DAIWA 鮎マスターズ2016 全国決勝大会 in 那珂川・箒川レポート
鮎マスターズの第1回大会が開催されたのは1987年のこと。友釣りの釣果を競う大会は以前から存在していたが、使用タックルの制約を最小限に留め、実力が反映されやすい試合形式を採用し、華やかな舞台で真の日本一を決める“トーナメント”はここから始まったといっても過言ではない。
その歴史は、のべ7万人におよぶ参加選手の汗と、地区予選からすでに繰り広げられる幾多の名勝負、一握りの栄光が年輪のように積み重なって形作られてきた。そして2016年、鮎マスターズは30周年のメモリアルイヤーを迎える。
記念すべきこの全国決勝大会に駒を進めたのは、前年度の上位入賞者と、歴代の上位入賞者を集めて昨年おこなわれたマスターズ倶楽部レジェンド大会優勝者、ブロック大会を勝ち上がってきた19名を合わせた計24選手。
今回は30周年記念として、特別に全国決勝大会へ進出できる選手数を8名増やしているが、全体の3分の1近くを占める7選手は過去に栄冠を手にした経験を持つ。まさに節目となる大会にふさわしい豪華な顔ぶれが揃った。
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選手と来賓、関係者やプレスを集めた前夜祭で幕を開けた |
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優勝トロフィーを返還する有岡選手 |
前夜祭で熱く語る村田満競技委員長。昨年に続き優勝者予想を的中させた |
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那珂川本流は濁りと増水が落ち着かず、支流の箒川塩原地区に舞台を移して大会はおこなわれた |
6年ぶり、栃木県那珂川を舞台に決勝はおこなわれる予定であったが、東日本に被害をもたらした台風10号の影響で9月に延期。しかし、その予備日も本流は濁りを伴う増水が収まる気配がなく、支流の箒川塩原地区に急遽変更となった。
ここは山間部の温泉街を流れる美しいフィールド。河川規模は本流におよばないものの、少し水が増えた程度で台風の影響はほとんど受けていない。しかし下見がまともにできた選手はおらず、ある意味、限りなく同一条件での戦いとなった。
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河川状況を考慮すると、今回はマンツーマンでの予選が不可能であり、変則ルールが適用された。まず24選手をA、B2つのグループに分ける。上流と下流に分かれてそれぞれのグループが竿を出し、2時間で上下流を交替。合計4時間の総釣果を競い、それぞれのグループから上位2名ずつ、4選手が準決勝へと進むことになった。
前夜祭におこなわれたグループ分けの抽選により、Aグループには原島裕樹、井上潤一、加藤達士、井上久行、出雲肇、吉田健二、岡崎孝、西部俊希、小池直也、西山順一、佐藤裕司、有岡只祐らの各選手が顔を揃えた(選手名は入川順)。激戦区の中部ブロック、ハイプレッシャー河川が舞台の東日本ブロックの代表選手が多く、それをディフェンディングチャンピオンの有岡選手や昨年準優勝の加藤選手、ベテランで優勝経験者の吉田選手が迎え撃つ。
一方のBグループに集まったのは松森渉、田中豊、三浦宏仁、山本稔、池野昭一、瀬田匡志、鈴木光、岡林慎、福田和彦、楠本慎也、髙橋祐次、上田弘幸らの各選手。4人の歴代チャンピオンが顔を揃えただけでなく、全国決勝大会の常連や各大会で活躍する強豪トーナメンターがひしめきあうグループとなった。
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左から松森渉選手、田中豊選手、三浦宏仁選手、山本稔選手、池野昭一選手、瀬田匡志選手 |
左から鈴木光選手、岡林慎選手、福田和彦選手、楠本慎也選手、高橋祐次選手、上田弘幸選手 |
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村田競技委員長の視線を背に後半を戦う福田選手 |
こちらもスタート直後に抜け出たのは鳥取勢、3度目の優勝を狙う瀬田選手。川の真ん中に立って両岸を攻め、前半に圧倒的な強さを見せて逃げ切った。続くのは地元の声援を一身に受ける福田選手。上田選手と髙橋選手がジワジワと追い上げ、優勝経験者同士の厳しい競り合いが続き前半を折り返す。
そして後半、抜け出たのは今シーズン絶好調の上田選手。それを象徴するかのような出来事があった。村田満競技委員長が伸び悩む福田選手を見守る中、対岸上流に入り3連発。競技終盤の鮮やかな手際、刀を一閃したかの如くであった。
結果は瀬田選手22尾、上田選手19尾で準決勝進出を決めた。先行逃げ切りの瀬田選手、そして後半に追い上げた上田選手。勝ちパターンの異なる2人が、準決勝ではどのような戦いを見せるのだろうか。
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恒例の準決勝組み合わせ抽選は野外でおこなわれた |
異例の形となった大会初日での準決勝。本部横でおこなわれた恒例の準決勝組み合わせ抽選で、原島選手と吉田選手、瀬田選手と上田選手の対戦が決まった。本部を設けた河川公園前の堰堤から下流にあるマス釣り場木橋までの間を区切り、上流側で原島選手対吉田選手、下流側で瀬田選手対上田選手の試合がおこなわれた。
