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ダイワへらマスターズ


~至高の戦い~

ダイワへらマスターズ2013全国決勝大会レポート

優勝5回、準優勝5回、22年連続全国大会出場という恐るべき実績を誇る浜田 優選手は言う。

「ここに来て、若い人達の活躍を見られるだけで幸せなんです」

そんな大ベテラン浜田選手も、ひとたび竿を握れば鬼神と化す。

決して「手を抜く」のではない。

その逆。

王者は若い力の台頭を全力で受け止め、自身もさらなる高みへと上り詰めんとする。

「若い力」の代表格は、天笠 充選手だ。

優勝3回、準優勝2回、12年連続全国大会出場…。

まさに浜田 優選手の後継者たるに十分な実力と実績を残してきた若武者は、今年、その浜田選手でさえ為し得ていない三連覇という偉業に大手をかける。

至高の戦い――――――。

絶対王者と若き後継者が、再び、相見える。

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集合写真

予選リーグ

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朝の気温は3℃。夜明けと同時に選手達が東桟橋へと入場していく
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ピンと張りつめた冷たい空気の中、粛々と準備を進める選手達

11月16日(土)。夜明けのフィールドは、冬らしい冷気に包まれていた。

湖面からは水蒸気が立ちのぼり、どこか幻想的な光景の中、選手達は東桟橋で粛々と準備を進めていた。

昨年に続いて全国決勝大会の舞台となった茨城県「三和新池」。

天笠選手のメーターウドンセット、そして浜田選手の重厚な段差の底釣りの対決となった決勝戦もまだ記憶に新しいところだが、状況的には昨年と比べて若干の違いがあるようだった。すなわち、メーターでは昨年よりアタリ数が少なく、竿は長め…というのが大半の選手達の印象。事実、ほとんどの選手が11尺以上の中尺を用意している。また、チョーチンでも竿は長め(深め)が圧倒的に良いという。

そして「段底」である。

昨年同様「釣れる」のだが、型が昨年ほどではなく、しかも、地合が長続きしないという。へらは底よりやや上に厚く寄る感じで、これを下に向けるにはかなりのテクニックがなければ、相当に「待ち」のリズムでしかアタリをもらえないというのだ。

やや長めの竿のメーターウドンセットが本命か――――――。

そんな印象を持ちつつ、朝もやに煙る選手達を眺めていた。

7時30分、予選第1試合がスタートする。

今年は昨年までの16名から24名へとスケールアップしたへらマスターズ全国決勝大会。前夜の組み合わせ抽選会で4名ずつの6グループに分かれての戦いとなる。もうすでにお馴染みのとおり、マスターズ全国決勝予選は全試合1対1の総当たりによる勝ち点制度を採用し、まずは相手に「勝つ」ことが求められる。

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予選ブロック一回戦試合風景1
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昨年準優勝、「ミスターへらマスターズ」浜田 優選手は、まずはメーターウドンセットで強豪・斉藤心也選手とガップリ四つ。接戦を演じながら、徐々に斉藤選手を引き離していく

東桟橋両面に並んだ選手達。やはり中尺竿でのメーターウドンセットを選択する選手が圧倒的に多い。次にチョウチンウドンセット、そして昨年釣れた、段差の底釣り、という感じだ。

まず目を引くのは、桟橋端に並んだAグループ、浜田 優選手と斉藤心也選手の対決である。迷わず12尺メーターウドンセットの用意を終えた斉藤選手。手練れの浜田選手は段底ではなく、ピタリと同じ釣り方で揃えてきた。おそらく、無理せず実力者の斉藤選手と同じペースを保ち、そして、勝負所で2、3枚先行すれば…という対戦方式ならではの老獪な作戦。そしてそれは、見事に功を奏す。

元来、渋い釣りを得意とする斉藤選手だが、予想以上に遅いウキの動き出しになかなかリズムに乗れない。一方の浜田選手は、余裕をもってカウントを重ねていき、狙い通り斉藤選手を追いつめていく。結果、7.0kg対4.4kgで、浜田選手が圧倒。そしてこの1勝が、早くもAグループの流れを決定付ける1勝となる。

