cc+「セット専用バラケ」200cc
クワセ「さなぎ感嘆(感嘆1袋に対してさなぎ粉25ccを混ぜたものを水と1対1で)」、「力玉 大粒さなぎ粉漬け」
バラケは手水を入れてヤワに。ほぼ「抜き」の釣りで、魚にサワらせながら早めに抜いて、早いアタリをガンガン取っていった。攻撃的な釣りではあるが、何枚か釣ると穴が空く時間も。でも、それは覚悟の上で攻めの姿勢を貫いた。試釣が出来なかったことと、いきなり浜田さんに当たったことで、気持ちの面でも吹っ切れて、冷静に普段の釣りができたのがよかったと思う。大きな大会での優勝はとても嬉しいんですけど、まだ全然実感が沸かず、自分が優勝したなんで夢のようです。地元は山形県南陽市というところで、自然豊かなの場所で野釣りも大好き。これからも、今までどおりへら鮒釣りを楽しんでいきたいです。

茂木昇一選手 データ

竿ダイワ「枯法師」10尺
道糸ダイワ「スペクトロンへらXP」0.8号
ハリスダイワ「スペクトロンへらXP」上0.5号 下0.4号 8-30cm
ハリ上ダイワ「D-MAX Pマルチ」5号 下ダイワ「D-MAX クワセ」3号
ウキパイプトップ7.5cm ボディ6cm カーボン足7cm
バラケ「ペレ匠顆粒」0.8+「ペレ匠デカ粒」0.5+「鬼武者」1+「ベース4」1+「ペレ匠ダンゴ」1+水2.5+「鬼武者」1+「速攻かっつけ」1
クワセ「実戦わらび」標準作り、「一撃ライト」にあらかじめ「ねばりの素」1本を混ぜておいたもの2+水0.8
予選の時のヒットパターンは2種類で、(1)「深く入れて、チョンチョンとバラケを抜くような軽いサソイの直後のアタリ」と、(2)「深く入れた状態から早めにバラケが抜けて、アオリの後のアタリ」の両方で釣れた。準決勝は(1)は全カラで、(2)もいまひとつ。そこでワンテンポさらにバラケを持たせるような感じで、抜け際でアタるような感じで釣っていった。決勝戦では、自分は深く入れての釣りなので、最初は絶対に時田君に走られると思っていた。でも時田君も寄り過ぎるへらに手こずっていたので、これなら付いていけると思った。予想以上に寄りが激しくて、かつ下を向いてくれなくて、二日間を通して決勝戦が一番厳しい釣りだった。ライントラブルは完全に自分のミスで、いいアタリについつい力が入ってしまった。以前の釣りならばそこで集中力が完全にキレてしまっていたと思う。スタッフや報道の方々、応援して下さる方々のためにも、最後まで気持ちを切らさず釣りが出来たのは収穫だった。でも、あそこでラインが切れなくても、絶対に時田君が勝っていたと思う。素晴らしい釣りでした。