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上流側に原島選手、下流側に吉田選手が入る。最初の1尾を先行したのは吉田選手。原島選手はなかなかオトリが変わらない。しかし吉田選手も予選の爆発力は陰をひそめていた。試合が急に動いたのは原島選手が1尾目を仕留めた直後だった。オトリが変わると怒濤の入れ掛かりで一気に引き離し、前半を終える。
泳がせなら吉田選手も得意なはず。しかし、水中糸を複合メタルのメタコンポIIIに張り替えて挑んだのがオトリの泳ぎに微妙な差をもたらして裏目に出たのか、後半の目覚ましい追い上げが見られることはなかった。
終わってみれば20尾対9尾。原島選手の完勝であった。前半に堰堤上の右岸分流、極浅のチャラ瀬に狙いを定め、群れアユを完璧に崩した。これが勝利の決め手となった。
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ベテランならではの技の冴えを見せた吉田選手 |
分流で怒濤の入れ掛かりを演じ、決勝へ進んだ原島選手 |
上流側に瀬田選手、下流側に上田選手の布陣。瀬田選手のポイントは、予選で自らが入れ掛かりさせた、まさにその場所。もうひとりの自分とも戦うはめになった瀬田選手を尻目に、徐々に上田選手は差を広げ前半を折り返す。
後半もコンスタントに掛け続ける上田選手に対して、瀬田選手も攻撃の手は緩めない。木が多いかぶさるポイントや、誰もオトリを入れていないであろう段々瀬のスポットにオモリを使ってねじ込み、ギャラリーが見守る中で引き抜いていたが、上田選手との差を縮めることはできなかった。結果は10尾対16尾で、上田選手が決勝戦に駒を進めた。
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瀬田選手は気合い溢れる魂の釣りでギャラリーを沸かせた |
福田選手の目前で入れ掛かりを演じる上田選手。そして決勝へ |
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試合前にがっちり握手をかわす上田選手と原島選手 |
ジャンケンに勝ったのは上田選手 |
決勝戦は最終日の午前10時。悪天候が予想されたが、ときおり晴れ間も見える曇り空に落ち着いた。水位も若干落ちて条件的には悪くない。エリアは前日に準決勝Aの試合がおこなわれた場所と同じ。ジャンケンに勝った上田選手が上流、下流に原島選手が入り、試合開始のホーンが鳴った。
2人とも立ち位置はそれぞれのエリア下限。原島選手は右岸、上田選手はセンターのすぐ上流にある堰堤を横切り左岸に陣取っている。
先制したのは上田選手。堰堤の落ち込みから少し下流、センターまでの短い区間にいい石が敷き詰められている。2尾、3尾、4尾…あまりにも順調に数を伸ばしていく。
原島選手はオトリが変わらない。そこは前日に福田選手が数を伸ばしたポイントでもあった。オトリが変われば再び爆発的な入れ掛かりの再演が見られるかもしれない。
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以前とは異なり、上田選手は竿を寝かせて構える姿が多く見られた |
原島選手はオトリが替わらず苦しい時間帯が続く |
後半、準決勝で入れ掛かりを演じた分流へ。しかし… |
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ギャラリーとプレスが見守る中で検量が始まる |
しかし、原島選手は攻めあぐねていた。エリアの中程に移動して何とか3尾掛けて前半終了。中夜祭での宣言通り浅場にこだわったが、それは流心付近のポイントを手付かずのまま上田選手に明け渡すことを意味していた。そして後半、まさに前日入れ掛かりさせた分流に入った。いや、入らざるを得ないような状況に原島選手は追い込まれていたのだった…。
対する上田選手はスタートダッシュを決めたセンターから釣り下り、下限ギリギリまで時間をうまく使い釣り切った。このあたりはまさに試合巧者、今シーズン乗りに乗っているその力を存分に見せつけ、エンディングを迎える。
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終始安定した試合運びで2度目の栄冠を手にした |
試合終了のホーンが鳴り、検量。上田選手18尾、原島選手8尾。上田選手が貫禄を見せ付けて2度目の栄冠を手にした。
かつて「垂直引き(たてびき)」と名付けられた独特の泳がせでマスターズを制した上田選手。しかし、その技はさらに進化していた。「泳がせだけでは勝てない」と引き釣りも取り入れてブラッシュアップ。水中糸はメタルの0.07号と以前と変わらないが、その長さは6mにもおよぶ。同じ立ち位置でも立て竿からベタ竿へ、自在に変化するそのスタイルは、オールラウンドという言葉だけでは片付けられない何かを秘めている。
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30周年記念として、上位4選手には台湾鮎釣りツアーにご招待 |
この30年でアユ釣りの技術はタックルと共に大きく進化した。平均点プラス得意技があれば勝てる時代はとうに過ぎ、これからの30年は、複数の得意技をマスターしなければ勝てない時代へと突入したのだろうか? 胴上げで宙を舞う上田選手が新しい時代の牽引役になることは間違いないだろう。しかし、その役割を担うのは、決して1人ではない。
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