斉藤選手を下して精神的に優位に立った浜田選手は、第2試合以降、16尺段底に変更。水杉良正選手、久保賢二選手を横綱相撲で退け、昨年より難しい段底の急所をじっくりと探りつつ、準決勝進出を決定する。

浜田選手のAグループ同様、早々に勝負が決してしまったのが、Fグループ。11尺メーターウドンセットで対戦相手のみならず会場全体を支配してしまったのが、鈴木一成選手だ。今大会のメーターウドンセットは、勢いだけではどうすることも出来ない老獪なへらの「さばき」が要求されていたのだが、まさにそれは、鈴木選手の真骨頂。セッティング、バラケ、リズム、微調整…と、トータルで完璧に噛み合った釣りを展開し、まったく他を寄せ付けず。文句無し圧勝の3勝で勝負を決めた。

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序盤から圧倒的な強さを見せるメーターウドンセットの鈴木一也選手
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三連覇を目指す天笠 充選手は、得意のメーターウドンセット。まさかの長竿、「飛燕峰 烈火S」15尺で勝負に出た

そして昨年、一昨年覇者、Dグループの天笠 充選手も、盤石。

しかし、ギャラリーを驚かせたのが、天笠選手が振っている長めの赤い竿。なんと短竿がトレードマークの天笠選手は、「飛燕峰 烈火S」15尺を選択し、沖目から次々とへらを引き抜いていたのである。気温が上がり、活性も高まった崔選手との第2試合では11尺を振るも、「この試合での苦戦がターニングポイントになりました。やっぱり今回は釣り人が並んでいる状況では短い竿はダメだな」と、そして3試合目、準決勝では再び深紅の15尺に戻して圧倒することになる…。

Eグループでは、再び全国大会に舞い戻ってきた関西の工藤敏太郎選手が、第1試合でのメーターウドンセットでの辛勝を受けて、第2試合はチョウチンウドンセットからメーターウドンセットにスイッチして逆転、第3試合は「DAIWA HERA F」16尺による段底に変更。臨機応変な技を見せ、正解を模索しながらも勝利をもぎとり、念願の準決勝進出を決める。

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1回戦、メーターウドンセットで苦しんだ工藤選手は、段底に切り替えて復活。豪快な釣りで会場を湧かせる
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マスターズでは公平性を重んじ、第三者機関である日本へら鮒釣研究会のスタッフが競技中の審査及び電子秤を使用して慎重な検量を行う

混戦となったのはB、Cグループ。

Bグループでは、第1、第2、そして第3試合中盤まで圧倒的な釣りで突き進んだ段底の茂木昇一選手が「もはや決まりか」というムードを作るが、メーターウドンセットの新星・柴崎 誠選手が猛然とラッシュ。対照的に茂木選手が後半まさかの大ブレーキとなってしまい、結果、柴崎選手が逆転勝利。勝ち点では茂木選手とは2勝1敗で並んだが、直接対決で柴崎選手が勝利したことにより、勝ち上がりを決める。優勝経験もある茂木選手の予選敗退は「番狂わせ」と言っていいだろう。毎年、必ず新しい力が現れるマスターズなのである。

Cグループも最後の最後までもつれるが、第3試合では松下 隆選手がメーターウドンセットで上杉 拓選手に競り勝って予選突破を決定。松下選手は第1試合で速水龍次選手に敗退しており、そこから立て直しての準決勝進出。勝負は最後の最後まで分からないのである。

激しい予選リーグの結果、Aグループが浜田 優選手(段底)、Bグループが柴崎 誠選手(メーターウドンセット)、Cグループが松下 隆選手(メーターウドンセット)、Dグループが天笠 充選手(メーターウドンセット)、Eグループが工藤敏太郎選手(段底)、Fグループが鈴木一成選手(メーターウドンセット)…という6名が、翌日の準決勝進出を決める。

全体としてはメーターウドンセットが強いように感じるが、釣れているのは一握り。中にはアタリを出すことさえままならずに頭を抱える選手もいた。キーワードは「長めの竿」と、不安定な寄りの状態を乗りこなすかのようなきめ細やかなバラケの持たせ具合。へらは一気にウワズる傾向にある、これをどういなしていくかがカギとなっているようだ。

また段底も、大型がガッチリと底で待ち構えていた昨年と違い、とにかく上っ調子。かといって、ウワズリを抑えようとして開かないバラケを持たせて待つ…という戦略では、永遠に待たねばアタリはもらえない。つまり、「底より少しだけ上にいるへらを、下を向かせなければいけない」ということなのである。これをいちはやく見抜いた浜田選手は、意識的に浅いナジミでバラケを抜き、粒子を底に向かって上から降らせることで下を向かせるという高等技術を駆使。一見、余裕を持って釣り進んでいるかのように見える浜田選手も、ウワズリと表裏一体、薄氷を踏むようなへらとのやりとりを行っていたのである。

準決勝&シード権獲得戦

豪華な中夜祭が行われた夜も静かに更け…。

明けて11月17(日)、いよいよ雌雄を決する1日が静かに幕を明ける。

天候は前日と瓜二つ。朝からすっきりち晴れ渡り、まさに「冬の朝」といった趣き。また今回のマスターズは二日間とも珍しいほどの「無風」に恵まれ、選手達は存分に日頃の釣技を発揮出来る条件が揃った。

さて、準決勝である。

中夜祭での組み合わせ抽選の結果、1組が浜田 優、工藤敏太郎、柴崎 誠の各選手。この順に桟橋手前から並ぶ。

2組は、松下 隆、鈴木一成、天笠 充の各選手だ。

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7時30分、朝もやの中、試合スタート。9時30分までの2時間の競技で、3名のうち1名のみが決勝戦に進出することになる。

東桟橋土手向き、観覧席から向かって左から、天笠(「飛燕峰 烈火S」15尺メーターウドンセット)、鈴木(「DAIWA HERA F」12尺メーターウドンセット)、松下(「」11尺メーターウドンセット)、柴崎(「」12尺メーターウドンセット)、工藤(「DAIWA HERA F」16尺段底)、浜田(「龍聖・N」16尺段底)…といった布陣だ。

準決勝ファーストヒットは浜田選手の段底。今大会、これまで比較的手前寄りのエリアのアタリ出しが遅かったのだが、そんなことはものともせず、浜田選手が2枚、3枚と先行していく。遅いアタリに悩む隣の工藤選手を尻目に、ナジミ幅を見事にコントロールしながらはっきりとした食いアタリを連発。大舞台で、しかも段差の底釣りという釣り方でこれをやってのけるのは、並大抵ではない。やはり、強い。

このまま浜田選手の独走か…と思われた中盤、柴崎選手のメーターウドンセットがジワリジワリと上昇してくる。バラケが合ってきたのか、隣二人が段底…という「地の利」も手伝ってか、柴崎選手は次々と良型をヒット。これにはさすがの浜田選手も、時折、竿を絞る柴崎選手の方を見るような仕草を見せる。

終盤にかけて柴崎選手はさらにペースを上げ、見た目ではまったくどちらが上回っているか分からない状況にまで追い上げる。検量の結果、僅か700g差で浜田選手が上回ったものの、検量直後に思わず浜田選手が握手を求めるほど、柴崎選手の後半の追い上げは素晴らしい釣りであった。

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競技終了後、大接戦となった浜田選手と柴崎選手がお互いの健闘を讃え合う
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同じく2組でも、決勝進出を決めた天笠選手に、鈴木選手、松下選手がエールを贈る

2組では、今大会、圧倒的な強さを見せてきた鈴木一成選手、そして混戦の予選リーグを抜け出してきた松下 隆選手を、天笠選手が王者らしくがっちりと受け止める。準決勝でも飛燕峰烈火S15尺を出した天笠選手は、狙い通り、他選手よりアタリ数が多く、かつ、穴が開く時間を最小限に食い止め、コンスタントに沖からへらを引っ張ってくる。終盤はそこに大型新べらも交じり始め、勝負あり。7.6kg、7.05kgの鈴木、松下選手に対して9.85kgと、終わってみれば圧勝で決勝進出を決める。

惜しくも準決勝を次点で敗退した鈴木選手、柴崎選手には、翌年度全国決勝大会のシード権が。また各組3位の工藤選手、松下選手には、翌年度地区大会シード権が与えられた。

また同時に開催された「シード権獲得戦」では、石田浩一、斉藤心也、加藤哲也、大岡弘の上位4名の各選手が、翌年度地区大会シード権を獲得。1勝すれば再び全国大会に戻ってこられる権利を得た。

決勝戦は、昨年と同じく、浜田 優選手と天笠 充選手の戦いとなる。

しかも釣り方も同じ、段差の底釣りvsメーターウドンセット。

果たして、天笠選手が前人未到の三連覇を達成するのか。

はたまた「ミスターへらマスターズ」浜田選手が阻止し、6度目の栄冠を手にするのか。

決勝戦 ~歴史に残る一進一退の攻防~

いよいよ始まる決勝戦。

運営スタッフ、報道、一般ギャラリー、そして「二人」以外の全ての選手達が観戦桟橋に集まり、会場は不気味に静まり返っていた――――――。

東桟橋に揃う二人の顔。釣り方も同じ。昨年の決勝戦が脳裏にフィードバックしてくる。

向かって左が天笠選手、右が浜田選手だ。

試合直前、競技委員長を務めた岡崎一誠氏のインタビューの後、カメラに向かって固い握手を交わし、健闘を誓い合う二人。

自分の釣り座に戻ると笑顔は消え、勝負師の顔に戻る。

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お互いの健闘を誓い、固い握手
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決勝戦、ファーストヒットは浜田選手の段底。大型が水面に浮かび上がる

いざ、雌雄を決する至高の舞台へ――――――。

10時30分、快晴無風の下、2時間の決勝戦がスタートする。

浜田選手は準決勝と同じく「龍聖・N」16尺、段差の底釣り。

そして天笠選手は…竿、「」10尺!

今大会は15尺をメインに戦ってきた天笠選手。完全に間引かれた釣り座を踏まえ、勝負に出た。

ファーストヒットは浜田選手。10時38分。デカい…。思わずギャラリーから溜息が漏れる。

ここまで段底は型にバラツキがあったのだが、決勝戦にして、いよいよ大型新べらが交じり始めたか。

しかし、天笠選手も負けてはいない。

静かな動き出しに「竿を一気に短くし過ぎなのでは?」とギャラリーから心配の声が漏れるが、杞憂に終わる。10時48分、豪快なアタリでバラケを食わせると、ウキは躍動感溢れる動きを披露。むしろ動きすぎるくらいで、おそらく天笠選手の「狙い通り」となる。

10時50分、天笠選手が2枚目を釣る。今度はガッチリと下バリのウドンを食わせる。「よし!」と聞こえてきそうな表情で、大型を取り込む。

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すかさず釣り返す天笠選手。「桟橋に2人のみ、そして相手は段底」ということを考慮し、竿を「」10尺と一気に短くし、勝負に出た
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浜田選手が釣れば、天笠選手が釣り返す。まったく譲らない緊迫した攻防が繰り広げられる

その2分後、すかさず浜田選手が釣り返す。

ここからはまさに、歴史に残る「一進一退の攻防」が繰り広げられた。

やや間を置いて天笠選手が3枚目を釣ると、すかさず浜田選手も3枚目を釣る。なんとこれはガッチリとバラケを食っていて、これには思わず浜田選手も苦笑い。しかしこれも1匹は1匹、運がある。

11時13分、天笠選手が釣る。すかさず浜田選手も掛ける。

続いて天笠選手。直後に浜田選手…。

まったく異なる釣り方で、これほどまでに同じペースになるものなのだろうか。

2年連続の二人の新旧王者の対決に不思議な因縁すら感じつつ、その素晴らしい攻防に酔った。

11時21分、浜田選手が6枚目、7枚目を連続ヒット。ついに天笠選手を1枚リードする。

しかしだ、11時37分、浜田選手が止まっている間に天笠選手が7、8枚目を連続で釣り返し、再び1枚リード。何と言う試合だろうか。

ここからは再び、お互いが交互に釣る打ち合いの様相。

そして12時7分、浜田選手が12、13枚目を連釣し、再び1枚リード。

12時12分、天笠選手が前傾姿勢でタメ、とらえたへらは、キロクラスの大型! 再び13枚で並ぶ。

12時15分、浜田選手が釣る。1枚リード。

12時20分、二人同時にヒット。これで天笠選手14枚、浜田選手15枚。

残りは10分!

ここで明らかに、浜田選手が「釣りにかかる」。

もうウワズリを恐れることはない。壊れてもいい、という甘めのバラケで刺激し、強引なまでに早いアタリを演出。12時24分、とても段底とは思えない早いアタリで大型をヒットさせる。

しかし驚きは天笠選手。

なんとここで同時ヒットを決め、浜田選手のリードを許さない。

天笠選手も浜田選手同様、勝負に出た。

決勝戦、タナを壊さないうよう比較的「大事に」釣ってきた天笠選手も、最後の最後で開くバラケを投入。ウキを激しく動かしながら早いアタリでの勝負に出たのだ。

12時26分、天笠選手のウキがナジんだ直後にスパっと消え、ヒット。ついに浜田選手に追いつく!

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終了2分前、浜田選手が大型を掛けて17枚とし、1枚リードでフィニッシュ。勝負の行方は検量に持ち越された
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優勝は、僅か50g差で浜田 優選手。実に6度目の栄冠となった

そして残り2分前…

静まり返る会場。固唾をのんで最後の攻防を見守るギャラリーの前で竿を大きく曲げたのは、浜田選手だった。

絶対王者の意地と誇りか。

慎重に大型を取り込んだところで天笠選手が空振り。天を仰ぐ。

浜田選手が急いで次を打ち込んだところで、ゲームセット。

浜田選手17枚、天笠選手16枚。

枚数では浜田選手が1枚のリードを守り、勝敗は検量へと持ち越された。

日本へら鮒釣り研究会の手に寄る慎重な検量が行われる。

最初に天笠選手が計り、次に浜田選手のフラシが掛かる。

電子秤の数字が読み上げられた瞬間、溜息とも歓声ともとれぬ音が伝わってきた。

白い歯を見せる浜田選手。

ややうつむき、悔しそうな表情を浮かべながらも浜田選手に笑顔を向ける天笠選手…。

10.20kg対、10.15kg。

至高の対決は、なんと50g差での決着となった。

浜田 優選手、天笠 充選手の三連覇を阻むと同時に、自身6度目のマスターズチャンピオンに――――――。

浜田 優選手を6度目の栄冠に導いた、至高のテクニック

「桟橋に二人という状況を考え、かなり抑えた釣りで入ってしまった。その分、ややアタリ出しが遅かったことと、釣れ始まってからも、無意識のうちに、いつも以上に慎重に行っていた。気にしていないつもりでも、やはり三連覇という文字は重かったですね。もしもそれがなければ、おそらく予選や決勝で15尺を出していないと思います。知らず知らずのうちに、どこかで『守り』に入っていたんですね。そこを浜田さんは見逃してくれなかった。さすがですよ」

試合終了後、天笠選手はそう言って、清々しい笑顔を見せてくれた。

天笠選手が実際に15尺で予選、準決勝を圧勝したのは事実であり、また、決勝戦で思い切って10尺に換えたのもまた、間違いではないはず。本人が言うように、出だしの天笠選手のウキの動きがいつもより大人しいかなとは筆者も感じたが、それとて、結果的にはその後の安定感溢れる地合につながったのかもしれない。そう考えれば、今大会での天笠選手の戦略、そして実践は、まさに三連覇にふさわしいものだったと断言したい。

ただ今回は、浜田選手が強すぎた…いや、「凄すぎた」のだ。

段差の底釣りは、昨年、浜田選手自身が予選第2試合で繰り出し、我々を驚かせた釣りである。

あの時、ゆっくりとしたリズムながらも驚異的なヒット率と型の良さで勝ち上がっていったわけだが、今回の浜田選手の段底は、形は同じでも、その実はまったくの「別物」だったのである。

「試釣で段底は試して、それなりに釣れるなとは思っていたんですが、去年と違って、とにかくへらが下を向かないんですよ。なので、普通に攻めると、最初は簡単に釣れるんですが、すぐに穴が空くんです。へらがウワズる…というより、最初から底より少し上にいる感じで、バラケをブラ下げちゃうと、すぐに下を向かなくなるんです。なので、リスクを承知の上で、いろいろなナジミ幅をチャレンジしていく必要がありました」

段底のセオリーは、バラケをしっかりと深ナジミさせてタナを落ち着かせつつ、ジワリとバラケを抜き、そして、クワセだけになってからの確実な食いアタリのみをアワせる…というものだ。しかし今回の三和新池は、大型新べらが底に居着いていた昨年とは対照的に、旧べら主体のへらが底より少しだけ上に浮いている。かといって、チョウチンウドンセットでは釣りきれない…という状態だったのである。

そこで浜田がとった作戦は、深ナジミを基本にしつつも、要所でアマいバラケを入れ、タナより上から粒子を降らせることでへらに下を向かせる…という、高等テクニックだったのである。結果的に、釣れる時は段底らしからぬ速攻となって見た目は派手だが、実は水面下では綱渡り的な攻防が繰り広げられていたのだ。象徴的だったのが、準決勝。浜田選手と隣の工藤選手は全く同じ段底だったが、比較的セオリー通り攻めていた工藤選手が「待って待って、結局アタリをもらえず…」という場面がしばしば見られたのに対し、浜田選手は比較的速いテンポで、しかも2枚、3枚と連続で絞る場面が目立った。「待って待って、結局アタリをもらえず…」というのは、段底では時に5分以上も浪費することもあり、2時間勝負のマスターズにおいてはそのダメージは計り知れないのである。しかし浜田選手はそういったダメージを受けることなく、昨年とは全く違う非常に難しいアプローチで三和新池の底を攻略していったのだ。

言うは易し…とはこのこと。

一歩間違えばタナは完全に崩壊し、手に負えない状況に陥る危険性をはらむ攻め方をあえて選んだのは、そうでなければ段底では2時間の試合でメーターウドンセットに勝つためのペースを手に入れることが出来なかったからである。

「本当は普通の段底で釣りたかったんですけどね」と言って笑った浜田の言葉を、おそらく真を突いているのである。

「天笠選手の三連覇を阻んでやろう、みたいな気持ちは全くなかったですよ。僕なんかはもう、ここに来られて、選手のみなさんの顔を見られるだけで最高なんです。若い人に頑張ってもらいたいし、僕の会の若い子達も毎年何人か出ているので、ガードマンみたいな心境ですよ(笑)。1回戦では久々に浅ダナで体力を使って疲れまして(苦笑)、2回戦は段底に変えたんですが、何となく感触をつかめたので、ラッキーでした。ただそれだけですよ」

別れ際、天笠選手に「ごめんね(笑)」と言っておどけてみせた浜田選手。

天笠選手のような次世代のトーナメントシーンを飾る「後継者」は、確実に育っている。

しかしまだまだ、「ミスターマスターズ」の牙城を崩すのには、時間が掛かりそうだ。

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恒例の胴上げ

浜田 優選手 データ

竿龍聖16・N」
道糸0.8号
ハリス0.4号 10-60cm
ハリ上6号 下4号
ウキ二枚合わせ底釣りタイプ ボディ17cm
エサバラケ:「ペレ匠デカ粒」60cc+「ペレ匠顆粒」60cc+水120cc+「鬼武者」240cc+「ベース4」120cc+「軽グル」120cc+「底釣りダンゴ」100cc
※試合中の経時変化を防ぐ意味で2時間前に作り、麩のネバリを出し切っておく。現場では手水を打ちながら「華々」で微調整。
クワセ:「実戦わらび」標準作り(コーヒーミルクを少々入れて色付け)

天笠 充選手 データ

竿10」(決勝戦) 「飛燕峰 烈火S15」(予選、準決勝)
道糸0.8号
ハリス上0.5号 下0.4号 8-30cm
ハリ上7号 下4号
ウキボディ5cm
エサバラケ:「ペレ匠デカ粒」1+水2+「鬼武者」2+「若武者」1+「華々」1+「ペレ匠ダンゴ」1
クワセ:即席ウドン